ネオページでの初の作品紹介記事は、本格的ヒストリカルロマンス『マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う』(碓氷シモンさん作)を取り上げます。
この記事の最後、------の後は少しネタバレになりますので、作品を読んでいない方は飛ばしていただけると幸いです。あまりのネタバレには一部伏字があります。
※2025年2月9日の当記事投稿時には本編の終章まで投稿されていましたが、その後、脇役をクローズアップしたスピンオフ6話、後書きと「インスピレーションの源」を含む別章が公開されました。それを踏まえてネタバレコーナーの直前と最後に追記してあります。追記以外は、最終章まで読んだ時点の感想です。
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紹介No. 1
URL:https://www.neopage.com/book/30663076621990900
ジャンル/サブジャンル:異世界恋愛/ロマファン
話数:38話(2025/2/16現在)
文字数: 83,943文字(2025/2/16現在)
投稿状態:完結済
セルフレイティング:残酷描写有り、性描写有り
※本記事投稿後、2025/2/16に別章が完結した時の状態を反映させています。
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碓氷シモンさんとは、活動しているサイトが重なっている上に、私好みの本格ヒストリカルロマンスを書いていらっしゃることから、ありがたいことに普段から交流させていただいています。
交流のきっかけは、私が2004年7月から9月までカクヨムで主催した自主企画『そのドロドロ、過剰です⁉︎』でした。碓氷シモンさんは、別作品の『導く者に祝福を、照らす者には口づけを 〜見捨てられた伯爵夫人は高利貸しの愛で再び輝く〜』で参加してくださいました。実はその作品を別サイトでも読んでいたので、その作者様と交流することができることになってとても嬉しく思ったのを覚えています。それと前後してシモンさんはネオページでも同作品を投稿開始され、私も後を続きました。
カクヨムでの私の自主企画『そのドロドロ、過剰です⁉︎』(現在は終了)
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093080425113428
『導く者に祝福を……』は第1回NSP賞などのコンテストで第1次選考を通過したことからも、シモンさんの実力は折り紙付きです。
『導く者に祝福を、照らす者には口づけを 〜見捨てられた伯爵夫人は高利貸しの愛で再び輝く〜』(完結済)
https://www.neopage.com/book/30471910911109200
碓氷シモンさんが私の自主企画に参加してくださった上記の作品に負けず劣らず、今回紹介させていただく『マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う』でも、主要登場人物達の愛がもつれにもつれ、読者に余韻は残すものの、タグ通りの結末になります。
実は『マルベリーの木の下で……』と『導く者に祝福を……』は同じ大陸の恋シリーズ三部作に入っており、前者は第2弾(Ver. 2.0)、後者は同第1弾(Ver. 1.0)です。両者は必ずしも登場人物が重複するわけではありませんが、世界観が共通で、「19世紀半ばから20世紀にかけて、ヨーロッパの架空の国々で巻き起こる様々な恋模様」を題材とした本格的ヒストリカルロマンスです。
この「大陸の恋シリーズ」のようなシリアスな展開のヒストリカルロマンス、特に本作のように(ちょっと)切ない系のヒストリカルロマンスが私は大好きですが、そのような作品が残念ながらWeb小説には少ないのが現状です。読者の方々も素敵なヒストリカルロマンスを見つけたら是非ご一報ください。
「大陸の恋シリーズ」のように、私は世界観を共通とした物語の世界が広がっていったり、一旦完結した作品のその後や関連のお話がスピンオフでまた読めたりするのが好きです。なので大陸の恋シリーズとして複数の作品が何かしら繋がっているのにワクワクします。この世界がどんどん広がってなっていくのを楽しみにしています。
そのシリーズの中から、今回は『マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う』を僭越ながら紹介するのに選ばせていただきました。
前置きが長くなってしまいました。早速ですが、私の書いた粗筋を掲載します。ただし、ネタバレしてもいけないですし、ボキャ貧の私には碓氷シモンさんの用意した粗筋と大して違うことは書けていません。
