目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第26話 眩

「……終わったか」


 数分後。俺達は一角獣の群れを片付けた。……なんか異様に疲れたな。


「中々やるっすね……」


「クッ……引き分けって所ですか」



「…………とりあえず、まだまだダンジョンは序盤だ。進もうか」


〈千擁先輩の顔色悪いな〉

〈この状況で顔色良くなってたら逆に怖いわ〉

〈追い詰められた千擁先輩の本気が見たい〉


 コメントの言う通り、なんだか気分があまり良くない。照りつける日差しのせいなのか、雲上と中柱の間に漂う緊張感のせいなのか……。


 分からないが、早いとこ目的を達成しよう。


「えー、コメント欄の皆、心配ありがとうございます。幸いにも敵の気配は減っているので頑張ります」


 さっきまでの大立ち回りが効いたのか、平原の魔物達のほとんどは俺達を狙う事をやめている。

 普段は殲滅系の任務ばかりで、こうなると追いかける手間が増えていた。

 だが、今日は最奥の魔物だけが目的だ、ありがたい。


「ふう……ますます暑くなってきたっすね……」


「ああ、太陽? の位置が高くなってる。外で言うと正午くらいの高度だな……あと中柱、暑いからって服をパタパタするのは止めとけ、色々危ない」


〈👀👀👀〉

〈えっっっっっ〉

〈さらば収益化〉

〈切り抜き班、分かってるよな?〉

〈ああ、アーカイブでカットされる前に記録に残す……!〉

〈こんな事で以心伝心を身につけるな〉


「入り口の時は朝日でしたし、いつの間にか結構歩けたみたいですね」


 『輝点平原』は変わったダンジョンで、上層中層という概念が存在しない。

 その代わり、奥に進むと太陽の位置が変化し、朝、昼、夕、という風に階層が別れている。理屈はまったく不明だ。


 そして雲上の言う通り、奥に進むほど時間が経過したかの様に環境が変化し、魔物も強くなる。

 つまり正午である現在位置は、中盤が終わるくらいだ。


「よし……この調子で進むぞ……最奥は夕暮れだ、日差しもマシになるだろ……」


「先輩、辛い様ならこれどうぞ」


 雲上はいきなり羽織っていたブレザーを脱いだ。次にはまるで骨組み。作るかの様に、ブレザーの中へ糸を通していく。


「はい、出来ました!」


 その糸によって固定されたブレザーは、日傘の様に俺達を影に覆った。

 お陰で直射日光は避けられる。


「……ああ、少し楽になったな。ありがとう」


「いえいえ、こういう時に補佐出来てこそですし」


「……」



「少し涼しくなってきたな……」


 更に進むと、すっかり日も落ちて、日光もオレンジ色になっている。

 ようやく『輝点平原』の最奥、夕暮れ地域にたどり着いた。


〈結局ほとんど接敵無しか〉

〈もう少し盛り上がりが欲しい〉

〈この辺も敵居なくね?〉


「いや、そんな事は無い」


 少し離れた所に強烈な気配を感じて注視すると……オークが立ち塞がっている。


〈おっ、アイツがボスか?〉

〈ゆーて普通のオークくらいなら余裕でしょ〉


「……BRRRRR」


 オークは静かにこちらを見ている……気づかれたか。


「二人共、構えろ」


「BRRRRRA!!!」


 こちらに気づいたオークは脇目も振らず突進してきて……


ガリュッ

「……! ……? ……!?」


 次の瞬間、オークの頭部が

 頭を失ったオークは自分の死にすら気づかないまま倒れ、首から溢れた血が血溜まりを作る。


〈!?〉

〈ふぁっ!?〉

〈千擁先輩何かやった!?〉


「いや……俺はまだ何もしてない。真打の登場だ」


「カァ……!」


 倒れたオークの死体に降り立つ黒い影が一つ。まるでカラスをそのまま巨大化させたような、黒羽の魔物。


 そいつはオークの死体を少しついばむと「思ったより不味かった」とでも言いたげに止めて、死体を蹴りどかす。


「アイツが今回の目標……『死骸喰い』だ」


〈オークを瞬殺するカラス……!〉

〈絶対強い〉

〈まあでもこの面子なら余裕だろ〉


「……いや、主任! 上を見てくださいっす!」


「……ああ、分かってる」


 中柱が焦ったようにそう言う。

 コメントの言うように、奴が一羽ならもう少し余裕だったろうが。


 空にはもう一つ強烈な気配がした。そいつは音も経てずに空を飛んでいる、もう一匹の大ガラス。

 なんとなくオークを仕留めた個体より大きく見える……


「つがいなのか親子なのかは知らんが……厄介な相手になりそうだ」


「もしつがいだったら負けませんよ! 誰が最強カップルか教えてやります!」


「……目標はアイツらの羽だからな?」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?