「なんなのアイツら……」
「私怖い……なんとかしてよヨシくん」
「うーん……そうしたいのは山々なんだけどキミと離れたくないんだ……マイハニー」
「ヨシくん……!」
「チッ……なんだってここはイチャイチャする連中ばっかなんだ? おうコラ千擁ァ! 早く出て来いや!」
「騒がしいな。そんなに叫ばなくても聞こえてる。あ、すいませんちょっと退いてください」
「あ、すんません」
出口前を塞いでいたヨシくんとやらを押しのけ、俺達は騒がしい連中と対峙する。
……銀スーツの男を先頭に、10人程の刃物や金属バットやらで武装した男達。
「やっと出てきおったか……」
「なんなんですかこの無粋な連中は?」
雲上が腹立たしげに言う。
俺もこんな知り合いは居ないはずだが……ん?
よく見ると、見覚えのある顔が有るような。
…………ああ。ここに来る直前、商店街で殴り倒したチンピラだ。
「……まさか灰風会の連中か? 随分派手にやるじゃないか」
素直に入れば良いものを、コイツらは入口付近の窓を叩き壊して侵入してきている。
警察なんか怖くないって雰囲気だな。
「察しが良いじゃねえか千擁さんよぉ」
「たかが下っ端がやられた程度でこんな襲撃……ご苦労な事だな」
「はっ、アホらし。こちとらアンタをずっーと探しとったんじゃ。返り討ちにされたんは情けないが……お陰で手間が省けたわ、のう?」
「兄貴……コイツの
「気合い入っとるなぁ……けんど、上の命令じゃけ殺すな。ま、死ななければ幾ら痛めつけても問題無し」
探してた……? そんな事をされる心当たりは無いんだが。
「俺なんかに何の用だよ? わざわざ探す程の」
「そいつをアンタが知る必要は無い。おうお前らぁ! 灰風会の恐ろしさ、このガキに教えたれやぁ!」
「「うおおおお!」」
銀スーツ男の号令に、部下達は殺気だっている。仕方ない、相手してやるか。
こっちも俺を狙う理由を聞かなきゃならないしな。
「一般人の皆さんは下がっててください! コイツらは俺達がなんとかします!」
「……あれ? 先輩も戦うんですか?」
「ん? まあ」
「正直、私一人でどうにか出来そうな奴らですし、先輩は休んでて良いですよ。今の先輩は武器も有りませんし」
「刀が無い程度で、こんな連中に遅れを取る気は無い。それに……」
「それに?」
「寝起きの運動にちょうど良いだろ?」
「……たしかに、それもそうですね」
「舐めおって……本気で叩き壊したる。行くでェ!」
VS
灰風会構成員
「うおおおおお!」
まず俺に向かってきたのは前に倒した奴らの兄貴分だ。
変わらず刀を持っている奴は、頭に血が登ってるのか真っ直ぐ突撃してきた。
「死ねや千擁ァ!」
「そんなんで当たる訳無いだろ」
バキィ!
「ゲッホア!」
カランカラン!
大上段から刀が振り下ろされる直前に、渾身の右拳を奴の顔面に叩き込む。
見事な反撃が決まったようで、奴は鼻血を吹き出し、背中からぶっ倒れた。
「痛ェ……痛ェよお」
奴は刀も手放し、両手で顔を抑え悶絶している。
せっかくだ、今度こそあの刀を使わせて貰おう……
「よそ見すなやぁ!」
「とっ!」
俺が刀を拾うより先に、大将格である銀スーツの男が襲ってきた。
奴の金属バットの振り回しを、俺は屈んで避ける。
「『叩き潰し』ィ!」
叩き潰し……たしか『重戦士』のスキルだったか?
俺は強力な振り下ろし攻撃を横に転がり躱す。
ゴシャア!
振り下ろしは床に叩きつけられ、大理石の地面が砕け散り陥没した。
「スキル……ど素人って訳じゃないな?」
「今は良い時代や……ちょっとダンジョンに入るだけで、人なら誰でもこんな"力"が手に入るんやからなぁ!」
「はっ……」
さっき避けるついでに回収した刀を、俺は構えた。
「んなっ……いつの間に!」
「俺は探索者だ。スキルや職業、その専門家の力を教えてやる」
「余裕かましおって! 『叩き潰し』ィ!」
銀スーツ男は、先手を打とうとスキルを使用。
「『刃返し』」
カァン!
