「鍛え直すって、俺の刀をか?」
「ああ、あんたのその古刀をだ。実際切られてみたから分かる、良い刀だ。それに手入れもちゃんとしてある。けど、流石に金属の限界が近いし、素人じゃどうしようも無い所にもガタが来てる」
あの戦いの最中にそこまで観察していたとは、良秀の見る目は本当に確かみたいだな。言動の悪さは気になる所だが。
「そうか……しかし、何故わざわざ鍛え直すなんて? 君からすれば、俺に新しい刀を使わせても構わないだろ」
「馬鹿、手入れもちゃんとしてあるって言ったろ? その刀の様子を見れば、そいつがあんたにとって大切なもんだってくらい分かる。知らない新品より、慣れてて思い入れのある武器がパワーアップした方が嬉しいだろ?」
「そうだな……この『柳刃』には随分世話になってる」
そういえばもう10年くらい使ってるんだよな……
「この朱空良秀様に任せてくれりゃあ新品以上に強くなるはずだぜ」
「それはありがたいな。これも快晴事務所の方針か?」
「いや、僕が個人的にあんたを気に入っただけだよ。それに……あんたはたぶん快晴を代表する探索者になる。そんな時に古ぼけた武器を振るわれちゃあ快晴の名が落ちるだろ?」
「なるほどな。……よっぽどこの事務所が大事なんだな」
「あのー……自分達の装備はどうなるんすか?」
ここで中柱が口を挟んでくる。
確かに、部下達の装備は俺と違う、親切事務所で支給された安物だ。
俺としても、できたら新調して欲しい。
「あー……雲上の装備は俺の専門外だからちょっと難しいな」
「そうなのか?」
「ああ、私の装備は……」
雲上が右手を挙げた。と、思った次の瞬間、彼女の手の中に包丁が現れる。
「……なんだ今の」
「知ってる人は少ないですけど、私の羽やこの包丁は、特殊職業『愛の天使』由来の物なんですよね。だから鍛冶屋が鍛えるとかそういう話は通用しなくて」
羽については何となくそうなんじゃないかと予想していたが……包丁も職業由来の力だったのか。
「
「うちの所長も
俺をいきなり拾うなんて不思議だったが、神谷さんにも思惑がそういう思惑があったんだな。
「雲上さんの職業は一回置いておいて、結局自分の武器はどうなるんすか」
「……まあ、うちが普通に支給してる新品の武器を使えば良いだろ」
「むー……なんか投げやりっすねぇ」
「所長はあんたの事も認めてたみたいだが……僕にはそこら辺の雑魚より多少マシ程度にしか思えないんでね。丁重に扱われたかったら千擁くらいの実力を身につけるんだな。そしたら僕が直々に武器を打ってやらんでもない」
「むー……神谷所長には素直な癖に自分にはその物言い……思春期の男子みたいな奴っすね」
「なっ……! どういう意味だよ」
「イキってる割に父親の前では静かにしてるなんちゃってヤンキー感って言えばいいんすかね……」
「お前喧嘩売ってるだろ! 神谷さんは別なんだよ!」
自分から喧嘩を売った癖に、殴りかかりそうな勢いでキレる良秀。
ああもう、なんでこう我が強い奴ばっか集まるんだ……?
