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第30話 見逃せない

side千擁四郎


 現在は、俺が倒れて病院に運ばれてから10日目。なんとなくジッとしていられなくて、街の商店街を歩いていたのだが……


「おうコラガキィ! てめぇ何処に目つけとんじゃ!」


「あーあ、最高級ブランドのズボンがタピオカミルクティーでビチョビチョじゃねぇか! クリーニング代出せやおらぁ!」


「あばばばばばばばばば……」


「見てアレ……」「やあねぇ……」「誰か警察呼んだら?」


 今どき珍しいくらい古典的なカツアゲ現場に遭遇してしまった。周りの見てしまった以上助けるしかないか。


「おい、子供相手に情けないと思わないのか?」


「あぁん!? なんだぁてめぇは?」


「通りすがりだよ。……最初から見てたが、お前たちの方からその子にぶつかりにいってたじゃないか」


「うるるっせえ奴だなぁ!? ッ正義の味方ぶりやがってよお。兄貴、こいつシメますか? シメますよね?」


「ああ。俺たち灰風会の恐ろしさを……」


 灰風会? そういえば最近そんな反社組織が勢いついてると聞いたな。だが、組織に所属してまでカツアゲとは……。

 いや、これ以上言うまい。


「ん……待て、コイツ何処かで見たこと……あっ!!」


 兄貴分らしき男が、俺の顔を眺めて驚いた。


「今をときめく千擁四郎様じゃあねえの……こんなとこで会えるなんてな」


「……一方的に知られてるってのはあんまりいい気味しないな」


「確かこの前ぶっ倒れてたし……オマケに刀も持ってねぇなあ?」


「だったらどうした?」


「本調子じゃなかろうが素手だろうが……あの千擁四郎を倒したとなりゃあ俺達にも箔が付くってもんだ! おい、本気でやるぞ!」


 兄貴分の方は刀を抜き、子分の方は短刀……ドスを取り出す。

 穏便な解決は無理か……やるしかなさそうだな。


「そこの君はさっさと逃げな。お兄さんがコイツらの相手しとくから」


「は、はいいい!」


 とりあえず子供を逃がし、俺も素手だが構える。地力の差を教えてやるか。


「死ねやぁ! 千擁四郎ぅぅぅぅ!」


VS

灰風会構成員


「『半月切クレセントスラッシュり』!」


「おっと」


 いきなり、鋭い刀の斬撃が繰り出される。俺は一歩下がって躱す。

 スキルからして……剣士系の職業で、練度は高く無さそうだ。良くて二次職って所か。


「なんだその程度か?」


「てめぇ!」


 軽く煽ると、兄貴分の男はまんまと挑発に乗せられた。

 大上段に切り込んできた所を……


「そらっ!」

カンッ!


 間合いを詰め、刀を握る手を蹴り上げる。すると、奴の手から刀が弾き出された。刀はクルクルと飛び、遠くの地面に突き刺さる。


 っと、少し強く蹴りすぎたな……刀を奪えたら最高だったんだが。

 まあ、武装解除が出来ただけ良し。


「なっ!? 俺の日本刀が……!」


「武器を見てる場合か?」


「グハァッ!!」


 武器を失い、とまどう兄貴分の腹に蹴りをねじ込む。

 まともに喰らった奴は、派手に吹っ飛び倒れた。


「あ、兄貴!?」


 子分が驚いた声を挙げる。慕っていた兄貴がやられるのは予想外だったらしい。


「こ、この野郎!」


 子分はスキルも無しに短刀を突き出すが……俺は見切って躱した。横腹を刃が掠める。


「そんなんじゃ避けてくださいって言ってるようなもんだな」


「て、てめぇ……」


 突き出された腕を掴み……肘関節に拳を叩き込む。


「がっ!」


 子分は短刀を取り落とし、苦悶の声を挙げる。


「じゃあな」


「ゴフウッ!」


 続いて顎に拳を叩き込むと、子分は白目を向いて気絶した。


「……ま、良い運動になったな」


「おおおお!」


 見物人達からパチパチと拍手が上がる。……少し照れくさい。

 ん? なんか一人近づいて来てるような。


「せーんーぱーいー? 随分なご活躍ですねぇ?」


「……雲上。こんな所で会うとは奇遇だな」


 どうしてここにいるのかは分からないが、近づいてきたのは雲上だった。

 ……なんだろう、どことなく怒っているような気配がする。


「先輩。みんなからなんて言われてましたっけ?」


「……休めと言われてたな」


「今してたのは?」


「人助け……」


「綺麗に言うとそうですね。……で、この倒れてる二人はどうしたんですか?」


「喧嘩で……倒しました」


「休養言い渡された人間のすることですか! いや、人助けは偉いんですけども!」


 年下に真面目な説教をされてしまった……。


「っていうかここ10日間くらいまともに休んでませんよね? 毎日何かしら人助けなり、筋トレなり、あてもなくうろついたり……」


「確かにそんな日々だったが……何で知ってるんだ?」


「前にも言いましたけど、私は先輩の事なら何でも分かるんですよ」


 雲上はそう言うと、俺の腕を掴む。前にもこんな展開があったような……


「今度は何処に連れてくんだ?」


「おっ、察しが良いですね。このまま先輩を放っておいたらまともに休みそうもないんで、強制的に休ませます。入院とかじゃなく、女の子とデートですよ。良かったですね」


 申し出は有り難いが……。未成年と成人男性がデートというのは、なんというか……物凄くよろしくない感じがする。


「……ちなみに断ると言ったら?」


「ちょっと強硬手段を」


 雲上は懐から怪しい小瓶を取り出した。

 ……小瓶には、黄色や緑色に輝く怪しい液体が詰まっている。

 どう考えても良い予感がしない。


「……分かった、分かった。大人しく従うよ、今回は俺が悪いしな……」


「しゃあ! 行きますよ!」

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