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第24話 空が見える洞窟

side千擁四郎


 神陀と病院で話した翌日。俺は快晴探索者事務所に出向いた。

 すると向こうから良秀がやって来た。


「よお千擁! 待ってたぜ」


「良秀。そんなに良い顔なら、許可は無事に取れたみたいだな」


「ああ、あんたに雲上、ついでに中柱とかいうチビの分もな」


「……あんまり本人の前では言うなよ。結構気にしてるから」


 ともかく、これで「黒鳥の羽」を取りに行ける訳だ。


「しかし、わざわざ三人分なんて。別に俺一人でも良かったのに」


「神谷さんが言ってたんだけどな……。『黒鳥の羽』が採れる『輝点平原』はまあまあ危険なダンジョンだから万が一が有るかもしれないって」


 『輝点平原』くらいのダンジョンには何度か潜った事が有る。だが、警戒するに越したことはないだろう。


「ところで良秀は来ないのか? 戦闘もこなせるようだったが」


「僕の本職は鍛冶師だからな……仕事に集中させて貰うわ。それに……」


「それに?」


「雲上が来るならどうせ配信するだろ? 僕あーいうの見るのは好きだけど、自分でやるのは苦手なんだよ」


「そうか、じゃあコメントで応援でもしといてくれ」


「なんか配信者みたいな口ぶりだな?」


「……確かに」


 自分でも気づかない内にダンジョン配信に影響されていたのか……?



「そんで、ここが『輝点平原』なんすね。外面はスタンダードな洞窟型っすけど、どんなダンジョンなんすか?」


「それは……いや、入ってから説明したほうが早い」


 俺は現地で雲上、中柱と合流し、準備をしていた。

 雲上は少し離れた所で配信の準備をしている。


「先輩、配信の準備が出来ました!」


「よし。じゃあ早速始めるか」


 三回目ともなると、流石に慣れてくるな。

 特に緊張も無く、俺はカメラの前に出た。


「皆さんこんくもー。今日の企画はですね、タイトル通り千擁先輩の為に素材集めです」


「どうも、こんな時間にわざわざ来てくれてありがとうございます。千擁四郎です」


「付き添いの中柱白華っす!」


〈こんくもー〉

〈千擁先輩おっすおっす〉

〈あれ? 二人の職場は吹っ飛んだんじゃなかったけ?〉

〈独立の第一歩として武器の新調かな〉


「あーいや、独立じゃなくて、ウチら快晴に所属する事が決まったんすよね。今回の素材もそこの人の指定で……」


〈快晴!?〉

〈超大手じゃんか、おめでとう〉

〈千擁が急に遠い人に見えてきた……〉


「――待て中柱、それ言っていいのか? 俺も詳しくは分からないが守秘義務とか」


 確か、俺たちの移籍について正式な発表はされてないはずだが……。


「……もしかして自分やらかしたっすかね?」


 あからさまに中柱は青ざめる。

 こうなるなら情報の扱いについて神谷さんに聞いとくんだったな。


〈いや、別に言っても構わないってよ。今神谷所長に確認してきた〉

〈良秀がおるやんけ!〉

〈快晴のチワワ君おっすおっす〉


「ああ、朱空がコメント欄に来てますね。公式マークが付いてるんで本物に間違いないです」


 コメント欄に良秀らしき人物が現れ、雲上が補足してくれた。

 問題にはならなさそうなら良かった。


「わざわざありがとうな、良秀」


〈誰がチワワだ殺すぞ〉

〈そんな怒るなよw〉

〈あんまりコメント欄で物騒な言葉使うと……〉


〈※ガイドライン違反により一時停止されたアカウントの為、このコメントは非表示になりました〉


〈ほらこうなる〉

〈今月三回目だな〉

〈雲上の所でも芸風は変わらなかったか……〉


 ……どうも良秀のアカウントが停止処分を食らったらしい。

 見に来て貰って早々に脱落してしまった……。


「……コメントを書くよう良秀を誘ったんだが、やらない方が良かったか?」


「まあ、アカウントが止まっても、ログアウト状態で配信自体は見れますし。それに朱空のコレは配信界では結構有名な恒例行事ですから」


 恒例行事になるくらいの頻度で一時停止処分を食らってるのか……コメント欄でも口の悪さは健在みたいだったし、そのせいだろうな。


「んじゃあ、ウチらはそろそろダンジョン配信を進めるとするっすかね」


「む……私の配信なのに仕切られた……」


「確かにそうだな、そろそろダンジョンに入るとしよう。あまり視聴者を待たせても悪いだろ」



「……ダンジョンに法則が通用しないのは分かってるっすけど」


「綺麗だろ? 初見は中々驚きだよな」


 ダンジョンに入ると中柱が目を見開いて驚愕している。それも当然だ。

 俺も上方を見上げ、煌々と輝くを確認した。


「この『輝点平原』は太陽の様な物体が浮かんでいるダンジョンだ。洞窟の中だっていうのに、中に入れば明るく照らされた平原が広がっている」


「洞窟の中で見る太陽は中々味なものですよね」


 入口の天井はせいぜい5m程度なのに、内部には外と変わらない太陽と空が広がっている。

 事前に分かってはいたが、やはり奇妙な感覚がするな。


「ああ、綺麗な場所だが油断するな。ここはダンジョンとしては難易度が高い場所だ。見通しの良い平原だからか、四方八方から敵が襲ってくる」


〈はえー……〉

〈スタンダードなダンジョンは前か後ろの二択だもんな〉


「目的の『黒鳥の羽』はここの最奥の魔物から採取できる。二人共、行くぞ」


「はい!」

「っす!」

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