「だから喧嘩は止めろ……雲上、君からも何か言ってくれないか?」
「――神谷が父親とすると。喧嘩を仲裁しようとしてる千擁先輩は、叔父さんかお兄ちゃんになるんですかね? それなら私は出来れば叔母とかのポジションに……」
「この状況で君までボケてどうする……!」
*
「ほうここが快晴探索者事務所の倉庫か」
どうにか喧嘩を収め、俺達は巨大な倉庫に案内された。
「いくらダンジョン災害で更地になった場所が多いとは言え、東京の一等地にこれだけ広い倉庫がぶっ立てられるんだ、凄いだろ?」
「ああ、随分贅沢な土地の使い方だ」
「凄いのはあんたじゃなくて事務所っすけどね」
「流石に分かっとるわ!」
「良秀、中柱は受けた恩は忘れないが受けた恨みも忘れないタイプだ。謝った方が良い」
「んな簡単に下げれる程安い頭じゃないんだよ」
「頑固な奴だな……」
「それはそうと、あんたの刀を貸してくれ、直接見比べて合いそうな素材を探したい」
俺が素直に刀を預けると、良秀は奥へと向かっていく。
「あー武器製造課の課長じゃないですか? なんか必要な素材でも?」
「ああ、質の良い鉄と……それから……」
あの歳で快晴の課長なのか……プライドが高い理由も何となく分かるな。
俺はもう少し穏やかな方が良いと思うが。
「は!? 『黒鳥の羽』無いの!? なんで!?」
「お忘れですか? この前武器開発課の連中がやらかしたじゃないですか……あれで全部燃えちゃったんですよ」
「そういえばそうだった……!」
何やら騒がしい様子だな。
「おい、どうした?」
「いや、それがな……一番大事な素材がちょうど無いらしいんだ。あの『黒鳥の羽』が無けりゃ、その刀のしなやかさが台無しになっちまうってのに……」
「なんか他の素材で代用とかすれば良いじゃないですか」
雲上が平然と言う。確かに、その通りだ。
「駄目だ! 僕の作る武器は芸術品なんだよ! いや、もちろん代用は出来ない事も無いが。妥協は許せねえ」
芸術品と来たか……随分なこだわりが有るようだ。
そこまで言われると仕事振りを見てみたくなるな。
「『黒鳥の羽』さえ有ればどうにかなるんだな?」
「ああ」
「じゃあ分かった。俺が取りに行こう」
「……なに? いいのか?」
「もちろん。暇も潰れるだろうしな」
「先輩、本当に良いんですか? 別に先輩がそこまでしなくても……」
「強くなれるに越したことは無い。それに、俺は動いてる方が落ち着くんだよ」
「……自分が言うのもなんすけど、それワーカーホリックって奴なんじゃ。あと、快晴事務所に所属を決めた以上、個人的なダンジョン探索は事務所の許可がいるっすよ」
「ワーカー……?」
ワーカーなんとかとやらの意味は分からないが、許可が必要なのはそうだな。
「許可くらいこの朱空良秀様に任せておけ! 一日くらい必要だが何人分でも勝ち取ってやるぜ!」
「最低でも一日は掛かるのか」
なら俺は神陀達の行方でも調べるとするか。
「明日は私もやりたい事あるんでちょうど良いですね」
「自分は久しぶりに寝て過ごすっすかねー」
とりあえず明日はみんな自由行動という訳か。
「ところで雲上のやりたい事ってなんだ? あんまり想像出来ないな」
「……ちょっと社会のゴミ掃除を」
「社会の……?」
*
キャラ紹介その2です。
「
快晴探索者事務所、武器制作課課長。二級探索者。
容姿は、黒縁メガネに赤い鼻の青年。
20歳という若さにして大手の課長を任される程に優秀な鍛冶屋。オマケに戦闘もそれなりにこなせる。
高い能力のせいか、自分を「様」付けし、作った武器は芸術品と呼ぶ程の高いプライドを持っており、言動が小生意気。
だが、根は素直なようで神谷、千擁、雲上のような自分が認めた相手には丁寧に接する。また、口喧嘩もめちゃくちゃ弱い。
裏でチワワというあだ名を付けられてるとか。
「
神谷グループ五代目代表にして、快晴探索者事務所所長。
容姿は、死んだ目かつ頭は白髪に染まりきっているが、灰色のスーツをしっかりと着こなしている男性。
世界に代表する日本の偉人と評されるが、けっこう砕けた口調で話す。
千擁の過去など、全てを知ってそうな態度がすごく胡散臭い。
周囲と衝突の多い良秀の事を、手のかかる息子の様に思っているらしく、なにかと目を掛けている。
本来武器制作課の良秀が勧誘に来たのも神谷の采配(16話参照)。
「
親切探索者事務所の所長。
容姿は、小太りで黒いスーツを着崩している中年。
極度の拝金主義者であり、部下に違法な労働をさせまくって私服を肥やしていた社会のゴミ。
一月の食費に100万は使うらしい。
神陀の行動もわざと見過ごしていたが、自分に被害が出た瞬間切り捨てた。
15話で雲上にやられた神陀と違って、未だに行方が分からないが……?