振り下ろされた金属バットを刃返しで弾く。それだけでは終わらせない。
「……そしてこうだ」
刃返しは弾きのスキルだ……相手の攻撃を跳ね返す以外の挙動はしない。
だから、俺は刃返しが終わると同時に、金属バットに向かって、
「……っ!? ワシのバットが!?」
「さあ、まだやるか?」
俺の斬撃を受け、金属バットは根元から切り落とされた。男の手には持ち手だけが残される。
これで、とても武器としては使えまい。
「くっ……オラァ!」
「はっ!」
銀スーツ男は金属バットの持ち手をこちらに投げつけてきた。
俺はそれを刀で弾き飛ばすが。
「『体当たり』!」
「くっ!」
スキルによる高速の突進が襲い来る。
突進自体は峰打ちで殴り止めたものの。止められて直ぐに、奴は俺に組み付いてくる。
「うおお……!」
「往生際の悪い……!」
俺は右手の刀を投げ捨てた。
そして、銀スーツ男の身体をつかみ返す。
「せい、やぁ!」
「なっ……! アホな……!
ビタン!
「ゴハァ!!」
俺は銀スーツ男を逆に持ち上げ、地面に向かって投げ飛ばした。
奴は背中から石の床に叩きつけられ、悶絶している。
「スキルは強力だが。素の実力を軽視するとこうなるんだよ」
俺は倒れた奴の胸ぐらを掴む。トドメを刺さないのは、コイツから聞きたい事が有るからだ。
「そういえば他は……」
目線を移すと、雲上の糸に絡め取られて地面に転がるチンピラ連中が写った。
向こうは大丈夫そうだな……
「おい。何の為に俺を狙った?」
「し、知らんわ! 俺達は上の命令を受けとるだけや! 『千擁四郎を生け捕りにしろ』っちゅうな!」
「……本当にそれ以上何も知らないのか?」
「知らんゆーとるやろ!」
「じゃあ寝とけ」
「ゴフッ!」
俺は左拳を銀スーツの顔面に打ち込み、奴の意識を奪った。
「先輩、こっちは終わりましたよー」
「ああ、俺の方も終わった。……なんでか分からないが、俺は灰風会の上層部に狙われているらしい」
「やたら追われる人ですねぇ先輩は……」
「その筆頭は君だぞ?」
「……ともかく、施設の人が警察に連絡済みらしいです」
「ああ……事情聴取を受けなきゃいけないな」
*
「……今回は早めに終わったな」
ちょうど日が沈むくらいの時間。俺は帰宅した。
一方的に襲われただけだったせいか、事情聴取は早めに終わってくれた。
「それにしてもなぁ……」
こっちからも色々聞いたが、警察は『灰風会は最近勢いづいてる組織らしい』という事以外は何も教えてくれなかった。
「とりあえず風呂にでも……ん?」
服を脱ごうとした時、カサっとした感覚がした。
自分の身体を調べると、『千擁四郎へ』と書かれた封筒が服の間に挟まっているではないか。
「封筒なんてこの時代に珍しい……」
それにしてもいつこんな物が……もしかして、あの銀スーツと取っ組み合った時か? やってくれる……。
「中身は……これまた前時代的な手紙だ」
封筒の中身には、文字が印刷された手紙が入っていた。
えっとなになに……
『千擁四郎に告ぐ、中柱白華の身柄は預かった。彼女が大事なら明日8時####に一人で来い。言うまでもないと思うが、警察や周りの連中に言えば彼女の安全は保証出来ない。肝に銘じておけ』
「なんだと……!」
手紙の内容は脅迫状そのものだった。####という住所も書かれている。
「これは……」
封筒の中には、更に写真が数枚入っていた。
写真には座敷牢の様な場所に布団で包まれ
「たちの悪いイタズラ……って線は無いよな。手紙の出処からしても」
灰風会の奴ら……。
しかし、どうも合点が行かない。
俺と灰風会が知り合ったのは今日の昼だ。
そんな短時間で中柱の誘拐まで漕ぎ着けられるか? ……どうも灰風会の上層部の奴らは俺を前から知っていたようだし……。
「クソッ……何にしても、明日奴らに聞くしかないか」