【粗筋】
第1次世界大戦前後の不穏な状況にあったヨーロッパのように、それまでの王侯貴族が支配してきた古い体制と価値観が崩壊した世界が舞台です。ヒロイン・エレノアは、そんな時代の荒波に翻弄されつつも、傾きかけた婚家を切り盛りし、過去の栄光を忘れられない姑と幼い息子を守って、夫ヴィルヘルムの出征後も強く賢く生き抜いています。でも彼女が待ち焦がれる夫は中々復員してきません。誰もが諦めろと言う中、6年後になってようやく彼は復員してきましたが、そんな彼には何やら秘密がありそうで、それが分かった時、彼らに悲劇が襲いかかります。
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タイトルにあるマルベリーって桑の実のことなのですが、本作を読み始めてマルベリーをググるまでその事実を知りませんでした。桑の実っていうと、田舎のガキどもが近所の桑畑に侵入して手指と口の周りを赤黒く染めながら盗み食いするイメージがあります(古いかな?)。でも今の子供はそんなことしないでしょうし、そもそも桑畑がないかもしれませんね。とにかく桑の実をマルベリーと呼ぶと途端におしゃれな感じになって、碓氷シモンさんの作品の名付けセンスが光っています。このマルベリーの木も本作の中で重要な役割(文字通り!)を果たす場所になります。
この作品を読むと、まず第1次世界大戦前後の不穏なヨーロッパの雰囲気たっぷりの世界観に魅入られます。それまで特権階級だった人々が突然落とされた境遇への悲哀、時代の荒波に翻弄されるありとあらゆる階級の人々の苦悩、それに伴う社会の混乱――そんな激動の時代の雰囲気が主人公達のエピソードから垣間見えます。
でも私が最も惹きつけられたのは、エレノアとヴィルヘルム、粗筋には登場しないもう1人の幼馴染の3人が愛に翻弄されるところです。そこには今流行りの溺愛とかスパダリとかは登場しません。むしろ切ない気持ちが溢れますが、重厚な世界観と相まってむしろそこがいいのです。
結末はほぼ「バッドエンド」のタグ通りですが、具体的な結末は予想していなかったもので驚きました。でもそれをエピローグが補って余韻を感じさせる結末でした。
実はバッドエンドもメリバもあまり好まれている結末ではないのですが、碓氷シモンさんはちゃんとタグで予告していました。ただ、バッドエンドやメリバのタグを入れると具体的な内容が分からなくても、ハッピーエンドではないのは分かってしまい、ネタバレで興覚めするという意見もあると思います。そういう完全なネタバレ敬遠派がいる一方で、具体的な結末までは分からないのだから読む意欲をそぐことはないという意見もあるでしょう。読者がタグで選択肢を与えられている場合、バッドエンドやメリバが嫌な読者はその作品を読むのを回避することができます。
タグとネタバレの関係は難しい問題で、人それぞれの考えがあるので、明確な結論は出ないでしょう。2024年8月にその件について考えさせられることがあり、カクヨムの近況ノートにも書きました。その内容を加筆して本作第1部第3話で公開してありますので、もしよければどうぞ:
https://www.neopage.com/chapter/31420020128841600/31426828020040716
話を『マルベリーの木の下で……』に戻しますが、碓氷シモンさんは後書きと最後の「インスピレーションの源」で当初のプロットと変わった部分など興味深い創作裏話や、インスピレーションの元になった作品を披露してくれています(※別章公開後)。プロットがどう変わったのか、読者の皆さんはどちらが好みか、確認してコメントしてみてはいかがでしょうか? 小説を書く身としては、読者の皆様にご意見をいただくと次の創作のヒントになってありがたいですよね。大抵の作者さんはそう思われることと思います。
それから本作はスピンオフなどの予定はなくこれで完全完結とのことですが、碓氷シモンさんの大陸シリーズで『マルベリーの木の下で……』と『導く者に祝福を……』が繋がっていく予定だそうで楽しみにしています。
【追記2025/2/17】
今までは、エブリスタでのみ追加エピソード「ある貴賤結婚」4話と外伝2話を読めましたが、非公開になったカクヨム版にのみあった後書きと「インスピレーションの源」は読めないままでした。ですが、上記の追加エピソード6話も含めて後書きと「インスピレーションの源」をシモンさんはネオページで一挙公開して下さいました。言わば、ネオページ版が完全版マルベリーです。
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↓まだ読んでいない方はネタバレがあるので、飛ばして下さい↓
エレノアの鬼姑(大奥様)は、復員してきた息子のあの真相に気付いていたのでしょうか?
