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第12話 揺れ動く職場

 俺は中柱たち部下の仕事を手伝う風景を配信することに決めた。

 なので、現在は東京のとある山中にあるダンジョン前で待機している。


 ここは魔物の強さ、採れる素材共にそれなりの普通のダンジョンだ。

 だが、いかんせん立地が絶望的で東京だと言うのに簡単には来れない。

 まず電車で数時間、それから登山をこなしてやっと探索が始まる。


 ……今回の俺は雲上の飛翔能力によってかなり早く到着したが。


 まあ、そんな感じで探索者人気が低くほぼ誰も来ない。

 そのため、魔物がダンジョンから溢れてきてしまう危険性が高く、ダンジョン庁が俺達のような事務所に間引き依頼を回してくるのだ。


「先輩ー? その待ち合わせしてる人はまだですか?」


「時間的にそろそろだと……」


「主任! お待たせしましたっす!」


「お、きたぞ」


 部下達がやってきた。

 その中でも中柱は一人飛び出してこちらに向かってくる。


 相変わらず元気な奴だな。


「中柱に、田中、佐藤……よし。全員揃ってるな」


「っす!」「「「はい!!」」」


「じゃあ雲上、配信を始めよ……雲上?」


 雲上は目をこれでもかと開いた状態で、硬直している。


 急にどうした? さっきまで普通に喋ってたのに。


「……は? なんですかこのロリ巨乳八重歯ケモミミ女は?」


「ロリとはなんすか! 自分これでも21っすよ! それにこの鼠耳カチューシャは身体能力を上げる大切な装備で……」


「年上!?」


 確かに中柱は少し……いや結構……もとい、かなり個性的な見た目だが。


 そこまで驚くほどか?


「ちょっ、なんですか千擁先輩! 職場不倫とかハレンチですよ!」


「おまえは何を言ってるんだ」


 何を言ってるんだ、本当に。


「い、いや自分はそんな……千擁主任とはただの上司と部下の関係っすから……」


「顔を赤らめて、こいつ!」


 *


「…………落ち着いたか?」


「はい……」


 30分くらいかかったが、部下にも手伝ってもらいどうにか興奮した雲上を落ち着けられた。


「私はてっきり千擁先輩が盗られたのかと……」


「人を物みたいに言うな。……それに俺は誰かとそういう関係になるつもりは無いしな」


「「「!?」」」


 なんで部下のお前達まで驚いてるんだよ。

 別に俺の勝手じゃないか。


「……俺の事はもういいだろ。そろそろ仕事の時間じゃないか?」


 配信はゲリラでやるらしいので問題無いと思うが、仕事はそろそろ始めないとまずい時間帯だ。


「あ、今すぐ準備します!」


「あの特級の配信に出られるなんて……人生報われるもんだな」


 部下の誰かがそう呟く。


 あれだけ大騒ぎしたというのに、雲上はまだ人気みたいだな。流石特級で人気はトップと言われてるだけ有る。


 ……実際に会ったらちょっとイメージ変わったが。


「設定終わりました!」


「よし、じゃあ始めてくれ」


「では早速。3、2、1、0!」


〈ゲリラ配信とはな……〉

〈人多くね?〉

〈千擁おるやん!〉

〈ブラックストーム逮捕記念に来ました〉


「はい、どうもみなさんこんくもー。雲上愛羽です!」


〈こんくもー〉

〈こんくも〉

〈こんくもー〉


「前回と同じく、親切探索者事務所四課で主任を務めています。千擁四郎です。ほら、お前たちも挨拶なさい」


〈主任っていうよりお父さんみたいだな〉


「親切探索者事務所四課……略して親四で働いてる中柱白華っす!」


〈かわよ〉

〈デッッッッッッッッッッッッ〉


「同じく親四の田中」


「佐藤」


〈真面目だなぁ……〉


 全員分の挨拶が終わったので、一応今回やることを企画した俺が一歩前に出て説明を始める。


「えー今回は普段雲上さんのチャンネルで配信されてるものとはおもむきを変えまして。普段の私たち親四の業務内容を見て頂こうという感じです」


(……そういや今更っすけど、業務を配信するのって大丈夫なんすかね? なんか親四の決まりで撮影記録は禁止だったような)


