本エッセイは、作品のあらすじでも紹介しているように、カクヨムで公開中の作品紹介・感想エッセイ『迷える子羊の読書録』の創作論的な部分を加筆修正してネオページに投稿したものです。『迷える子羊の読書録』を立ち上げる時にまず思いついた課題は、作者に事前に承諾を得るかどうかでした。
スコッパー(埋もれた良作を見つける者、作品紹介することもある)活動を積極的にしているなろうファンDB管理人(作品紹介エッセイの作者としては新大宮)さんと、小説家になろうで影響力の大きい作品紹介エッセイ著者ひょろさんはどうしていたのか、気になって伺ってみました。
『掘る、そして読む 〜小説家になろうのオススメ作品紹介〜』(新大宮さん作 ※3級スコッパー名義)
https://ncode.syosetu.com/n4649ha/
『読み専が紹介する『なろうお気に入り作品』』(ひょろさん作)
https://ncode.syosetu.com/n5553dx/
新大宮さんは、作者の承諾は基本的に不要だと思っているそうですが、トラブル防止の観点からも念のために作品の感想欄から事後報告をしているそうです。それで紹介エッセイ『掘る、そして読む 〜小説家になろうのオススメ作品紹介〜』から作品を取り下げてくれと言われた経験はないとのことです。
ひょろさんは、『読み専が紹介する『なろうお気に入り作品』』の前書きに書いてある通り、取り下げ制にしています。つまりひょろさんからは作者に連絡を事前にも事後にもとらないので、作者が掲載に不本意なら、ひょろさんに連絡して紹介エッセイから記事を削除してもらうようになっています。
ひょろさんは事前に同意を取るのもいいと思うそうですが、既になろうから離れてしまった(かつ、まだ作品を削除していない)作者の良作も紹介したいために取り下げ制にしているとのことです。
後は現実問題として、あれほど多数の作品紹介をこなすためには、紹介しない作品も含めてもっと多くの小説を読んでいるはずですし、送られてくる膨大な感想と時に的外れな作品推薦にも対応した時間も考えると、作者への事前承諾や事後報告をする時間が中々取れなかったと思われます。対応していたとしても、作者の返事を待っていたら、あれほどのペース(7年間で586作品)で作品紹介はできなかったでしょう。
ひょろさんのエッセイはブックマークが2万件以上あるモンスターエッセイだから、ひょろさんが連絡しなくとも作者自ら掲載に気付いた可能性が高いと思います。でも私のエッセイでそれをやったら、私から連絡しない限り、特に交流のない作者さんには掲載に気付いてもらえる可能性が少なそうです。
それに、新大宮さんとひょろさんが事後承諾制/取り下げ制にしているのは、小説家になろうのサイトで明記されている決まりが大きいでしょう。恥ずかしながら、この件にはひょろさんに教えていただいて初めて気付きました。
小説家になろうヘルプセンターの「宣伝に関するよくある質問」にはこう書かれています:
「小説家になろうに投稿されている全ての作品は、宣伝・紹介・リンク、全て自由です。この自由とは、誹謗中傷や権利侵害となる形での利用は禁止という前提があってのことです。作者から紹介の掲載をやめてほしいと言われた場合は速やかに掲載を取り下げ、当事者間で解決してください。」
出典:https://syosetu.com/helpcenter/helppage/helppageid/93
小説家になろうの利用規約でこの件に関する決まりがあるか探してみたところ、著作権関連の条項が4つありました。
小説家になろう利用規約:https://syosetu.com/site/rule/
第13条「ユーザの責任」第3項は、著作権法に違反する等、他人の権利を侵害したユーザーは自らの責任と費用において解決しなければならないと定めています。第14条「禁止事項」第1項は、著作権や知的財産権を侵害するもしくは侵害する恐れのある行為を禁止しています。第18条第1項「テキスト等の情報の使用許諾等」は、著作権と著作者人格権が作者に帰属する事を明記しています。第20条第4項では、投稿作品が第三者の著作権を侵害すると小説家になろう運営が判断した場合、削除または公開範囲の変更等が行われるとされています。このうち、小説家になろうヘルプセンターの「宣伝に関するよくある質問」の回答に直接関係する利用規約は、第13条第3項と第14条第1項でしょう。
ではネオページでは、作品の紹介や引用についてどう決められているのでしょうか。
