視線を感じる暗闇をジッと目を凝らして見つめると、紫色のイタチが二体現れた。
ポイズンウイーゼルと言う魔獣で、体長一メートル三十センチメートルぐらいである。体長だけらならグレイラットと同じぐらいだが、丸っこいグレイラットに比べて細長いので、標的としては小さい。しかも、グレイラットに比べて素早いのでさらに倒し辛い。それに加えて毒まで使って来る恐ろしい魔獣である。
いつもは単体で現れるのだが、今回に限って二体同時である。いのりにとっても、こんなことは初めてであった。
一体だけならそれほど脅威でなくても複数同時に現れると脅威なのは、グレイラットで十分学んでいる。
いのりは透明の防護盾を作り構える。そして、右手にショートソードを作り構えた。
ポイズンウイーゼル二体は、口から毒液を吐き掛けて来た。
いのりは、二つの毒液を防護盾で受ける。ショートソードが届く距離ではない。距離を詰めるか、撤退するか、判断に迷ってしまい、その場に留まってしまう。
ポイズンウイーゼルの一体は、もう一度毒液を吐き掛けて来て、もう一体は突進してくる。
いのりは、毒液を防護盾で受け、突進してきたポイズンウイーゼルにショートソードによる攻撃を合わせる。
しかし、突進してきたポイズンウイーゼルはショートソードを避け、いのりのから離れる方向へ反れる。
いのりが、そちらに気を取られていると、もう一体が毒液を吐き掛けてくる。いのりは毒液を防護盾で受ける。
「やっぱり二体同時はキツかったか」
しかし、今から離脱するのはあまり良い選択とは言えない。本日の目標は、ポイズンウイーゼルを四体狩る事。この二体を狩れれば、今日の目標の半分達成できる。
ポイズンウイーゼルの一体の毒液攻撃と、もう一体の突進攻撃による連携は厄介だった。一進一退、いのりにとってもギリギリの戦いであったが、均衡は崩れた。
いのりがショートソードで突進してきたポイズンウイーゼルを攻撃しようとしたら、ポイズンウイーゼルはいのりから離れる方へ反れず、いのりの正面側に反れた。いのりはそれに合わせて防護盾を勢いつけて叩きつけた。地面に落ちた所をさらに防護盾のカドを叩きつけ、動きが止まったところをショートソードで突き刺す。
しかし、残ったポイズンウイーゼルも眺めているだけでなかった。毒液をいのりの左腕に命中させた。
左腕は冒険者服の袖に守られているが、染み込み始めていた。
いのりは、機転を利かせて、冒険者服を消滅させた。もともと創具の術で作り出した冒険者服である。消滅させるのも造作もない。
冒険者服の内側まで染み込む前に、冒険者服を消滅させたので、無傷で済んだ。
そして、防護盾を構えながら残りの一体へ突っ込んでいく。
いのりの気迫の突進に、ポイズンウイーゼルは怯む。そこにいのりは容赦なく防護盾を叩きこむ。命中し動きを止めたところを二度三度と防護盾で殴るとポイズンウイーゼルは消滅し魔石になる。
いのりが、下水道でポイズンウイーゼル狩りをすること一時間が過ぎていた。そして、つい今しがた、ポイズンウイーゼルを四体目が狩れた。目標達成したので、引き返そうと出口に向かう途中、初めて見る魔獣と遭遇した。
いのりは、角がなければハクビシンのようだと思った。
鼻から額に掛けて白い線があり、額には一本の角がある魔獣であった。グレイラットより小さいが角があるハクビシンの魔獣で、キラーハクビシンと言う。つまり、いのりの感想は正しかったのだ。
キラーハクビシンは、下水道の出口の方、いのりが進みたい道にいる。
戦わずに通り抜けるのは無理そうだ。また、戦わずに迂回しようとすると大分遠回りになる。
本物のハクビシンなら人間が近づけば、向こうが勝手に逃げて行ってくれるだろう。こいつは魔獣である。本物のハクビシンと同じ行動するとは思えない。
いのりは、考え込む。
敵は一体だけ。上手くすれば、倒せないまでも先へ通り抜けられるかもしれないと思った。
いのりは、透明の防護盾を作り、ゆっくり進む。
キラーハクビシンは、全身の毛を逆立て、いのりをシャーと泣き声で威嚇する。
いのりは、透明な防護盾越しにキラーハクビシンをしっかり様子を見ながら、ジリジリと進む。
突然、キラーハクビシンが、前足で引っ掻いてきた。
いのりは、防護盾で受け、右手にショートソードを作り、適当に振回す。キラーハクビシンはショートソードの攻撃を避け、距離を取る。いのりは、落ち着いて再びジリジリと進む。
キラーハクビシンは、シャーと激しく威嚇する。
いのりは、ショートソードを消滅させると、槍を作り、キラーハクビシンへ突きを入れる。キラーハクビシンは、さらに距離を取る。
本日は、狩の目標は達成している。未知のモンスターを無理に狩る必要はない。このまま、逃げてくれればそれでよし。そんな感じで戦っている。しかし、キラーハクビシンは、いのりがここを通り抜けるのを嫌がっている。理由は、魔獣の単なる本能の為だ。