大奥様は意地悪でひねくれてるんですが、なぜか気になります。なので、完全完結とおっしゃってるのに、カクヨムでの紹介記事の初出で図々しくもスピンオフの希望を出してしまいました。大奥様(皇帝の姪)が格下の男爵を見初めて無理矢理結婚まで持っていったのに結婚後にようやく現実が分かって失望していく過程も読みたくなったのです。そうしたら、シモンさんはネオページでも大奥様の若き頃の新たな魅力(?)を引き出すエピソードを追加して下さいました!
マクシミリアンは、父に手紙を送るなと言われてその理由を伝えられた時、父の意図を何となく悟っていたような気がします。それでも父の言うことを聞いた彼がいじらしくて涙ぐましかったです。
タグにちゃんと「バッドエンド」とありましたが、碓氷シモンさんがプロットを変えるのを心の奥底で期待していたのか、結末はやっぱり衝撃的、かつ予想以上でした。〇〇には秘密をかかえたまま〇〇ていって欲しかったな、そうすれば△△も〇〇ていてくれただろうにとつい思ってしまいました。でも碓氷シモンさんは読者に微かな希望を残してくださいました! 最高です! それならタグはバッドエンドじゃなくてメリーバッドエンド(メリバ)かな?と思ったりもしました。
【ネタバレ追記2025/2/17】
「ある貴賤結婚」の若い頃のヒルデガルド(大奥様の名前です!)は、立場もわきまえずに初恋まっしぐらで、後の頑固鬼姑の様相を知らなければ、ちょっとおバカだけど恋に恋するかわいい乙女としか思えません。でも追加エピソードを最後まで読むと、ああ、それ見たことかとなります。そこまでしっかり覚悟してエドガーに嫁いできたのに、その覚悟と愛はどこに行っちゃったのでしょうか。
そんなに飽きっぽくてとても良妻と言えない頑固なヒルデガルドに呆れながらも、エドガーがなんだかんだと最後まで妻を愛して甘やかしていたであろうとコメントで知り、キュンときました。
シモンさんが2人のイチャラブシーンを準備中と知り、期待でワクワクしています。特に初夜をお願いしたいです。憧れのエドガーに抱かれる期待でテンパっているヒルデガルドと、雲の上の元公女を抱く緊張でガチガチだったけど途中から野獣化したエドガーを見たいですが、ネオページで「野獣化」は無理ですね。その他にも、ヒルデガルドに冷たくあしらわれてエドガーがあたふたする所が見たいです。これだったら、ネオページでも大丈夫ですよね?(勝手にリクエストしてすみません)
エレノアの両親の馴れ初めは、カタリーナが幼いエレノアを残して亡くなる未来を知っているだけに切なかったです。せっかく2人で新天地を目指して帝都に行ったのに、幸せな期間が短かったとは、運命は無情です。
シモンさんが「インスピレーションの源」として言及されている作品の中では、エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』(1867年)に特に興味を持ちました。ウィキペディアの受け売りですが、「二人の男(夫と愛人)と一人の女で構成される三角関係」を描いている初期の作品群の1つだそうで、私の好きなドロドロ愛憎劇が期待できそうです。
『テレーズ・ラカン』には、1952年の角川文庫と1966年の岩波文庫の翻訳がありますが、残念ながら両方とも絶版です。特に角川文庫版は試読の範囲内でも旧仮名遣いで読みづらく、新しい訳があればいいのにと思いました。私はフランス語を第三外国語として大学で一応習いましたが、原文で読もうとしたら私の語学力では一生かかっても読み終わらないこと必至です。