今回の記事では、KADOKAWAのBL小説レーベルである角川ルビー文庫のコンテストを例にとり、レーベルの求めるもの(この例では挿入ありのエロ)を盛り込まなくても作品の質さえよければ、コンテストで受賞できるかどうか考察します。
ただし、私自身には公募に応募した経験がないので、カクヨムで公開されている他の作者の方々の経験談を参考にしますが、ご容赦ください。それとBLの話なので、エロエロと連発しますが、具体的な性描写はありません。
今年(2024年)、畔戸 ウサさんのエッセイ『第11回ルビー文庫大賞で最終選考に残った件』と『Cフラ解説編』をカクヨムで読み、作家の創作姿勢について考えさせられました。プロの「作家はアーティストではなくサービス業」(『第11回ルビー文庫大賞……』の最終話より)という畔戸 ウサさんの名言に納得しました。自作に「お金と時間を費やしてくれる読者」(同)に何を提供できるのか。読者の求めるものを提供できないなら、商業作家にはなれません。
『第11回ルビー文庫大賞で最終選考に残った件』(畔戸 ウサさん作)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662880738010
『Cフラ解説編』(畔戸 ウサさん作)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662994934929
上記のエッセイのタイトルからもお分かりのように、畔戸 ウサさんは第11回角川ルビー小説大賞の最終選考まで残りましたが、惜しくも受賞を逃しました。その応募作品はBL小説『Cフラットの恋』ですが、カクヨムで改稿版を読めます。
『Cフラットの恋』(畔戸 ウサさん作)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662280444868
最終選考まで残って受賞したのと受賞しなかったの違いは何か。畔戸 ウサさんが、カクヨムのとある創作論の筆者にそう問われて書いたのが上記2作のエッセイです。
実は畔戸 ウサさんの『Cフラットの恋』は、第11回角川ルビー小説大賞募集当時(2009~2010年かと思われる)のBL小説のお約束(挿入ありの性描写)を意図的に破った作品でした。そのため、最終選考まで駒を進めながら、残念ながら受賞には至りませんでした。後でもう少し詳しく述べますが、上記の「BL小説のお約束」は、今もまだ結構しぶとく根付いていると思います。
角川ルビー文庫は、ボーイズラブ小説のレーベルです。第11回角川ルビー小説大賞募集当時、畔戸 ウサさんの体感では、BL小説読者は男性同士のカップルの挿入ありの愛あるエロを望んでおり、BL小説はとにかくエロありきで「如何にしてエロくするか」が最重要課題という「風潮が蔓延」していたそうです(『Cフラ解説編』第2話より)。したがってBL小説は児童ポルノ禁止法などで「問題視されて本棚隔離」などの措置が取られ、世間一般で肩身が狭かったそうです。当然のことながら、児童ポルノ禁止法に抵触しないように登場人物の年齢は上昇していました。
そんなわけで畔戸 ウサさんが「男子学生が恋をする青春BL小説」を読みたくとも、そのような作品はないに等しかったのです。それどころか、畔戸 ウサさんが角川ルビー文庫のとある作品を購入して読んだら、「四十八手の勉強」をさせたいのかと思わせるほどの内容で、怒りのあまり「読んだ瞬間にぶん投げ」たそうです(『Cフラ解説編』第2話より)。「誰も書かないなら」自分で書く、18歳以下の少年が主人公だって(BL小説界の常識としての)エロがなければいいのだと畔戸 ウサさんは決意し、『Cフラットの恋』を第11回角川ルビー小説大賞に応募することで角川ルビー文庫にノーを突きつけたのです。
当時のBL小説の挿入必須エロのセオリ―を破っていたのに『Cフラットの恋』が最終選考まで残ったのは、作品自体の質が高く、魅力にあふれていたからです。その魅力について詳しくは本日投稿予定の本エッセイの紹介記事に譲りますが、それでも結果的に『Cフラットの恋』は受賞に至らず、畔戸 ウサさんは「構成力はすばらしい。でも、エロがないのは大問題」というような選評を受けたそうです(『第11回ルビー文庫大賞……』第1話より)。
つまり、作品が必須条件(=レーベル/読者の要求、この場合挿入ありのエロ)を満たさなくてもクオリティ次第でそれなりの選考段階に駒を進められるだろうが、そのままでは最終選考まで進んでも受賞できないだろうという結論になります。ここまでこんなに引っ張っておきながら身も蓋もない結論、それも畔戸 ウサさんと同じ結論(『Cフラ解説編』第9話)になりました。すみません。