 中柱が小声で俺に尋ねてきた。

 ああそれは……


(ダンジョンは国の資産ですから、隠ぺいや独占を防ぐために特例の法律が幾つか定められてるんですよ。その内一つに『国を除くいかなる個人、団体もダンジョン内の記録を禁ずることはできない』ってあります。……法律違反のルールが有るとかどんな職場なんですか?)


 俺の代わりに雲上が小声で答えてくれた。

 そう、その通りなんだ。


 だから俺も前に何度か職場の実態を記録して訴えた。しかし、記録は神陀の奴に全て握りつぶされ、闇の中に消えた。


 当時はどうやったのかと思ったが、今考えるとブラックストームを始めとした黒い繋がりを利用したのだろうと納得できる。


(……だから今日は握りつぶしようが無い方法で広める。雲上の配信を利用させてもらってな。今朝思いついた単純な案だが……上手くいく事を祈ろう)


「先輩? 何か言いました?」


「いや、なんでもない。よし皆、の仕事を見せよう!」


「「「はいっ!」」」


 俺達は多くの人に見られながらダンジョンに突入していく。

 さて、どうなるか楽しみだ。


 *


 キャラが増えたので簡単にまとめておきます。


千擁四郎せんだ しろう」26歳

 主人公兼語り手、親切探索者事務所四課主任。

 明らかに肩書きに見合わない強さを持つ。


 雲上の言葉は結構真剣に受け止めているものの、恋人を作る気は無いらしい。

 馬鹿真面目に見られがちだが、普通にしたたかな一面も有る。


雲上愛羽くもかみ いとは」17歳

 ヒロイン。ヤンデレJK配信者兼、特級探索者「愛の天使」。犯罪をする。

 千擁を「先輩」と呼ぶ。

 基本的には、ですます口調で話す。

 容姿は、髪が黒と黄色のボーダー模様のツインテールで、背中に四対の白い羽が生えている。服装は探索者向きに改造した学校制服。


 子供の頃ある災害に巻き込まれ、千擁に救われる。

 それ以来彼に異常な執着を持つ。


中柱白華なかはしら しろか」21歳

 ヒロイン2人目。属性過多後輩。犯罪をしない。

 千擁を「主任」と呼ぶ。

 〜っす口調で話す。

 容姿は親切探索者事務所の制服にネズミ耳の付け耳。

 新四では千擁に次ぐ実力者。

 実は一話冒頭から登場してる。


佐藤真次郎さとう しんじろう田中新太郎たなか しんたろう二人とも24歳

 千擁の部下達。犯罪をしない。

 恐らく作中では出ないが↑がフルネーム。

 中柱の次に強いので千擁に名前を呼ばれやすい。


 二人は幼なじみであり、何をする時も一緒。

 仕事の日も、遊ぶ日も、家族を失った日も、刀を取った日も。


 部下は彼ら以外にも結構な人数がいる。


土志炭どしたん花氏はなし起古河きこか」全員25歳

 やられ役の三人、もう名前からして駄目。犯罪をする。

 ブラックストームという探索者グループを組んでいたが、ほとんど迷惑行為しかしていなかった。

 1級探索者なので本来なら普通に強いが油断しきってた所を千擁にボコボコにされる。

 一部始終が配信された事もあり、流石に捕まったらしいが……


神陀多沼かんだ たぬま」26歳

 いわゆるざまぁ役。犯罪をする。

 千擁達の上司で、無理難題な仕事を彼らに強制し続けていた。


 保身と人を利用する才能が異様なまでに秀でている。

 千擁もかなり懸命に抵抗していたのだが、結局、雲上が襲来するまで悪事が露呈する事は無かった。

しかし、彼の悪運は既に尽きたようだ。

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