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第33話 果たし状

「なんなのアイツら……」


「私怖い……なんとかしてよヨシくん」


「うーん……そうしたいのは山々なんだけどキミと離れたくないんだ……マイハニー」


「ヨシくん……!」


「チッ……なんだってここはイチャイチャする連中ばっかなんだ? おうコラ千擁ァ! 早く出て来いや!」


「騒がしいな。そんなに叫ばなくても聞こえてる。あ、すいませんちょっと退いてください」


「あ、すんません」


 出口前を塞いでいたヨシくんとやらを押しのけ、俺達は騒がしい連中と対峙する。

 ……銀スーツの男を先頭に、10人程の刃物や金属バットやらで武装した男達。


「やっと出てきおったか……」


「なんなんですかこの無粋な連中は?」


 雲上が腹立たしげに言う。

 俺もこんな知り合いは居ないはずだが……ん?


 よく見ると、見覚えのある顔が有るような。

 …………ああ。ここに来る直前、商店街で殴り倒したチンピラだ。


「……まさか灰風会の連中か? 随分派手にやるじゃないか」


 素直に入れば良いものを、コイツらは入口付近の窓を叩き壊して侵入してきている。

 警察なんか怖くないって雰囲気だな。


「察しが良いじゃねえか千擁さんよぉ」


「たかが下っ端がやられた程度でこんな襲撃……ご苦労な事だな」


「はっ、アホらし。こちとらアンタをずっーと探しとったんじゃ。返り討ちにされたんは情けないが……お陰で手間が省けたわ、のう?」


「兄貴……コイツのたまここでとって、帳消しにしてやりますよ」


「気合い入っとるなぁ……けんど、上の命令じゃけ殺すな。ま、死ななければ幾ら痛めつけても問題無し」


 探してた……? そんな事をされる心当たりは無いんだが。


「俺なんかに何の用だよ? わざわざ探す程の」


「そいつをアンタが知る必要は無い。おうお前らぁ! 灰風会の恐ろしさ、このガキに教えたれやぁ!」


「「うおおおお!」」


 銀スーツ男の号令に、部下達は殺気だっている。仕方ない、相手してやるか。

 こっちも俺を狙う理由を聞かなきゃならないしな。


「一般人の皆さんは下がっててください! コイツらは俺達がなんとかします!」


「……あれ? 先輩も戦うんですか?」


「ん? まあ」


「正直、私一人でどうにか出来そうな奴らですし、先輩は休んでて良いですよ。今の先輩は武器も有りませんし」


「刀が無い程度で、こんな連中に遅れを取る気は無い。それに……」


「それに?」


「寝起きの運動にちょうど良いだろ?」


「……たしかに、それもそうですね」


「舐めおって……本気で叩き壊したる。行くでェ!」


VS

灰風会構成員


「うおおおおお!」


 まず俺に向かってきたのは前に倒した奴らの兄貴分だ。

 変わらず刀を持っている奴は、頭に血が登ってるのか真っ直ぐ突撃してきた。


「死ねや千擁ァ!」


「そんなんで当たる訳無いだろ」

バキィ!

「ゲッホア!」

カランカラン!


 大上段から刀が振り下ろされる直前に、渾身の右拳を奴の顔面に叩き込む。

 見事な反撃が決まったようで、奴は鼻血を吹き出し、背中からぶっ倒れた。


「痛ェ……痛ェよお」


 奴は刀も手放し、両手で顔を抑え悶絶している。

 せっかくだ、今度こそあの刀を使わせて貰おう……


「よそ見すなやぁ!」


「とっ!」


 俺が刀を拾うより先に、大将格である銀スーツの男が襲ってきた。

 奴の金属バットの振り回しを、俺は屈んで避ける。


「『叩き潰し』ィ!」


 叩き潰し……たしか『重戦士』のスキルだったか?

 俺は強力な振り下ろし攻撃を横に転がり躱す。


ゴシャア!


 振り下ろしは床に叩きつけられ、大理石の地面が砕け散り陥没した。


「スキル……ど素人って訳じゃないな?」


「今は良い時代や……ちょっとダンジョンに入るだけで、人なら誰でもこんな"力"が手に入るんやからなぁ!」


「はっ……」


 さっき避けるついでに回収した刀を、俺は構えた。


「んなっ……いつの間に!」


「俺は探索者だ。スキルや職業、その専門家の力を教えてやる」


「余裕かましおって! 『叩き潰し』ィ!」


 銀スーツ男は、先手を打とうとスキルを使用。


「『刃返し』」

カァン!


