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第34話 そういう星の元に

side中柱白華


「いやぁ今日は良い感じっすねぇ。珍しく特売品が一つも売り切れてなかったし」


 その日、中柱白華は買い物帰りの道を上機嫌に歩いていた。

 両手に膨らんだ袋を下げた様子には、まったく不穏な雰囲気が無い。


「……? なんだろう……静か過ぎるような」


 中柱の住む場所はごく普通の住宅街だ。探索者なら安く住める寮で暮らしている。


 だから、いつも人通りはそれなりに有るのだが。

 不思議となんの気配もしない事に中柱は気づく。


「……」


 不意に、物陰から二つの人影が現れた。

 彼ら二人の内、片方は剣を持っている。

 それだけでは無い、目出し帽を身につけて正体を隠している。


 どう考えても物騒な事態なのは、探索者の中柱で無くとも分かるだろう。


(……人の気配がしなかったのはこいつらが人払いを?)


ボゥッ!


「……ッ!」


 前を警戒していた中柱は背後から迫る音に気づく。


 彼女は大きく横に飛び、何とかそれを逃れた。彼女の視界の端に消えかけの火球が映る。


(音に気づかなければ、この不意打ちで終わっていた)


 中柱の背筋に冷や汗が流れる。

 だが、素早く呼吸を整え、買い物袋を降ろす。

 そして腰の刀を抜いて構えた。


 中柱は前から迫る二人と、不意打ちの魔法を放った後ろの一人を見据える。


(私が気づけないくらいの精鋭が三人……。もしこんな時、主任なら怯まずに立ち向かうだろうな……よし、大丈夫。怖くない。私だってやれる)


「なんなんすか、あんたらは?」


「……!」


VS

謎の襲撃者


カァン!

「……クッ!」


 中柱の問いかけは無視された。


 剣の襲撃者が素早く武器を振り下ろし、中柱は刀で受け止める。


(そこまで正体を知られたくないのか……? けどこの一撃の重さ……間違いなくスキルを使っている!)


 スキルは無言でも発動可能である。代償として効果は下がってしまうが。


「舐めないで欲しいっすね!」


「……!」


 中柱は剣を跳ね返し、切り返しに刀を振るう。


 その反撃を剣の男は躱す。

 しかし、彼が忌々しげにに顔を歪めたのは目出し帽の上からでもハッキリと分かった。


「スキルを使ってるって事は、反社組織か元探索者のゴロツキっすよね……?」


 剣の男を退けたものの、次の瞬間には魔法使いの男が氷や炎の弾丸を放ってくる。


 中柱は平然とそれらを躱していくが、波状攻撃に反撃のタイミングが掴めない。


「……」


 接近戦は不利と見たのか、剣男と素手男は様子を伺っている。


 代わりに、魔法使いが遠距離攻撃を放ち続けていた。中柱はその場でしのぎ続ける。


「……!!」


 状況が動かないことに苛立ったのか、魔法使い男は一際大きな火球を空に浮かべた。

 それは周囲への被害も辞さない強烈な魔法。


(これで勝負を決める気っすね……なら、こっちも出し惜しみは辞めた)


「……!」


「『影踏み』」


 火球が中柱に放たれた瞬間。中柱は影踏みを発動させ、剣男の背後に移動。


「せぇい!」

ズバッ!

「……んなっ!」


 剣の男は驚いていた。


 なぜなら、必殺の魔法が放たれたのにも関わらず、残っていたのは大きな焦げ跡と飛び散った炎だけだったから。


 そのうえ、突然の背後からの急襲。


 剣男はとうとう堪えきれず声を漏らしてしまったばかりか、中柱の斬撃を受けて目出し帽が破られる。


 つまり、剣男の正体は晒された……


「えっ……? なんで……?」


 その明かされた顔は、隠していた顔がバレてしまった男達よりも、むしろ中柱の動揺を誘った。


「お前は……あなたはブラックストームの!」


 その顔は紛れもなく、一級探索者グループ

「ブラックストーム」リーダー、土志炭のものだったからだ。


 ブラックストームは、千擁と雲上が初配信をした時、神陀多沼の命令を受けて襲撃したあの連中だ。


(こいつは千擁主任に返り討ちにされて、探索者資格を剥奪されて刑務所に行ったはずじゃ……?)


 中柱は訳が分からなかった。


 あの配信で彼らが無様にやられるのは見ていたし、その後の顛末も何となく気になって、律儀にニュースを調べていた。


 だからこそ、目の前の男と、知ってる情報の違和感を大きく感じてしまったのだ。


「せいやっ!」

ガスッ!

「……ッ!」


 中柱が固まった一瞬の隙を、素手の男は見逃さなかった。

 彼は中柱の側頭部に蹴りを放ち、彼女を昏倒させる。


「……ああクソッ。なんで俺だけこんな目に……おい、花氏! もっと早く片付けろよ!」


 終わった事を察し、彼らはそれぞれの名前を呼び合うようになった。


 リーダー格の土志炭どしたんがまず怒声を挙げる。


「ぼ、僕は頑張ったよ……君達が不甲斐ないから!」


 魔法使いで、いつも声が震えている花氏はなしが反論した。


「んだと……」


「二人とも落ち着け、仕事はまだ終わってないだろ」


 素手で戦うスキンヘッド、起古河きこかが仲裁に入る。


「……ああ、そうだな。起古河、コイツ生きてるよな? 相当いい蹴りが入ってたように見えたぞ」


「問題無い、威力は調整した」


「チッ……美味しいとこ持っていかれちまった。ところでお前ら、目出し帽の予備持ってないか?」


「あ、ぼ、僕が持ってる」


「なら寄越せ。警察の連中に、俺達が外にいるってバレたら面倒だ」


「この娘が目を覚ましたり、騒ぎが通報されたりする前に運ぶとしよう。俺は運搬用の楽器ケースを持ってくる」


「ああ、さっさとしろよ」


「い、いやぁ……け、刑務所に行かずに済んだのは嬉しいけど……ど、どうしてこんな事を……」


「花氏、説明しただろ……いや、薬漬けの脳みそじゃ覚えてらんないか。これは、灰風会あいつらの命令と、俺達の個人的な復讐の為だっての」


「そ、そうだっけ?」


 こうして中柱は攫われた。

 だが、灰風会と彼らブラックストームの関係はどういう事なのだろうか……?



 次回はブラックストーム&灰風会の回になります。


 ちなみに、ブラックストームについて忘れてしまった人は6〜10話辺りと12話の登場人物説明を読めば思い出せます。

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