「……終わったか」
数分後。俺達は一角獣の群れを片付けた。……なんか異様に疲れたな。
「中々やるっすね……」
「クッ……引き分けって所ですか」
「…………とりあえず、まだまだダンジョンは序盤だ。進もうか」
〈千擁先輩の顔色悪いな〉
〈この状況で顔色良くなってたら逆に怖いわ〉
〈追い詰められた千擁先輩の本気が見たい〉
コメントの言う通り、なんだか気分があまり良くない。照りつける日差しのせいなのか、雲上と中柱の間に漂う緊張感のせいなのか……。
分からないが、早いとこ目的を達成しよう。
「えー、コメント欄の皆、心配ありがとうございます。幸いにも敵の気配は減っているので頑張ります」
さっきまでの大立ち回りが効いたのか、平原の魔物達のほとんどは俺達を狙う事をやめている。
普段は殲滅系の任務ばかりで、こうなると追いかける手間が増えていた。
だが、今日は最奥の魔物だけが目的だ、ありがたい。
「ふう……ますます暑くなってきたっすね……」
「ああ、太陽? の位置が高くなってる。外で言うと正午くらいの高度だな……あと中柱、暑いからって服をパタパタするのは止めとけ、色々危ない」
〈👀👀👀〉
〈えっっっっっ〉
〈さらば収益化〉
〈切り抜き班、分かってるよな?〉
〈ああ、アーカイブでカットされる前に記録に残す……!〉
〈こんな事で以心伝心を身につけるな〉
「入り口の時は朝日でしたし、いつの間にか結構歩けたみたいですね」
『輝点平原』は変わったダンジョンで、上層中層という概念が存在しない。
その代わり、奥に進むと太陽の位置が変化し、朝、昼、夕、という風に階層が別れている。理屈はまったく不明だ。
そして雲上の言う通り、奥に進むほど時間が経過したかの様に環境が変化し、魔物も強くなる。
つまり正午である現在位置は、中盤が終わるくらいだ。
「よし……この調子で進むぞ……最奥は夕暮れだ、日差しもマシになるだろ……」
「先輩、辛い様ならこれどうぞ」
雲上はいきなり羽織っていたブレザーを脱いだ。次にはまるで骨組み。作るかの様に、ブレザーの中へ糸を通していく。
「はい、出来ました!」
その糸によって固定されたブレザーは、日傘の様に俺達を影に覆った。
お陰で直射日光は避けられる。
「……ああ、少し楽になったな。ありがとう」
「いえいえ、こういう時に補佐出来てこそですし」
「……」
*
「少し涼しくなってきたな……」
更に進むと、すっかり日も落ちて、日光もオレンジ色になっている。
ようやく『輝点平原』の最奥、夕暮れ地域にたどり着いた。
〈結局ほとんど接敵無しか〉
〈もう少し盛り上がりが欲しい〉
〈この辺も敵居なくね?〉
「いや、そんな事は無い」
少し離れた所に強烈な気配を感じて注視すると……オークが立ち塞がっている。
〈おっ、アイツがボスか?〉
〈ゆーて普通のオークくらいなら余裕でしょ〉
「……BRRRRR」
オークは静かにこちらを見ている……気づかれたか。
「二人共、構えろ」
「BRRRRRA!!!」
こちらに気づいたオークは脇目も振らず突進してきて……
ガリュッ
「……! ……? ……!?」
次の瞬間、オークの頭部が
頭を失ったオークは自分の死にすら気づかないまま倒れ、首から溢れた血が血溜まりを作る。
〈!?〉
〈ふぁっ!?〉
〈千擁先輩何かやった!?〉
「いや……俺はまだ何もしてない。真打の登場だ」
「カァ……!」
倒れたオークの死体に降り立つ黒い影が一つ。まるでカラスをそのまま巨大化させたような、黒羽の魔物。
そいつはオークの死体を少しついばむと「思ったより不味かった」とでも言いたげに止めて、死体を蹴りどかす。
「アイツが今回の目標……『死骸喰い』だ」
〈オークを瞬殺するカラス……!〉
〈絶対強い〉
〈まあでもこの面子なら余裕だろ〉
「……いや、主任! 上を見てくださいっす!」
「……ああ、分かってる」
中柱が焦ったようにそう言う。
コメントの言うように、奴が一羽ならもう少し余裕だったろうが。
空にはもう一つ強烈な気配がした。そいつは音も経てずに空を飛んでいる、もう一匹の大ガラス。
なんとなくオークを仕留めた個体より大きく見える……
「つがいなのか親子なのかは知らんが……厄介な相手になりそうだ」
「もしつがいだったら負けませんよ! 誰が最強カップルか教えてやります!」
「……目標はアイツらの羽だからな?」