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第22話 まだ終わらないと言う

side:千擁四郎


「来て早々に席を外して悪かったな。ほら、病院って電話禁止だろ?」


 良秀がダンジョン探索の許可を申請してくれてる間に、俺は神陀や葛所長の行方を探していた。

 そしてここ、神陀が入院している病院になんとかたどり着いた。


「……」


 ベッドには遠い目の神陀が横たわっている。

 奴の身体は全身包帯でグルグル巻きにされているが、回復魔法等の現代医療で治療されて見た目程酷くは無いらしい。


 医者曰く、むしろ精神的なダメージの方が大きいとか。

 まあ元々褒められた性格では無いし、あれ以上悪くはならないだろ。


「……俺を……笑いに来たのか……それとも死体蹴りのつもりか……」


 ずっと無反応だった奴はようやく返事を返した。


「個人的には一発くらいぶん殴りたい気持ちだけどな。あいにく、死に体の奴をいたぶる趣味は無いんだ」


 軽い口調でそう言うと、神陀は威嚇する様にこちらをキッと睨む。

 俺が全身包帯巻きの男に追撃する冷血漢に見られてるのか、奴が人を信用しなさ過ぎなだけなのか。


 悲しい事に、俺には判断が出来ない。


「……さっきの電話なんだけどさ。神谷さんからの電話だったんだ、内容は……葛所長がついさっき逮捕されたってさ」


 神谷さんは警察にもコネが有るらしく。

 このまだ一般公開されてない情報をあっさりと俺に教えてくれた。


「……」


 もう少し驚きでもするかと思っていたが、神陀はなんの反応もしない。

 「そうなると思ってたよ」とでも言いたげだ。


「これで親切探索者事務所も本当に終わりだな。俺とお前も、上司部下じゃなくなったって訳だ。……やっと落ち着いて話せる」


「事務所は死んだ……だがお前は……まだ生きてる」


「そうだな、運にも恵まれた。こうして終わるまで、親四で死人は一人も出なかった」


「いつも……お前はそうだ……運に愛されて……」


「……そうかもしれないな。結局俺だけじゃ何も出来なかった。雲上が来てくれなかったらどうなってたか」


「雲上……あの化け物を手なずけて満足か?」


「神陀。お前は相変わらず何でも露悪的に言うな? 手なずけたなんて言い方は良してくれ。――お前にした仕打ちも含めて。思う所は有るが、あの娘には感謝してるよ」


 神陀はどうもただの汚職以上に色々やってたみたいだからな……彼女がやらなくても、他の誰かが報復か口封じをしただろう。


 そう考えるとコイツは命が有る分、運が良い。


「……はっ」


「手なずけたどころか、むしろどう接したら良いか分からない。……俺は人と関わる事から逃げてきたし」


 雲上はやり過ぎなくらい俺に距離を詰めてきてくれているが、俺から彼女に歩み寄れてはいない。


 俺はただでさえ交流経験に乏しいのに、雲上とは色々とややこしい関係でも有るから。それでも、無下にあしらう様な真似はあまりしたく無いし……。


「世渡り上手なお前なら、あの子との上手い付き合い方も思いつくか?」


「……皮肉……か?」


「違ぇよ、お前は俺の来歴知ってるだろ。なぁ、神陀。俺はお前が嫌いだ。けどさ、感謝もしてるんだ」


これは本心だ。


「3年前、お前が親切探索者事務所に誘ってくれたから、俺は多少まともな人間に戻れた。誰にも知られず野垂れ死ぬような運命を辿らずに済んだ」


 昔、生きながらにして死んでいた様な俺を、社会に戻したのはコイツなんだ。


「……なぁ、お前は何を考えてたんだよ。なんでそんなに俺を憎んでるんだ? なんの関係も無い俺の部下達を巻き込んでまで、本当に俺を殺さなくちゃならなかったのか?」


「……お前には一生分からない。お前は何も分かっちゃいない」


「ああ、分からないからこうして聞いてるんだ」


「……」


「……」


 沈黙が病室を満たす。カーテンを通り抜けた、風の音だけが聞こえる。


「千擁さん、そろそろ面会時間が終了となります。うちの病院は三十分までと決まっているので……」


 沈黙を破ったのは看護師の声だった。くそっ、まだ何も聞き出せちゃいないのに。


「ブラックストームの一件も有る事だし、次会うときは刑務所か? じゃあ、またな」


「……はっ! やっぱりお前は甘ったるい偽善者のガキだ!」


「――急に元気になったな?」


「お前には見えてない世界が有るんだ! 小綺麗に気取って生きてきたお前には……! 俺はお前なんかよりずっと多くを知ってて……!」


「だったら……」


俺は神陀の眼前にまで距離を詰める。


「お前が見てる世界とやらが何なのか、。俺に教えてみせろよ。死地に送ったり他人を巻き込んだり……回りくどい真似はもう辞めろ。俺は逃げないからな、お前も逃げるなよ!」


「逃げる逃げない……? またくだらない事言いやがって。まだ終わらないぞ……親切探索者事務所が潰れた程度じゃあな……!」


「あのー……お二人共? もう面会時間過ぎちゃったんですけど……」


「――っ。はい、もう帰ります。ありがとうございました」


 ……ああ、モヤモヤするなぁ。

 いつも通り身体を動かして気を紛らわすとしよう。


 明日は「黒鳥の羽」を取りに行くんだよな。快晴での、初めての仕事か。まあ俺が名乗り出ただけで正式な仕事じゃないが


 これは未来の話になるが。仕事を終わった後、俺は神陀と刑務所で再会する事は無かった。そして「まだ終わってない」という言葉の意味を知る事になる。



今回開示された情報まとめ。


「千擁四郎」

雲上の所業は何となく察している。

人と関わる事を避けていた期間があったらしい。

親切探索者事務所に入ったのは、3年前の神陀に誘われたから。

それ以前は本人曰く「生きながらにして死んでいた」


「神陀多沼」

親切探索者事務所で上司部下になる前から千擁と知り合いだった?

逃亡しようとしていた下戸と違いまだ諦めていないらしい。

千擁に対して、常軌を逸した殺意と執着が有る。



 神陀と千擁の間には、単なるクソ上司と部下では言い表せない因縁があるようです。ちなみに和解展開だけは天地がひっくり返ってもありません。

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