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第25話 あつい!

「しかし雲一つない空が続いてるな……俺には少し太陽が眩しすぎる」


 俺たちは輝点平原を進む。幸いにもまだ敵の気配はしない。

 だが、俺はチカチカと照りつける日差しに体力が奪われるのを感じていた……かなり眩しいし、敵に遭遇した時は視界に気をつけないとな。


「綺麗な空っすね〜場所がダンジョンじゃなければテンションも上がったんすけど」


「ああ、逆光だと戦い辛いだろうし、敵が出たらいつも以上に位置取りを意識すべきだな」


「敵といえば、今回は私も前に出ますから」


「ほう?」


 雲上の言葉は少し意外だった。今まで彼女とは何回か共闘したが、彼女が前衛を務めたことは無かったから。


〈ヒェッ〉

〈馬鹿な……人類はまた、惨劇を繰り返そうと言うのか?〉


 雲上が戦う事を宣言した途端にコメント欄が怯え出す。


 俺もこの前の、雲上が中層の魔物を虐殺したあの配信を見返してみたが……確かに凄まじい戦いぶりだった。


 それでも前衛として戦わ無かったのは、何か理由が有るのだと思っていたが……


「いいのか? 今までずっと後衛だったじゃないか。いや、雲上の実力を疑ってる訳じゃないが……」


「ええ。後ろで見るのも好きだったんですけどね、前に出たい理由が出来たもので」


「ほう、その理由は?」


「乙女の秘密です」


 ……なんかはぐらかされた。

 まあいいか、俺のやるべき事は変わらない。


 万が一が起きないよう、雲上と中柱に注意を向けながら戦うだけだ。


「……主任、そろそろお出ましみたいっすよ」


「確かに。騒がしい蹄の音がするな」


〈何も聞こえないんですがそれは〉

〈装備が有る中柱はともかく、素で聞こえてる千擁はなんなん?〉


 耳をすませば全方位から、パカラッパカラッという足音が聞こえる。


 ……俺たちを囲んで戦う気か。


「――『辻風』」


 なら、囲みに穴を開けてやる。俺は前方向に斬撃を飛ばした。


「ヒヒンッ!?」


 飛ぶ斬撃は敵をまともに捉える。敵は不意打ちのつもりが、逆に不意をつかれた訳だ。


 斬られた奴は、スピードを落としながらこちらまで転がり、その正体を表す。


「なるほど、『ユニコーンサン』か」


 ユニコーン……日本語では一角獣と呼ばれる、頭から角を生やした馬の様な魔物。

 その中でもコイツは、角に太陽の力を宿すと言われている亜種である。


 まあ実際には角や蹄から炎を出す程度で、太陽と言うには大袈裟だと思うが。


〈炎上するユニコーン……〉

〈何か運命を感じるな〉


「手早く終わらそう。ここは草原だ、モタモタしてると火の海にされる」


「分かってますって!」


 雲上は翼を一つ解き、長い糸に変える。そして糸は一角獣の群れに向かって伸びていき……


「ヒッ!?」


 先頭を走る一角獣が動きを止める。否、止められた。

 奴の足には雲上の糸が巻きつけられていた。


「せーのっ!」


「「ひひーん!?」」


 雲上が糸を引き、一角獣を投げ飛ばす。飛ばされた一角獣は仲間に衝突していき、群れは纏めて片付けられた。


 「せーのっ」等という可愛らしい掛け声には似つかわしくない、凄まじい力技だ。


「走る馬を捉える操作精度、投げ飛ばす腕力……さすが特級だな」


〈いや人の動き見ながら集団処理してるお前も大概だろ〉

〈六級詐欺師がよぉ……〉

〈↑元四級だから〉

〈変わんねえよ〉

〈こんな動きができる四級探索者がいてたまるか〉


「っと……負けてらんないっすね!」


 遠距離攻撃を持たない中柱は、別方向の群れに向かっていく。


「ヒッ!」


「『影踏み』!」


 角に貫かれるかと言う寸前。


 中柱は影踏みという、相手の影に高速移動できるスキルを発動させ、回避と同時に攻撃。


 同じ流れで次々と倒していく。


「流石だな! けど、あまり離れ過ぎるなよ!」


「分かってるっすよ!」


「大丈夫です、こうしてピッタリとくっつきますから」


ピトッ。


「いや待て違う雲上に言ったんじゃない」


 中柱に命令したつもりなのだが、何故か雲上が距離を詰めてきた。しかも背中と背中がくっつく程に。


〈ちょっと二人共距離近くないかな笑? いや俺は良いんだけどさ最近そういうの厳しい人多いじゃん笑? 雲上ちゃんにはまだ配信者としての長いキャリアが有るんだしもうちょっと気をつけた方が良くないかな笑? いや俺は全然良いんだけどさ笑〉


〈おいコメント欄にもユニコーン沸いたぞ〉

〈討伐じゃー!〉

〈いや俺ら素人には無理だろ〉

〈数の暴力(通報)で勝つんだよ〉


「ヒヒン……!」


 コメント欄が沸き立つと同時に、何故か本物の一角獣も興奮を強め、速度を上げて来る!


「ああ、ちょっと忙しくなってきたな……」


「私達ならどうにか出来ますって!


「――! 『影踏み』!」


ピトッ。


「中柱? いきなり戻ってきたな?」


 次の瞬間、中柱はスキルで俺達の真横まで移動してきた。

 中柱と雲上がちょうど俺を挟むような形になる。


「雲上さん……自分を忘れて貰っちゃ困るっすね。親切探索者事務所で、千擁主任の隣で戦い続けた自分を」


「……大事なのは歴じゃなくて実力ですよ。千擁先輩の隣に立つには同じくらいの力が有る人じゃないと」


「「……!」」


 俺を挟んで、二人は睨み合う……。


「とりあえず二人共一回離れて貰えないか……! 挟まれてると戦い辛いんだが……!」


〈いやツッコミ所そこじゃないだろ〉

〈羨ま……やっぱいいわ〉

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