 振り下ろされた金属バットを刃返しで弾く。それだけでは終わらせない。


「……そしてこうだ」


 刃返しは弾きのスキルだ……相手の攻撃を跳ね返す以外の挙動はしない。

 だから、俺は刃返しが終わると同時に、金属バットに向かって、を放つ。


「……っ!? ワシのバットが!?」


「さあ、まだやるか?」


 俺の斬撃を受け、金属バットは根元から切り落とされた。男の手には持ち手だけが残される。

 これで、とても武器としては使えまい。


「くっ……オラァ!」


「はっ!」


 銀スーツ男は金属バットの持ち手をこちらに投げつけてきた。

 俺はそれを刀で弾き飛ばすが。


「『体当たり』!」


「くっ!」


 スキルによる高速の突進が襲い来る。

 突進自体は峰打ちで殴り止めたものの。止められて直ぐに、奴は俺に組み付いてくる。


「うおお……!」


「往生際の悪い……!」


 俺は右手の刀を投げ捨てた。

 そして、銀スーツ男の身体をつかみ返す。


「せい、やぁ!」


「なっ……! アホな……!

ビタン!

「ゴハァ!!」


 俺は銀スーツ男を逆に持ち上げ、地面に向かって投げ飛ばした。

 奴は背中から石の床に叩きつけられ、悶絶している。


「スキルは強力だが。素の実力を軽視するとこうなるんだよ」


 俺は倒れた奴の胸ぐらを掴む。トドメを刺さないのは、コイツから聞きたい事が有るからだ。


「そういえば他は……」


 目線を移すと、雲上の糸に絡め取られて地面に転がるチンピラ連中が写った。

 向こうは大丈夫そうだな……


「おい。何の為に俺を狙った?」


「し、知らんわ! 俺達は上の命令を受けとるだけや! 『千擁四郎を生け捕りにしろ』っちゅうな!」


「……本当にそれ以上何も知らないのか?」


「知らんゆーとるやろ!」


「じゃあ寝とけ」


「ゴフッ!」


 俺は左拳を銀スーツの顔面に打ち込み、奴の意識を奪った。


「先輩、こっちは終わりましたよー」


「ああ、俺の方も終わった。……なんでか分からないが、俺は灰風会の上層部に狙われているらしい」


「やたら追われる人ですねぇ先輩は……」


「その筆頭は君だぞ?」


「……ともかく、施設の人が警察に連絡済みらしいです」


「ああ……事情聴取を受けなきゃいけないな」



「……今回は早めに終わったな」


 ちょうど日が沈むくらいの時間。俺は帰宅した。

 一方的に襲われただけだったせいか、事情聴取は早めに終わってくれた。


「それにしてもなぁ……」


 こっちからも色々聞いたが、警察は『灰風会は最近勢いづいてる組織らしい』という事以外は何も教えてくれなかった。


「とりあえず風呂にでも……ん?」


 服を脱ごうとした時、カサっとした感覚がした。

 自分の身体を調べると、『千擁四郎へ』と書かれた封筒が服の間に挟まっているではないか。


「封筒なんてこの時代に珍しい……」


 それにしてもいつこんな物が……もしかして、あの銀スーツと取っ組み合った時か? やってくれる……。


「中身は……これまた前時代的な手紙だ」


 封筒の中身には、文字が印刷された手紙が入っていた。

 えっとなになに……


『千擁四郎に告ぐ、中柱白華の身柄は預かった。彼女が大事なら明日8時####に一人で来い。言うまでもないと思うが、警察や周りの連中に言えば彼女の安全は保証出来ない。肝に銘じておけ』


「なんだと……!」


 手紙の内容は脅迫状そのものだった。####という住所も書かれている。


「これは……」


 封筒の中には、更に写真が数枚入っていた。

 写真には座敷牢の様な場所に布団で包まれにされて転がされた中柱が写っている。


「たちの悪いイタズラ……って線は無いよな。手紙の出処からしても」


 灰風会の奴ら……。

 しかし、どうも合点が行かない。


 俺と灰風会が知り合ったのは今日の昼だ。

 そんな短時間で中柱の誘拐まで漕ぎ着けられるか? ……どうも灰風会の上層部の奴らは俺を前から知っていたようだし……。


「クソッ……何にしても、明日奴らに聞くしかないか」


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