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第31話 想像力

「と、言う訳で。ここが目的地です」


「ここは……」


 雲上に連れてこられたのは、大型商業施設の一角。巨大半球状ドームだった。


「プラネタリウムって奴です。ちなみに先輩、星や宇宙に興味は?」


「……寝れない時に夜空を見上げる程度だな。真面目に勉強した事は無い」


「なるほどなるほど……良いじゃあないですか」


「どういう考えなのか分からないな……」


「プラネタリウム見る時ってどういう環境ですか?」


「経験は無いが……暗い部屋で、楽な体勢のまま映し出された星を見るんじゃなかったか?」


「そう! その通りです! そしてそのオマケに全く興味の無い解説を延々と聞かされる……先輩の様な24時間労働戦士でも寝落ちするしかないって訳ですね!」


 意外と真面目に俺を休ませるよう考えてくれてたんだな……。俺の事を何か勘違いしてる気がするが。


「なんで人を休ませるのにプラネタリウムを選んだのかと思ったが、そんな理由が……」


「はい! 早速行きますよ!」


 雲上が半球状ドームに入るのに、俺も続く。


「いらっしゃいませ、お客様、ご予約等は?」


「ありません。カップルチケット1枚で」


「かしこまりました」


(待て……俺たちは恋人同士じゃないだろ)


(この方が色々お得なんですよ! それに……いや、これ以上言うのは野暮ですね。先輩は乙女心というものを学んでください)


(……俺は君に常識の大切さを学んで欲しいよ)



「……こいつは」


「どうしました先輩?」


 わざとらしい声色の雲上は、してやったりと言いたげな顔をしていた。

 プラネタリウム会場に案内された俺達を待っていたのは。

 やや広めの寝台……つまりダブルサイズベッドだった。


「最初からこれが狙いだったのか?」


「……♪」


 俺の質問には答えず、ベッドに横たわる雲上。

 周りを見れば次々と恋人達が同じ様に寝転び、添い寝をしながらこれからのプラネタリウムを待ちわびている。


「……くっ」


 ……色々言いたい事は有るが。逃げるという選択肢は取りたくない。


「ええいままよ!」


 全身をベッドに放り投げ、脱力する。

 やがて段々と辺りは暗くなっていき、星について解説する音声が流れ始めた。


 そう、これでいい。これでいいのだ。

 元々休ませて貰いに来たんだし、自分の意識を落とす事に集中しろ。


 ……それにしても、暖かいな。思い返すと二人以上で寝るなんてそれこそ20年振りくらいじゃないか? 相手が違えばもう少し心穏やかだったかもしれないが……


ムギュ。


 なんか右腕の方に柔らかい、抱きつかれたような感触が……!? いや意識するな……目を閉じて……何も分からない……分からないという事にしておく。


ムニッ。


 本格的にまずい触感と予感がして来た……早く寝てくれ自分……! 


 俺の人生でここまで必死に寝ようとした事があっただろうか……!?

 まさかこんな風に必死になる事も雲上の作戦の内なのか……?


 そんな風に自分の理性と必死に戦っている内に、俺の意識は何とか夢の中へと落ちていき……

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