ネオページ利用規約第9条「禁止事項」第1項にて「当社(註:ネオページ)もしくは他者の著作権、著作者人格権、商標権等の知的財産権を侵害する行為、または侵害する恐れのある行為」、第4項「その他、当社がスパムと判断する行為」第31号にて、「他者の著作物を引用する場合において、出典を明示しないまま引用を行う行為」が明確に禁止されています。
また、投稿作品の著作権やその他の一切の知的財産権は、第11条「知的財産権」の第3項において当該著者に帰属すると明記されています。
「ネオページ」利用規約
https://www.neopage.com/agreement/1092759632457519100
利用規約第11条第3項および第4項については、ヘルプ内のネオページ投稿ガイドライン「3. 著作権に関する注意事項」がもう少し踏み込んで詳しい説明をしています:
https://help.neopage.com/#/3.%E4%BD%9C%E5%93%81%E3%82%92%E6%9B%B8%E3%81%8F%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/Guideline?id=_3-%e8%91%97%e4%bd%9c%e6%a8%a9%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e6%b3%a8%e6%84%8f%e4%ba%8b%e9%a0%85
その中でも、「3.2 引用について」の注意事項が以下の通りに定められています:
「引用とは、著作権法に定められた方法で、私的使用以外にも、著作権者の同意なしに第三者の作品を使用できることを指します。すでに公開された第三者の作品が公平な慣例に従い、報道、批評、研究などの引用目的の合理的範囲内で使用され、出典が明記されるなどの条件を満たす限り、著作権者の同意なしに使用することができます。」
「さらに、本サービスにおいて著作権侵害を構成しない引用であっても、さまざまな理由で紛争を引き起こす可能性がある引用投稿については、ユーザーに通知することなく、削除、非公開、使用制限、またはアカウントの削除を行う場合があります。」
この投稿ガイドラインの引用の最初の段落は、小説家になろうヘルプセンターの「宣伝に関するよくある質問」の回答と同じような事を言っています。それからその次の段落のガイドラインの内容を見る限り、作品紹介をする時はトラブルを避けるために念のため、紹介予定作品の作者に了解をとるほうが無難に思えます。
他にも著作権について何か決まりが書かれていないかネオページのヘルプを探したところ、「ネオページに投稿した作品に関する「著作権」及び「著作者人格権」について」と題した注意事項もありました:
https://help.neopage.com/#/3.%E4%BD%9C%E5%93%81%E3%82%92%E6%9B%B8%E3%81%8F%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/Copyright?id=%e7%ac%ac11%e6%9d%a1-%e7%9f%a5%e7%9a%84%e8%b2%a1%e7%94%a3%e6%a8%a9
著作者人格権は、私のような非法曹関係者にはあまり馴染みがない言葉でしょう。さっと調べてみたところ、この権利は著作者の人格的利益を保護するための公表権、氏名表示権、同一性保持権から成り、著作者に一心専属的なので譲渡不可能だそうです。したがってネオページ投稿作品の作者は、作品公開後ももちろん著作者人格権を保有し続けます。
ただし、投稿作品の宣伝等のためにネオページが作品の一部を抜き出すと言ったような必要最低限の改変を行って配信等する場合がありますが、その際にある程度素早く行わなければならないため、作者の同一性保持権の行使を一部制限する必要があるのだそうです。つまり、ネオページはいちいち事前に一部改変の了承をとらないので、投稿時に作品宣伝の際の一部抜き取りのような改変を了承してね、という事です。
それから、カクヨムではどうなっているのでしょうか。本エッセイはカクヨムで投稿しているエッセイ『迷える子羊の読書録』が元になっているので、小説家になろう、およびネオページと比較してみました。
カクヨムサイト内を探しても、私の見る限り、他者の作品の引用・紹介については規約でもヘルプでも言及していませんでした。
『カクヨムサービス利用規約』:https://kakuyomu.jp/legal/tos
利用規約で関係がありそうなのは、第11条「知的財産権」、第12条「私的利用の範囲外の利用禁止」、第13条「営利目的利用の禁止」、第14条「禁止事項等」第1項第9号(KADOKAWAまたは第三者の権利を侵害する行為禁止)ぐらいのように見受けられました。特に第14条第1項第9号の禁止事項は、小説家になろうとほぼ同じような内容です。
