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第6話 BLにエロは必要?

 前回の記事ではKADOKAWAのBL小説レーベルであるルビー文庫のコンテストを例にとり、レーベルの求めるもの(この例では挿入ありのエロ)を盛り込まなくても作品の質さえよければ、コンテストで受賞できるかどうか考察しましたが、それは無理だろうという身も蓋もない結論になりました。


 今回の記事では、今でもエロがBLに必須なのかまとめてみます。現在もBLは肩身が狭いのかという問題も書きたかったのですが、エロとBLについての話が長くなりましたので、次回に譲ります。


 ちなみにご注意いただきたいのですが、今回の記事でも前回同様、ひたすらエロエロ連発します。というか、もう連発しています。前回の記事で数えてみたら21回「エロ」を使っていました。ふと気が付いたんですけど、BL界隈では「エッチ」とか「ラブシーン」とか言わないでいつも「エロ」って言っていますね。


 こんな記事を書く私ですが、BLは全くの初心者です。カクヨムでなBL小説を読み、他サイトでBLと異性愛両方ありのR18小説を1作書いているです。過激な性描写でカクヨム運営から2度も警告受けておいて何おぼこぶってるんじゃ!と読者の皆様からツッコミを受けそうではありますが……


 BLに精通している知人に現在のBLの状況を聞いた感じでは、15年前の第11回角川ルビー小説大賞の頃よりは、色々多様化しているようです。特にファンタジーBLが増えてきて異性愛を主題にする異世界恋愛系と同じような異世界転生、悪役令息(異世界恋愛系の悪役令嬢みたいなものですね)、逆行ものが流行っており、BL特有のオメガバースやDom/Sub(両方とも異性間の恋愛小説にもあります)などの要素も加わることが多いそうです。


 ですが個人的な感触だけでなく、何か客観的なエビデンスがどこかにないかと探していたら、「腐女子マーケティング研究所」の公式noteで「商業BL 10年史 ~トレンドはどう変わったか~」と題した記事(2024/8/27)を見つけました。この記事は、2014年から2024年上半期までの商業BLコミックと小説の変遷を辿っています。


腐女子マーケティング研究所公式note「商業BL 10年史 ~トレンドはどう変わったか~」(2024/8/27)

https://note.com/fujoshimarke_lab/n/nb9095ab10892


「腐女子マーケティング研究所」は、BL漫画(コミック)・小説レビューサイトとして絶大な人気を誇っている『ちるちる』を運営している株式会社サンディアスが運営しています。サンディアスはXやYouTube、noteのようなSNSにて腐女子マーケティング研究所の名義で腐女子(BL)マーケティングを解説しています。


BL漫画(コミック)、小説レビューサイト『ちるちる』

https://www.chil-chil.net/


「商業BL 10年史 ~トレンドはどう変わったか~」で1番参考になったのが、「人気BLのエロ度10年史」です。ちるちるレビューランキングで1000P以上の作品のエロシーンをページ換算してエロ度を判断しています。1冊(200ページ前後)に含まれるエロシーンが数ページの作品のエロ度を「少なめ」、それ以上~20ページまでは「標準的」、全ページの1.5割~3割だと「エロエロ」、3割以上またはアブノーマルシーンだと「変態」として分類しています。個人的には「変態」がちょっと気になりますが、かなりの少数派で全期間を通して折れ線グラフの底を這っています。


 腐女子マーケティング研究所のこの分析によれば、エロなし、エロ少なめ、エロエロの作品数は年によってばらつきがあります。2020年以降、特にエロエロが減ってエロなしが増えており、2023年に至ってはエロなしとエロエロが拮抗しています。ですが、やはり全期間を通じてエロ度が標準的な作品が最も多いそうです。


 その他にも腐女子マーケティング研究所は、「【人気BL作品の傾向は?】2024年上半期トレンド最前線」という記事(2024/7/24)をnoteで公開しています。


腐女子マーケティング研究所公式note「【人気BL作品の傾向は?】2024年上半期トレンド最前線」(2024/7/24)

https://note.com/fujoshimarke_lab/n/nd3b4366b1831


 この記事で腐女子マーケティング研究所は、BL作品をキャラ重視またはストーリー重視、恋愛描写または性癖の2軸の組み合わせの4分類――「キャラ・恋愛重視のラブコメ系」、「キャラ・性癖重視のエンタメ系」、「物語・恋愛重視のストーリー系」、「物語・性癖重視の18禁系」――に分けています。各分類の具体的な説明は当該記事に譲るとして、記事の分析図を見る限り、キャラ重視とストーリー重視は拮抗していて恋愛重視よりも性癖重視のほうが少し多い印象です。


