side千擁四郎
現在は、俺が倒れて病院に運ばれてから10日目。なんとなくジッとしていられなくて、街の商店街を歩いていたのだが……
「おうコラガキィ! てめぇ何処に目つけとんじゃ!」
「あーあ、最高級ブランドのズボンがタピオカミルクティーでビチョビチョじゃねぇか! クリーニング代出せやおらぁ!」
「あばばばばばばばばば……」
「見てアレ……」「やあねぇ……」「誰か警察呼んだら?」
今どき珍しいくらい古典的なカツアゲ現場に遭遇してしまった。周りの見てしまった以上助けるしかないか。
「おい、子供相手に情けないと思わないのか?」
「あぁん!? なんだぁてめぇは?」
「通りすがりだよ。……最初から見てたが、お前たちの方からその子にぶつかりにいってたじゃないか」
「うるるっせえ奴だなぁ!? ッ正義の味方ぶりやがってよお。兄貴、こいつシメますか? シメますよね?」
「ああ。俺たち灰風会の恐ろしさを……」
灰風会? そういえば最近そんな反社組織が勢いついてると聞いたな。だが、組織に所属してまでカツアゲとは……。
いや、これ以上言うまい。
「ん……待て、コイツ何処かで見たこと……あっ!!」
兄貴分らしき男が、俺の顔を眺めて驚いた。
「今をときめく千擁四郎様じゃあねえの……こんなとこで会えるなんてな」
「……一方的に知られてるってのはあんまりいい気味しないな」
「確かこの前ぶっ倒れてたし……オマケに刀も持ってねぇなあ?」
「だったらどうした?」
「本調子じゃなかろうが素手だろうが……あの千擁四郎を倒したとなりゃあ俺達にも箔が付くってもんだ! おい、本気でやるぞ!」
兄貴分の方は刀を抜き、子分の方は短刀……ドスを取り出す。
穏便な解決は無理か……やるしかなさそうだな。
「そこの君はさっさと逃げな。お兄さんがコイツらの相手しとくから」
「は、はいいい!」
とりあえず子供を逃がし、俺も素手だが構える。地力の差を教えてやるか。
「死ねやぁ! 千擁四郎ぅぅぅぅ!」
VS
灰風会構成員
「『
「おっと」
いきなり、鋭い刀の斬撃が繰り出される。俺は一歩下がって躱す。
スキルからして……剣士系の職業で、練度は高く無さそうだ。良くて二次職って所か。
「なんだその程度か?」
「てめぇ!」
軽く煽ると、兄貴分の男はまんまと挑発に乗せられた。
大上段に切り込んできた所を……
「そらっ!」
カンッ!
間合いを詰め、刀を握る手を蹴り上げる。すると、奴の手から刀が弾き出された。刀はクルクルと飛び、遠くの地面に突き刺さる。
っと、少し強く蹴りすぎたな……刀を奪えたら最高だったんだが。
まあ、武装解除が出来ただけ良し。
「なっ!? 俺の日本刀が……!」
「武器を見てる場合か?」
「グハァッ!!」
武器を失い、とまどう兄貴分の腹に蹴りをねじ込む。
まともに喰らった奴は、派手に吹っ飛び倒れた。
「あ、兄貴!?」
子分が驚いた声を挙げる。慕っていた兄貴がやられるのは予想外だったらしい。
「こ、この野郎!」
子分はスキルも無しに短刀を突き出すが……俺は見切って躱した。横腹を刃が掠める。
「そんなんじゃ避けてくださいって言ってるようなもんだな」
「て、てめぇ……」
突き出された腕を掴み……肘関節に拳を叩き込む。
「がっ!」
子分は短刀を取り落とし、苦悶の声を挙げる。
「じゃあな」
「ゴフウッ!」
続いて顎に拳を叩き込むと、子分は白目を向いて気絶した。
「……ま、良い運動になったな」
「おおおお!」
見物人達からパチパチと拍手が上がる。……少し照れくさい。
ん? なんか一人近づいて来てるような。
「せーんーぱーいー? 随分なご活躍ですねぇ?」
「……雲上。こんな所で会うとは奇遇だな」
どうしてここにいるのかは分からないが、近づいてきたのは雲上だった。
……なんだろう、どことなく怒っているような気配がする。
「先輩。みんなからなんて言われてましたっけ?」
「……休めと言われてたな」
「今してたのは?」
「人助け……」
「綺麗に言うとそうですね。……で、この倒れてる二人はどうしたんですか?」
「喧嘩で……倒しました」
「休養言い渡された人間のすることですか! いや、人助けは偉いんですけども!」
年下に真面目な説教をされてしまった……。
「っていうかここ10日間くらいまともに休んでませんよね? 毎日何かしら人助けなり、筋トレなり、あてもなくうろついたり……」
「確かにそんな日々だったが……何で知ってるんだ?」
「前にも言いましたけど、私は先輩の事なら何でも分かるんですよ」
雲上はそう言うと、俺の腕を掴む。前にもこんな展開があったような……
「今度は何処に連れてくんだ?」
「おっ、察しが良いですね。このまま先輩を放っておいたらまともに休みそうもないんで、強制的に休ませます。入院とかじゃなく、女の子とデートですよ。良かったですね」
申し出は有り難いが……。未成年と成人男性がデートというのは、なんというか……物凄くよろしくない感じがする。
「……ちなみに断ると言ったら?」
「ちょっと強硬手段を」
雲上は懐から怪しい小瓶を取り出した。
……小瓶には、黄色や緑色に輝く怪しい液体が詰まっている。
どう考えても良い予感がしない。
「……分かった、分かった。大人しく従うよ、今回は俺が悪いしな……」
「しゃあ! 行きますよ!」