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第六話 束の間の休息

 鬼島と戦った翌々日。

 いのりは、ギルドのシングルルームのベッドで寝ていた。

 目が覚めると、厚手のカーテンが掛かった窓の端から、ほんの少し光がこぼれて入ってきている。部屋は真っ暗であったが、夜はあけていることは、いのりにはわかった。

 体はあちこち痛かった。それでも動くかどうか布団の中で試してみる。本調子にはほど遠いが、ベッドから出て歩いて回る分には問題なくできそうだった。

 掛け布団をめくると、ベッドの横にあるサイドテーブルの上にあるスタンドのスイッチを入れる。すると、部屋全体がうっすらと見えるようになる。

 そして、自分は点滴をまだ受けていることに気付く。

 点滴の液、輸液はまだだいぶ残っていた。点滴は食事を摂らなくても大丈夫なほどの栄養価のある液である。まだ、途中で針を抜いてしまうのはもったいない気がしたので、アイラが交換に来るのを待つことにした。

 いのりは、体中、包帯が巻かれていたり、ガーゼが貼られていたりしたが、それ以外は何も身に付けていないことに気付く。元々いのりの服は創具の術で作り出したものである。治療のために剥ぎ取られたのだろうが、それで消滅したのだといのりは理解した。

 裸でいるのは、落ち着かないので、点滴の管の邪魔にならないように半袖のシャツに、ショートパンツを創具の術を使い着ている状態でだす。

 いのりは、アイラが来て点滴の針を取ってもらったら、その後何をするか考えた。

 下水道へ行ったり、トレーニングしたりは、体にダメージが大分残っているので無理だ。できることと言えば、食事や歩くことぐらいだ。当然選択肢は狭い。


 外出するなら、ちゃんとした服を作らないといけないな。最近の服のトレンドってどんなだっけ。長い事洋服屋に行っていないな。


 そんなことを考えていると、いつの間にかウトウトしていた。


 朝九時ごろになるとアイラが、点滴を交換に来る。

 いのりは、ウトウトし、夢うつつ状態だったが、アイラが扉を開ける音で目が覚める。

 アイラは、真っ暗のはずの部屋にうっすら明りがあるのに驚く。ベッド横のサイドテーブルの上にあるスタンドの明りがついていることに気付く。

「おはよう」

 うっすらした明りの中にアイラが見えたので、いのりは挨拶した。

 アイラは、部屋の明かりのスイッチを入れると、部屋の中に入ってくる。

「起きていたのね。お加減はいかが?」

 アイラは、ホッとして聞いた。

「だいぶ良くなった。体も動く」

「体も動くって、まだ早いわよ。いくら回復力が高いって言っても、普通なら全治三か月の重傷だったのよ」

 アイラは怒るように言った。

「本調子ではないけど、日常生活を送るのは可能。点滴も要らない。もう通常の食事で大丈夫」

 アイラは溜息を吐く。

 点滴の輸液は、まだ数時間持つ量が残っていること確認する。

「それじゃあ、お粥を作ってもらうから、ちょっと待っていて」


 アイラは、小さなお鍋に入ったお粥をトレイに乗せた物を持って、二十分程で戻ってくる。

「大人しく待っていた?」

 いのりは、「うん」とだけ答える。

 アイラは、いのりのいるベッドにテーブルを置いた。そしてサイドテーブルに一時的に置いておいたお粥のトレイをテーブルの上に置く。

「点滴のお陰でお腹は空いていないと思うけど、まず、食べてみて。食べられたら点滴を終わりにしましょう」

 いのりは、トレイに置かれているスプーンを手に取ると、お粥をすくって食べる。

「うん。美味しい」

 そう言うと、いのりは勢いよく食べ、あっという間に平らげてしまう。

 アイラは、いのりの食欲に驚く。

「どういう体してんの。でも、普通に食事が摂れるなら、点滴は止めても良いわ。でも、しばらくは消化の良いモノだけにしなさい」

「わかった。でも、もう一杯欲しい」

 アイラは驚く。

「どういう体してんのよ」

「エネルギーを摂っても、傷の回復に使ってしまう。だから、すぐお腹減る」

 アイラは、いのりが真面目な顔で言ったので苦笑する。

「治療のために包帯を替えるわよ」

 アイラは、真面目な顔になって言った。

「この調子なら、明日には完治する。だから包帯を替えるだけで良い」

 いのりは、マジメな顔で言った。

「そんな訳ないでしょ。いくら回復が早いからって。あれ、いつの間に服着たの?」

 アイラは、いのりがいつの間に半袖のシャツに、ショートパンツを着ていることに気付く。

 治療の為にいのりの服を斬り裂いた時は、服がいつのまに消滅していたことをアイラは思い出す。

「創具の術でだした」

「便利な術ね。だせるのなら、消せるかしら?」

 アイラがそう言うと、半袖シャツとショートパンツは消えた。

「一瞬で消せるんだ。便利ね」


 アイラは、丁寧に包帯を外し始める。しばらくすると、傷口が見えてくる。

「この傷口だいぶ良くなってきているわ」

 アイラは一つ目の傷を見て言った。

 そして、二つ目、三つ目も、包帯をすべて外すと、すべての傷が大分回復していることに気付く。

「昨日は、あんなに酷かったのに、どうしてこんなに! ありえない」

 アイラはありえない回復ぶりに驚く。

「昨日の処置と点滴良かったんだろう。今回と同じぐらいのダメージを以前受けた時は、今ぐらいに回復するのに一週間かかった。もちろん、その時は治療も受けられず、点滴もなかった」