第11条第3項は、カクヨム会員がKADOKAWAおよびKADOKAWAから権利を継承または許諾された者に対して著作者人格権を行使しない事を定めています。ここで想定されている著作者人格権は、同一性保持権、つまり著者の意図に反した変更、切除その他改変を受けない権利を指しています。具体的には、作品の宣伝のための一部抜き出しも作品の改変に当たる可能性があるので、カクヨム運営は著作者人格権の不行使をユーザーに承認してもらっています。この点はネオページと同じです。
その点をカクヨムヘルプセンターの「知的財産権の規約に関して」が詳しく説明しています。
※ヘルプセンターでは第11条が誤って第10条と記されている事に注意。
カクヨム ヘルプセンター「知的財産権の規約に関して」
https://kakuyomu.jp/help/entry/faq_authors_personal_rights
でもこの説明は、上述のように主に著作者人格権の不行使についてのユーザーの不安を取り除く説明となっており、他者の作品の引用について言及はありません。
実際にカクヨムで作品紹介エッセイを書かれている方は、他者の作品を引用したり、参照したりする時にどうしているのでしょうか。カクヨムに公開している私の作品紹介エッセイ『迷える子羊の読書録』で紹介した『読書日記(時々スコップレポート)』の著者・秋田健次郎さんは、掲載前に作者に承諾を取っていないそうです。でも記事を削除しろなどと作者から言われたりするような問題は、表立って特にないようです。
秋田健次郎さん作『読書日記(時々スコップレポート)』
https://kakuyomu.jp/works/16817330668807593253
以上、小説投稿3サイトを比較しましたが、カクヨム以外の小説家になろうとネオページは、引用の自由と条件が明記されていました。また、私が伺った4人の作品紹介エッセイの著者(1名は希望により匿名)は、事前に作者に了承を取って作品紹介をせず、取り下げ制にしていますが、実際に紹介作品の作者に取り下げてくれと言われたことはないようです。
私がカクヨムで投稿している感想・作品紹介エッセイ『迷える子羊の読書録』でも、最初は作者に事前に承諾を取らずにゲリラ的に作品紹介していくつもりだったのですが、「前書き」にいただいたコメントでアドバイスを受けて事前に作者に意向を伺っています。今のところ紹介を断られた事は1度きり、後から記事を取り下げたいと言われえた事はまだありません。むしろ、誹謗中傷以外なら紹介は読者の自由というスタンスの作者もいました。
私も同様の考えです。ネットで公表している以上、本来、自らの知らない所で引用されても当然だと思います。本や論文を執筆する場合を考えたら、それは分かるでしょう。その際、別の出版物を参照して引用したりするのは当然ありますが、図版でも引用したい訳でない限り、いちいち著者の了解を取りません。ただし、Webサイトでも出発部でも参照元や引用元の文献情報は当然記載すべきです。
私の作品に関して言えば、万一本エッセイを引用してくださる奇特な方がいらっしゃるのなら、きちんと引用元に言及さえすれば事前に私の承諾は必要ありません。引用なしに本エッセイに言及するだけならURLを記載する必要すらありませんが、読者の利便性を考えるとURLを記載したほうがいいですし、私もその方が嬉しいです。
その場合、義務ではありませんが、ここで言及したよとか、引用したよとか、事後でも私に教えていただけたら嬉しいです。自分の作品がどこかで読まれている、引用されているって分かると、作品を書く喜びに繋がるんですよね。それにそこから交流も生まれるかもしれません。
結果として、私はアドバイスを受け入れて事前に作者の皆様に連絡してよかったと思っています。それは紹介した作品の作者さん達に喜んでいただけたという肯定的な面からだけでなく、そこから生まれる交流も嬉しいからです。カクヨムで『迷える子羊の読書録』を投稿し始めてから現時点(2005年2月上旬)でまだ4ヶ月半程なので、この縁がどれほど続くのか分かりませんが、作者への事前連絡は続けていきます。
ネオページでもこのエッセイで作品紹介をする際は、作者に事前に了承をとる予定です。当初、ネオページでは本作を純粋なる創作論(?)エッセイとして投稿していくつもりだったのですが、本エピソードを投稿してみてせっかくなので、ここでも作品紹介をしたくなりました。まずはお試しで既にカクヨムで紹介させていただいている作品から第2部「作品紹介」で順次紹介させていただきます。