キラーハクビシンは、突然、槍の横をすり抜けると、いのりの方へ突撃する。いのりは、槍を消滅させてショートソードを作る。しかし、キラーハクビシンの突進には、ショートソードは間に合わず。キラーハクビシンは、角で突く攻撃をする。いのりは、防護盾で受ける。防護盾にビチャッと少量の液体が弾ける。
キラーハクビシンの角には、角で突く攻撃をした後に、追い打ちの麻痺毒が出る。その麻痺毒は、即効性はないが、獲物の動きを少しずつ鈍らせて、最後は動けなくする効果がある。さらにキラーハクビシンの牙にも、角同様に麻痺毒が出る仕組みになっている。角で突く攻撃も、牙による攻撃も共に受けてしまうと非常に危険である。
その為、キラーハクビシンの基本の戦闘スタイルは、ヒットアンドアウェイである。
麻痺毒でジワジワと獲物を追い詰めていく戦術だ。
いのりは、防護盾に当たった液体は、何かの毒だと予想は出来たが、毒の種類までは当然分からない。だが、角の攻撃は気を付けないと危ない事は理解した。
いのりは、ショートソードから槍に持ち替えて、今度は槍で対抗する。
キラーハクビシンは、再び隙を突いて、また距離を詰めてくる。いのりは、再びショートソードに持ち替えて待ち構える。ショートソードでの攻撃は間に合わないと思い、今度はキラーハクビシンの突進に合わせて盾をぶちかまそうとする。するとキラーハクビシンは、体勢を入替えて盾を踏み台にして、横の壁に跳ぶ。そして、壁を蹴っていのりの防護盾の横から噛みつき攻撃をする。
いのりは、左腕を噛まれた。キラーハクビシンの牙は、冒険者服をあっさり貫き、いのりの肌に突き刺さる。いのりは、すぐに毒の存在に気付く。非常に危険であると察知し、防護盾を放す。右手はショートソードからさらに短い短剣に持ち替えながら、左腕に噛み付いたままのキラーハクビシンを左腕ごと壁に叩きつけようとすると、キラーハクビシンはいのりの腕を放す。いのりはそのタイミングを見て、短剣を叩きこむ。短剣はキラーハクビシンの胴体を貫く。
キラーハクビシンは消滅し、魔石に変った。
いのりは、キラーハクビシンに噛まれた場所を確認する。噛まれた場所が手首に近い場所だったため、冒険者服の袖を短剣で切れ目を入れたあと、袖を斬り落とし、傷口を見ると噛み傷があるだけで特に痛みはなかった。
いのりにとって、まだ未知の毒の可能性はあるが、種類が分からないままでは対応のしようがない。
いのりは、自分の体が、病原菌や毒などにある程度、耐性のある体質であることは分かっていたが、未知の病原菌や毒の効果を受けない訳じゃない。
魔石を回収すると、早めにこの場を後にする。
いのりは、下水道を進んでいくと、左腕が麻痺していることに気付く。キラーハクビシンに噛まれた場所を見ると、真っ赤に腫れていた。
いのりは、キラーハクビシンの毒が麻痺毒であったことに気付く。そして、今は危機的状況であると。
いのりの戦闘スタイルは、左手に巨大な防護盾を持ち、敵の攻撃を受けきる事が要である。その左手が今は使えないのだ。もちろん右手で防護盾を持つことは可能だが、そうなると攻撃方法が、防護盾を使った攻撃しか出来ず、攻撃力は非常に落ちる事になる。
それだけではない。この未知の麻痺毒の麻痺が体の何処まで広がるのかも分からない。どのぐらいの時間麻痺したままのなのかも分からない。とにかく、一秒でも早く下水道を出ないと危険だ。
いのりは、グレイラットが出てきても、無視して出口へと急ぐ。
グレイラットでも、集団で出てくると危険だが、今は左手が使えない。動きが早く逃げ回るグレイラットを剣や槍だけで退治するのはかなり難しい。楽に退治するには、投網が必要だが、投網は両手を使って投げる為、左手が使えない時点で投網も使えないのだ。
しばらく速足で進んでいくと、今度はポイズンウイーゼルが現れた。
今日はもう出て来なくて良いと言うタイミングで、出てくるのが魔獣である。いのりは、防護盾を右手に作り出し、構えてそのまま強行突破する。
ポイズンウイーゼルが毒液を吐き掛けて来たが、防護盾で防ぎ、そのまま強行突破する。
いのりは、ポイズンウイーゼルを何とか振り切ると、地上への階段を見つける。いのりはその階段を駆け上って行く。
いのりは、無事地上階に戻って来られた。しかし、左手は完全に麻痺しており、その麻痺は左腕の肘辺りまで広がっていた。このまま麻痺が広がり、下水道を彷徨っていたらかなり危険だったはずだ。とりあえず、ホッとして外への扉を開けると、そこに五人の人影があった。
いのりは、思わず驚く。
ダンジョンの中では、自分達以外の冒険者も警戒しなければならない存在だからだ。