VS 輝点平原頂点捕食者
死骸喰いの
「……アイツ等は空を飛ぶ、一方的な展開にされる前に片付けるのが理想だ」
なんとも緊張感無く戦いが始まった。
だが、相手の強さは本物だ。気を抜くつもりは無い……
「『辻風』!」
ブォウ!
俺は相手が動く前に斬撃を飛ばす。狙いは地上に立つオークを食い殺した方の個体だ。
が、当たる寸前に死骸喰いは飛び、斬撃を躱す。
「……そう思い通りにはいかないな」
空中に逃げられてしまった以上、こちらが少し不利か……?
「ふふふ……私は『愛の天使』。私も空はテリトリーですよ!」
雲上は翼をはためかせ、空に舞い上がる。なるほど彼女の能力なら空中戦も万全だな。
〈空中戦もこなせるのは明確な強みだよなぁ〉
〈ていうか特級の戦闘シーンとか貴重映像だな〉
〈カメラさんもうちょっと上〉
「カァ……」
「ほっ!」
「雲上! こいつらの噛みつきには気をつけろ! オークの首が持ってかれるんだ、人間なんて上半身ごと持ってかれるぞ!」
「心配要りませんって!」
雲上は包丁を召喚した、そして持ち手に糸を巻き付ける。
「せーのっ!」
ザシュ!
「カァ……!?」
雲上は包丁から手を離し、糸を使って振り回す。すると、包丁は広範囲の円を描き、僅かに死骸喰いを傷つけた。
包丁は早いが、射程が短い。その欠点を糸によって補う。この前の配信でも行っていたし、あれが彼女の基本の戦い方なのだろう。
「ちっ……もう少し深く当てるつもりだったんですけど」
「カァ!」
どうやらあの小さい方の死骸喰いは雲上に集中したようだ。
「羨ましいっすね……自分も飛べれば……」
「ああ、俺達は地に足つけて戦おうか。……それに暇は出来そうに無い」
「カァァァァァァァ!!!」
俺達は大きい方のカラスと対峙する。
奴は一際大きく鳴いた。すると何処からか魔物達が集まってくる。
「カァ……」
「GRRRR……」
大きさこそ小さいが同じカラスの魔物や、オーク……簡単には行かなさそうだ。
「……何があっても隙を晒さない様に。奴は俺達が雑魚の相手で疲弊した所を狙ってくるはずだ」
「了解っす!」
中柱は早速突撃していく。
〈このカラス周りの魔物呼び寄せんの!?〉
〈うわ雑魚召喚とかダル〉
〈ボスの中でもウザイ寄りの奴だ〉
〈頑張れ中柱ちゃんー〉
〈雲上に出番で負けたくないのか張り切ってんな〉
「さて、俺もやれる事を……」
俺は集まってきた魔物を切り捨ててながら、隙を見て「辻風」を死骸喰いに向かって放つ。
「カァ……♩」
「余裕そうに避けてくれる」
中々当たってくれないが、とりあえず奴の攻撃を防げれば良い。話は雑魚を片付けてからだ。
ザンッ!
「グギャア!」
「これで20体目……中柱! そっちはどう……」
声を挙げようとした。したのだが、声が出なくなる。
「……!?」
いきなり全身の力が抜けて、刀を杖代わりにしてどうにか倒れ込まずに済む。
なんだ……こんな急に……? アイツの能力か……?
「主任!?」「先輩!」
〈千擁先輩どうした!?〉
〈顔真っ白だぞ!〉
〈なんか道中調子悪そうだったけど……〉
〈踏ん張ってくれ!〉
「♩……カァァ!!!」
仲間の二人だけならまだしも。死骸喰いの奴も俺の様子がおかしいのに気づいたらしい。奴は素早く急降下し、こちらに飛びかかってくる!
……このままやられてたまるか!
「んの……! 『刃返し』!」
「グギャ!!?」
俺は気力を振り絞り、体を動かした。地面に突き刺した刀を抜き、刃返しを死骸喰いのクチバシに喰らわせる。
死骸喰いのクチバシは砕け散り、奴は俺の身体を食い損ねた。
ようやくコイツに反撃できたな……不幸中の幸い飛ばすこの事か。
「ハァ……ハァ……」
…………大丈夫だ。身体は動かせる。
「主任!」
中柱が血相を変えて俺の隣まで戻ってきた。
「中柱……敵は?」
「それは全員片付けたっすけど……それより体調は!?」
「問題無い……少しフラついただけで……戦える」
「絶対そんな軽い問題じゃないっすよ!」
「先輩……! とっとと終わらせる……!」
雲上は包丁を再び握り直すと、戦い方を変えた。
先程までの射程を生かした戦いから、自分も痛手を負う覚悟の接近戦に。
「……ッ!」
ザスッ
「カ……!」
勝負は一瞬で着いた。
雲上の両手を添えた全力の突き刺しが、死骸喰いの胴体を捉える。
「さようなら」
「グカア……!」
雲上が包丁を引き抜けば派手に血が吹き出し、死骸喰いは墜落していく。
間違いなく致命傷だろう。となれば、残りの敵は俺がクチバシを砕いた方の死骸喰いだけだ。
「負けて……られないな。『気合い』」
かなり久しぶりに、俺は侍のスキル「気合い」を発動した。
重い身体をこれで動かす……!
〈おお聞き覚えのあるスキル〉
〈けどなんでこの状況でバフ系スキル〉
〈一応気合いには状態異常軽減の効果が有るから、千擁の異常が魔物由来なら楽になるはずだけど……〉
「……はぁっ!!」
タンッ!
俺は渾身の力を両足に込めて、飛び上がる。
〈ジャンプ!?〉
〈なんか10mくらい飛んでね?〉
〈やっぱ心配要らなかったかもしれない〉
〈気合いだけで空を飛ぶな〉
〈侍を何か勘違いしてない?〉
〈『気合い』ってそんな強化幅大きくなかったはずなんだけどなぁ……〉