「と、言う訳で。ここが目的地です」
「ここは……」
雲上に連れてこられたのは、大型商業施設の一角。巨大半球状ドームだった。
「プラネタリウムって奴です。ちなみに先輩、星や宇宙に興味は?」
「……寝れない時に夜空を見上げる程度だな。真面目に勉強した事は無い」
「なるほどなるほど……良いじゃあないですか」
「どういう考えなのか分からないな……」
「プラネタリウム見る時ってどういう環境ですか?」
「経験は無いが……暗い部屋で、楽な体勢のまま映し出された星を見るんじゃなかったか?」
「そう! その通りです! そしてそのオマケに全く興味の無い解説を延々と聞かされる……先輩の様な24時間労働戦士でも寝落ちするしかないって訳ですね!」
意外と真面目に俺を休ませるよう考えてくれてたんだな……。俺の事を何か勘違いしてる気がするが。
「なんで人を休ませるのにプラネタリウムを選んだのかと思ったが、そんな理由が……」
「はい! 早速行きますよ!」
雲上が半球状ドームに入るのに、俺も続く。
「いらっしゃいませ、お客様、ご予約等は?」
「ありません。カップルチケット1枚で」
「かしこまりました」
(待て……俺たちは恋人同士じゃないだろ)
(この方が色々お得なんですよ! それに……いや、これ以上言うのは野暮ですね。先輩は乙女心というものを学んでください)
(……俺は君に常識の大切さを学んで欲しいよ)
*
「……こいつは」
「どうしました先輩?」
わざとらしい声色の雲上は、してやったりと言いたげな顔をしていた。
プラネタリウム会場に案内された俺達を待っていたのは。
やや広めの寝台……つまりダブルサイズベッド
「最初からこれが狙いだったのか?」
「……♪」
俺の質問には答えず、ベッドに横たわる雲上。
周りを見れば次々と恋人達が同じ様に寝転び、添い寝をしながらこれからのプラネタリウムを待ちわびている。
「……くっ」
……色々言いたい事は有るが。逃げるという選択肢は取りたくない。
「ええいままよ!」
全身をベッドに放り投げ、脱力する。
やがて段々と辺りは暗くなっていき、星について解説する音声が流れ始めた。
そう、これでいい。これでいいのだ。
元々休ませて貰いに来たんだし、自分の意識を落とす事に集中しろ。
……それにしても、暖かいな。思い返すと二人以上で寝るなんてそれこそ20年振りくらいじゃないか? 相手が違えばもう少し心穏やかだったかもしれないが……
ムギュ。
なんか右腕の方に柔らかい、抱きつかれたような感触が……!? いや意識するな……目を閉じて……何も分からない……分からないという事にしておく。
ムニッ。
本格的にまずい触感と予感がして来た……早く寝てくれ自分……!
俺の人生でここまで必死に寝ようとした事があっただろうか……!?
まさかこんな風に必死になる事も雲上の作戦の内なのか……?
そんな風に自分の理性と必死に戦っている内に、俺の意識は何とか夢の中へと落ちていき……