目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第17話 荒っぽい面接

 良秀に案内されるがままたどり着いたのは広い空き地だった。

 まるで学校の校庭の様に広く何もない空間が広がっている。


「ここは……ダンジョン庁が管理する運動場じゃないですか。結界が張られていて、スキルを行使した模擬戦とかもできるんですよね」


 雲上の言う通り、ダンジョン外でのスキル行使は厳しく罰せられる。

 だが、ダンジョンに入って命を懸けなければスキルの練習のができないというのも問題なので、ダンジョン庁が整備した施設の内一つがここだ。


「なあ朱空さん。ここはとても転職の手続きが出来る場所とは思えないんだが?」


「大丈夫だ、ここでいい。千擁、あんただけで少しこっちに来てくれ」


 運動場の中央に立つ朱空に、俺だけが招かれた。


「千擁主任……これ大丈夫っすかね? 何か騙されてるんじゃ」


 中柱は不安そうに言う。

 確かに色々怪しい雰囲気がするが……。


「分からないな。だが、俺が行かなきゃ確かめられない。中柱、それと他の皆もここで待機しててくれ」


「……っす」


「私は先輩の意見を尊重します」


 俺は一人前に出て、良秀の居る方へ歩いていく。


「運動場でどんな手続きをするって言うんだ?」


「そうだな……例えばこんな事とか!」


 良秀はいきなりこちらにふり向く、そしてその手には回転式拳銃……つまりリボルバーが握られていた。


 パァン!! キン!


「……何の真似だ」


「へぇ……避けるならまだしも、切るか」


 発砲の寸前、俺は刀を抜刀し、銃弾を切り捨てて防いだ。


「先輩!」


 俺は声の方に振り向く。

 雲上が加勢しようとしたのか、いつの間にか包丁を構えている。


「待ってろって言っただろ!」


 だが、俺は彼女を止めた。さっき弾を切った感覚……

 あれは実弾では無く、非殺傷用のゴム弾に近いものだった。


 恐らくこいつの目的は俺を殺す事じゃない。

 目的を探るには一対一の方がやりやすいだろう。


「あんたにさっきまで話してたのはさ……僕じゃなくて上の意見なんだよ」


「つまり自分は違う腹だと?」


「あんたも知ってる通り、快晴探索者事務所は国内最大手だ。就職するには相応の能力が求められるし、ライバルも多い」


「それで?」


「僕も相当な苦労と努力、そして才能が合わさって、ようやく快晴探索者事務所に就職できた。それなのに、ちょっとSNSで話題になっただけの奴が来るとかさぁ……納得出来るわけないよな?」


「なるほど、つまり俺の実力を確かめたいと?」


まったく……いきなり向こうから勧誘して来たと思ったら「試してやる」か。随分と勝手な奴め。

だが、せっかく向こうから喧嘩を売ってきたんだ。

名実共に叩き潰して、認めさせてやるとするか。


「動画ではまあまあやるようだったけど……僕は自分の目で確かめる主義なんでね。がっかりさせんなよ、千擁四郎ぅぅぅぅぅぅぅううううう!!」


 VS

 快晴探索者事務所

 朱空良秀


 パァン!


 再びの銃撃。

 俺はそれを切り、即座に良秀へ肉迫する。


「っ!」


 俺は刀を振り上げる。

 が、刃が届く寸前に良秀は身を翻す。


「おらよっ!」


 躱した勢いのまま、良秀は背中のハンマーを右手に取り、振りぬいた。

 やっぱりそれも武器だったか!


「『刃返し』!」


 ハンマーの薙ぎ攻撃を弾き、俺は再び攻撃に転じようとするが。


「ホラホラホラ!」


「ちぃ!」


 せっかく弾いて生み出した隙は、

 左手のリボルバーの三連射撃で消されてしまう。

 当然三連射撃は全て切り落とす。


「ハンマーと拳銃の二刀流とは……なかなか珍しいな」


「あんたは刀一本か。随分古い獲物みたいだな!」

 パパパン! カンッ!


 更に良秀は三連射撃から繋げてハンマーを振り降ろす。


「……待て、リボルバーなのに6発以上撃たなかったか?」


 俺は攻撃を受け止めつつ、良秀に問いかけてみる。


「見た目より装弾数はずっと多いんだよ。朱空良秀様謹製の最新式装備だからな!」


 なるほど……弾切れの所を狙えば楽だと思っていたが。

 予定変更だ、力で押し切る。


「流石に快晴探索者事務所の人間だな。武器制作担当なのに、下手な一級探索者より手強い」


「ああ、実際に試せてこそ武器の善し悪しも分かるってもんだからな」


「だが、武器を振るだけが戦闘じゃない」


 俺はあえて良秀から離れて、銃撃を釣った。


「へえ? だったら戦闘を教えてくれよ!」

 パァン!


 そう言いながら良秀は銃撃を放つ。俺の狙い通りだ。


 こいつはまず銃撃をして、相手が対応してから次の動きを考えている。

 ならば。


「『死の抱擁』」


 キン! カァン!


 死の抱擁、居合と返す刃の二連撃を放つ俺の必殺スキル。

 それこそが最適解だ。


「……なっ?」


 頬に峰打ちを喰らった良秀は何が起きたのか分からないまま膝を着く。


 まず、俺は踏み込むと同時に居合の一撃で銃弾を切り捨てた。

 そして更にもう一歩踏み込み、良秀が対応出来ない速さで峰打ちを叩き込んだ。

 やった事自体は単純だ。けど、それだけで勝負は決まった。


「ははっ、クソッ……やっぱ所長の言う通り鈍ってたなぁ……」


「朱空さん……いや、良秀。見てから反応するんじゃ遅い時の方が多いんだ。

 特に今の世の中は、無法なスキルが横行してるしな」


「へっ……見定めるつもりが逆に見定められちまったか」


 良秀は負けを認めたようで、その場に寝転がった。


「これで、俺が快晴探索者事務所に相応しいと認めてくれたか?」


「ああ、もちろんだ。あんたが入ったあかつきには、俺が武器を……」


「いやあ、お見事だね。流石、一級探索者との三対一で勝っただけある」


 知らない声と、パチパチと拍手する音が聞こえて、そちらを見る。


「……あ、所長」


「所長? じゃあ、あの人が……」


「どうも、千擁四郎君。初めまして。私が快晴探索者事務所所長兼、神谷グループ五代目代表。神谷聖人かみやまさとだ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?