 アイラは絶句する。

「どんだけ、過酷な人生送っているのよ」

 アイラは、ここまで言うと、本来、未成年は冒険者ギルドのメンバーになれないのに、いのりが冒険者ギルドのメンバーになっている理由を思い出す。


 いのりは、自分が所属していた孤児院潰れ、義理の兄弟たちと別れた後、スラムでストリートチルドレンをやっていた。ストリートチルドレンをやっている間、下水道へコッソリ潜っては魔獣を狩り、魔獣を倒すと得られる魔石を売って生計を立てていたと、鋼崎から聞いていた。

 今回と同じぐらいの重傷をいつ負ったのかまではわからないが、あながち嘘じゃないと、アイラは思った。


 アイラは、溜息を吐く。

「たしかに、このぐらいまで回復したら、ある程度は体が動かせそうね。自然治癒力を高める薬を使いましょう。そして包帯で傷口を保護する。その条件でなら、歩き回るぐらいならしても良いわ」

 アイラは、いのりの目を見ながら言った。

「わかった」

 いのりは、しっかりした口調で言った。




 いのりは、アイラに薬を塗ってもらったあと、包帯を巻いてもらう。

 処置を終えたアイラが部屋を出て行くと、いのりは創具の術で服をだす。まず、下着を出す。次に細い青い縦縞のポロシャツに黒いパンツを着た状態でだす。

 いのりは、ゆっくりベッドの端まで行くと、ベッドに座る姿勢になる。

 だいぶ良い感じに痛みも和らいでおり、いのりは気分が良くなる。

 突然、お腹が空いていることを思い出す。

 お粥をもう一杯もらうことになっていたが、もらうのを忘れていたことに気付く。だからと言って、保健室に行って、アイラにお粥のおかわりをするのも気が引けた。仕方ないので食堂へ行くことにした。



 食堂へ行ってみると、朝食タイムにしては遅すぎ、ランチタイムにしては早過ぎで、食事をしている者はあまりいなかった。

 食券の券売機へ行くと、多くの食券が売り切れていた。朝食の販売が終り、昼食用の食券を補充する前だからだ。

 いのりは、コスパの良い唐揚げ定食の食券を買った。お値段の割にはボリュームもあり、美味しいので、いのりの好きなメニューである。

 食券を持って、厨房の方へ行くと、料理と食券を交換してもらえる。

 トレイに乗せられた料理を持って、近くのテーブルに持って行くと、いのりは美味しそうに食べ始める。




 いのりは、食べ終わると、食器を使用済みの食器を置く棚へトレイごと持って行く。トレイを棚へ置き、食堂をでる。すると、綺麗で可愛い冒険者服を着た、女冒険者三人とすれ違う。いのりは、思わず立ち止まってしまい、女冒険者たちをみとれてしまう。


 私も、あんな可愛い冒険者服着たいな。


 いのりは、そう思った。しかし、自分が着ている服は、全部創具の術で出したモノである。もちろん見た目だけ似たように作ることは可能だが、それでは冒険者服のように高機能の服の性能までは再現できない。創具の術には、形状記憶の技があり、それを使うと見かけだけではなく、素材から性能まで理解できる。そうすると見かけだけではなく、性能まで再現できるが、それを行うには対象に直接触れる必要があった。


 今日は下水道へ行けないし、ウィンドウショッピングにでも行こう。そして、最新の冒険者服とか見に行こう。


 いのりは、自分の部屋に戻ると創具の術で町中を歩いても恥ずかしくない服に変える。白いブラウスに、膝まで丈のあるスカートに、黒い革靴の姿になった。

 昼前なので、冒険者ギルドビル内は冒険者が出払っており、知り合いに遇うこともなく冒険者ギルドビル外へ出る。時折、傷口が痛むこともあったが、我慢できないことはない。かまわず、歩き出す。


 いのりは、デパートなどが建ち並ぶ街まで行く。そこで手近なデパートに入り、洋服屋がいっぱい入っている階、六階へ行った。

 女性物の洋服が売っている店に入ると、気に入った服を見つけるとコッソリ服に触り、形状記憶の技を使う。物を盗んでいるわけではないが、まったく罪悪感がないわけではない。しかし、今はお金の出費を抑えたいので、形状記憶の技を使っていく。

 店の服をほとんど形状記憶の技を使っていくうちに、いろんな服が自分のモノになっていくようで楽しくなっていく。そして、あまり興味ない服まで、形状記憶の技を使い、その服の素材や機能などを覚えていく。


 このぐらいで良いか。


 店の商品をほとんど創具の術で作れるようになったので、店を後にする。新しい洋服を知ることができ、また、創具の術の練習にもなり、一石二鳥で、有意義な時間であった。

 久しぶりに楽しい気分になった。


 上気分でデパートの中を歩いていると、武器屋が目につく。すると、スイッチが入ったかのように人攫いに攫われた弟妹たちを思い出す。


 小さな子供達で、おもちゃの取り合いになってケンカになったのをいのりが仲裁に入ったり、少ないお菓子を分け合ったりした。

 いのりが、小さな子供たちの面倒を見て、また子供たちは、いのりを姉として慕ってくれていた。

 孤児院のマザーの子供としてみんなで仲良く暮らしていたのを思い出す。

 マザーが亡くなった後も、姉兄がいなくなった後も、いのりは弟妹たちと仲良く暮らしていたことを思い出した。


 いのりは、武器屋をガン見する。しばらく見た後、武器屋の中へ入って行く。

 明るい店内の中に所狭しと、冒険者服や剣や盾、弓など、いろいろな武器や防具が陳列されていた。

 いのりは、それらを触ってみたり、手にとってみたりして、形状記憶の技を使っていく。


 しばらくすると、冒険に役に立ちそうなアイテムのほとんどを形状記憶の技を使った。


 弟妹たちを助けて、お金が貯まったら、ちゃんと買いに来ますね。


 いのりは、誓った。

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