 腐女子マーケティング研究所によれば、エロなしのラブコメ系が一般層やライトBLファンに届きやすいせいか、2020年以降、ラブコメ系を主体にする出版社が増えている印象があるそうです。ですがその消費額はエンタメ系やストーリー系に及ばないことが多く、BLの主力はエンタメ系やストーリー系だそうです。


 それなのにライトなラブコメ系を増やす出版社が多くなったのは、昨今の厳しい規制があるからのようです。例えば2022年以降、DLsiteやFantia(ファンティア)、FANZA同人などの成人向けコンテンツがVISAやMasterCardの決済停止を順次喰らっていますし(ねとらぼの以下の記事参照)、DLsiteは2023年11月2日からドイツのIPアドレスをブロックしています。理由はDLsiteに問い合わせしても教えてもらえませんでしたし、ググっても分かりませんでした。ちなみにDLsiteは以下のドイツ語ソース記事ではゲームプラットフォーム(しかもHentai分野のゲームありと認定!)として紹介されていますが、私はTL漫画購入に使っていました。


ねとらぼ「コンテンツサービスで相次ぐ突然のクレカ決済停止の問題点 今後どう対応できるのか、議員と弁護士に聞いた」(2024/7/19)

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2407/08/news071.html


Sumikai. Magazin rund um Japan „Japanische Gaming-Plattform DLsite in Deutschland gesperrt.“ (日本のゲームプラットフォームDLsiteへのドイツからのアクセス遮断)(2023/11/16)

https://sumikai.com/game-news/japanische-gaming-plattform-dlsite-in-deutschland-gesperrt-336232/


 ただし健全BL作品を売り出しても、腐女子マーケティング研究所によれば「恋愛要素のみでヒットを狙うのはかなり難しい状況で、恋愛以外のサイドストーリーなどが重要な要素」となってきています。なので、エロとストーリー性をバランスよく含む老舗BL出版社から出版される作品のヒット率が高くなっていると腐女子マーケティング研究所は推測しています。


 したがってエロなしBL作品を望むユーザーの声や、そのようなBL作品のメディア化のし易さがあったとしても、コアなBLファンにはエロ要素がないと物足りないと腐女子マーケティング研究所は「【人気BL作品の傾向は?】2024年上半期トレンド最前線」で結論づけています。


 この結論は、徳間書店のBLレーベルの第3回キャラ文庫小説大賞の質疑応答でも裏付けできます。前回の記事「5.レーベルの求めるものが作品に欠けていても受賞できるか:角川ルビー小説大賞の例」の補足として書いた通り、このコンテストの質疑応答ページには「応募作にR18描写は必須となるか」という質問が掲載されています。


 回答はR18描写がないだけで選考に落ちることはないと断言しています。でもR18描写はBLジャンルの「読者が期待している要素」なので、それが「ないことが物語上で重大な意味を持たない限り」(青春バカを主題にした畔戸 ウサさん作『Cフラットの恋』がそうですね)、「入れることをおすすめ」(傍点筆者)するそうです。


第3回 キャラ文庫小説大賞 質問回答(2024/7/19)

https://www.chara-info.net/news/45419/


畔戸 ウサさん作『Cフラットの恋』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662280444868


当エッセイでの『Cフラットの恋』紹介記事(紹介No. 9):

https://kakuyomu.jp/works/16818093085464641449/episodes/16818093086619962839


 さらにBL小説家の樋口美沙緒さんも、アルファポリスで連載した「樋口美沙緒の小説書こうよ!BL小説の書き方」(全10回)の第4回「濡れ場は心理描写。執筆中にかかる『この話面白いのか?病』について」(2023/2/2)で「濡れ場はBL小説にはほぼ必須です」と言っています。


「樋口美沙緒の小説書こうよ!BL小説の書き方」(全10回 2022/12/22~2023/5/11)

https://andarche.alphapolis.co.jp/column/higuchi


 このコラムではご本人が皆さんに教示できる程の知識がないと言っている通り、濡れ場の書き方については「エロが上手い商業作家さんの小説を読みに読みまくって己の血肉としろ」としか書いてなくて参考になりませんが、その他のテーマはBL小説に限らず、特に異性間恋愛を扱う恋愛小説にも当てはまる部分がアドバイスの中にあるように思えました。


 以上、エロはBLに必要、でもエロ度はあまりに行き過ぎない普通程度がいいというのがこの記事の結論です。次回は今もBLは肩身が狭いのかという問題を考察します。

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