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第27話 夕暮れの影

VS 輝点平原頂点捕食者

死骸喰いのつがい


「……アイツ等は空を飛ぶ、一方的な展開にされる前に片付けるのが理想だ」


 なんとも緊張感無く戦いが始まった。


 だが、相手の強さは本物だ。気を抜くつもりは無い……


「『辻風』!」


ブォウ!


 俺は相手が動く前に斬撃を飛ばす。狙いは地上に立つオークを食い殺した方の個体だ。

 が、当たる寸前に死骸喰いは飛び、斬撃を躱す。


「……そう思い通りにはいかないな」


 空中に逃げられてしまった以上、こちらが少し不利か……?


「ふふふ……私は『愛の天使』。私も空はテリトリーですよ!」


 雲上は翼をはためかせ、空に舞い上がる。なるほど彼女の能力なら空中戦も万全だな。


〈空中戦もこなせるのは明確な強みだよなぁ〉

〈ていうか特級の戦闘シーンとか貴重映像だな〉

〈カメラさんもうちょっと上〉


「カァ……」


「ほっ!」


「雲上! こいつらの噛みつきには気をつけろ! オークの首が持ってかれるんだ、人間なんて上半身ごと持ってかれるぞ!」


「心配要りませんって!」


 雲上は包丁を召喚した、そして持ち手に糸を巻き付ける。


「せーのっ!」

ザシュ!

「カァ……!?」


 雲上は包丁から手を離し、糸を使って振り回す。すると、包丁は広範囲の円を描き、僅かに死骸喰いを傷つけた。


 包丁は早いが、射程が短い。その欠点を糸によって補う。この前の配信でも行っていたし、あれが彼女の基本の戦い方なのだろう。


「ちっ……もう少し深く当てるつもりだったんですけど」


「カァ!」


 どうやらあの小さい方の死骸喰いは雲上に集中したようだ。


「羨ましいっすね……自分も飛べれば……」


「ああ、俺達は地に足つけて戦おうか。……それに暇は出来そうに無い」


「カァァァァァァァ!!!」


 俺達は大きい方のカラスと対峙する。

 奴は一際大きく鳴いた。すると何処からか魔物達が集まってくる。


「カァ……」

「GRRRR……」


 大きさこそ小さいが同じカラスの魔物や、オーク……簡単には行かなさそうだ。


「……何があっても隙を晒さない様に。奴は俺達が雑魚の相手で疲弊した所を狙ってくるはずだ」


「了解っす!」


 中柱は早速突撃していく。


〈このカラス周りの魔物呼び寄せんの!?〉

〈うわ雑魚召喚とかダル〉

〈ボスの中でもウザイ寄りの奴だ〉

〈頑張れ中柱ちゃんー〉

〈雲上に出番で負けたくないのか張り切ってんな〉


「さて、俺もやれる事を……」


 俺は集まってきた魔物を切り捨ててながら、隙を見て「辻風」を死骸喰いに向かって放つ。


「カァ……♩」


「余裕そうに避けてくれる」


 中々当たってくれないが、とりあえず奴の攻撃を防げれば良い。話は雑魚を片付けてからだ。


ザンッ!

「グギャア!」

「これで20体目……中柱! そっちはどう……」


 声を挙げようとした。したのだが、声が出なくなる。


「……!?」


 いきなり全身の力が抜けて、刀を杖代わりにしてどうにか倒れ込まずに済む。

 なんだ……こんな急に……? アイツの能力か……?


「主任!?」「先輩!」


〈千擁先輩どうした!?〉

〈顔真っ白だぞ!〉

〈なんか道中調子悪そうだったけど……〉

〈踏ん張ってくれ!〉


「♩……カァァ!!!」


 仲間の二人だけならまだしも。死骸喰いの奴も俺の様子がおかしいのに気づいたらしい。奴は素早く急降下し、こちらに飛びかかってくる!

 ……このままやられてたまるか!


「んの……! 『刃返し』!」


「グギャ!!?」


 俺は気力を振り絞り、体を動かした。地面に突き刺した刀を抜き、刃返しを死骸喰いのクチバシに喰らわせる。

 死骸喰いのクチバシは砕け散り、奴は俺の身体を食い損ねた。


 ようやくコイツに反撃できたな……不幸中の幸い飛ばすこの事か。


「ハァ……ハァ……」


 …………大丈夫だ。身体は動かせる。


「主任!」


 中柱が血相を変えて俺の隣まで戻ってきた。


「中柱……敵は?」


「それは全員片付けたっすけど……それより体調は!?」


「問題無い……少しフラついただけで……戦える」


「絶対そんな軽い問題じゃないっすよ!」


「先輩……! とっとと終わらせる……!」


 雲上は包丁を再び握り直すと、戦い方を変えた。

 先程までの射程を生かした戦いから、自分も痛手を負う覚悟の接近戦に。


「……ッ!」

ザスッ

「カ……!」


 勝負は一瞬で着いた。

 雲上の両手を添えた全力の突き刺しが、死骸喰いの胴体を捉える。


「さようなら」


「グカア……!」


 雲上が包丁を引き抜けば派手に血が吹き出し、死骸喰いは墜落していく。

 間違いなく致命傷だろう。となれば、残りの敵は俺がクチバシを砕いた方の死骸喰いだけだ。


「負けて……られないな。『気合い』」


 かなり久しぶりに、俺は侍のスキル「気合い」を発動した。

 重い身体をこれで動かす……!


〈おお聞き覚えのあるスキル〉

〈けどなんでこの状況でバフ系スキル〉

〈一応気合いには状態異常軽減の効果が有るから、千擁の異常が魔物由来なら楽になるはずだけど……〉


「……はぁっ!!」

タンッ!


 俺は渾身の力を両足に込めて、飛び上がる。


〈ジャンプ!?〉

〈なんか10mくらい飛んでね?〉

〈やっぱ心配要らなかったかもしれない〉

〈気合いだけで空を飛ぶな〉

〈侍を何か勘違いしてない?〉

〈『気合い』ってそんな強化幅大きくなかったはずなんだけどなぁ……〉

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