だからと言って『Cフラットの恋』に後からガッツリエロシーンを挿入すればよかったかと言えば、そうではありません。
児童ポルノ禁止法は創作物を含めないので、成人の主人公が18歳以下の少年と性的関係を持つ様子を描いても違法ではありませんが、世間でBLの肩身を狭くするような冒険をレーベルはできなかったでしょう。2004年と2009年の法改正のたびに児童ポルノに創作物を含めようとする動きが続き、近年でも国会で請願や質問が行われています。この創作物とは、漫画、アニメ、CGのような画像・映像的なものを念頭に入れており、小説は入っていませんが、それでも未成年を相手とする小説内の性描写がBL業界の立場を難しくするのは想像に難くありません。
それに何より、畔戸 ウサさんが描きたかったのは、エロありきのBLではなく、ときめきを大切にした「青春バカ」(『Cフラ解説編』第3話より)なので、後から挿入ありのエロを入れたらときめきを大切にした青春小説の世界観が崩れてしまったでしょう。
『Cフラットの恋』は受賞が目的ではなく、エロなしでBL青春小説は書けるとBL小説界で証明するのが目的だったでしょうから、挿入ありのエロなしでよかったのです。
でも角川ルビー文庫関連のコンテストで受賞したいなら「エロは書くべし」というのが畔戸 ウサさんの結論です(『第11回ルビー文庫大賞……』第9話より)。この見解についてもう少し詳しく知りたくて畔戸 ウサさんにコメント欄でお尋ねしました。異性間恋愛の小説と同様にBLでも事に至るまでのドキドキやときめき感も大事と念を押しつつも、角川ルビー文庫関連コンテストに応募するなら、エロを書ける能力を証明したほうがいいというのが畔戸 ウサさんの見解です。能ある鷹は爪を隠す、のではなく堂々と「エロだって書ける」と才能の引き出しをできる限り色々見せるほうがいいようです。
それは何も角川ルビー文庫に限らず、徳間書店のBLレーベルのキャラ文庫の公式見解からもBLジャンル一般に当てはまることは明らかです。
前回の記事でも言及しましたが、第3回キャラ文庫小説大賞のための質疑応答ページにR18描写が応募作に必須なのかどうか回答が載っています。R18描写がないだけで選考に落ちることはなくとも、R18描写はBLジャンルの「読者が期待している要素」なので、それが「ないことが物語上で重大な意味を持たない限り」(『Cフラットの恋』がそうですね)、「入れることをおすすめ」(傍点筆者)するそうです。
第3回 キャラ文庫小説大賞 質問回答(2024/7/19)
https://www.chara-info.net/news/45419/
角川ルビー文庫関連コンテストには、カクヨム経由でも応募できます/ましたが、カクヨムで許容されている性描写はR15相当までです。それでは一体どうすればいいのでしょうか。これに関して該当のコンテスト応募要項で興味深い規定を見つけました。
今年(2024年)、カクヨムで募集したルビー文庫関連のコンテストは2つあります。1つ目は2024/10/21に締め切られた「第1回ルビーファンタジーBL小説大賞」、もう1つは今も続いている角川ルビー小説大賞(なんと第26回!)です。前者はカクヨムで開催していますが、角川ルビー小説大賞は応募用のタグを設定することでカクヨムからも応募が可能になっています。
第1回ルビーファンタジーBL小説大賞の募集要項(募集期間2024/8/21~2024/10/21)
https://kakuyomu.jp/contests/ruby_fantasybl_2024/detail
第26回角川ルビー小説大賞の募集要項(募集期間2025/3/31まで)
https://kakuyomu.jp/info/entry/rubynovel_award_26rd
両方の募集要項に「カクヨム上での表現について」という項目があり、こう書かれています:
「性描写部分については、エピソード単位(ルビーファンタジーBL小説大賞)/章単位(角川ルビー小説大賞)で非公開の対応を取ってください。非公開の文章も、応募原稿としては編集部で閲覧可能となりますので、審査の対象とみなします」(丸括弧内の注記は筆者による)
つまり裏を読めば、角川ルビー文庫のBL小説にはR18エロが必須だけど、カクヨムではR18は禁止だから、R18エロエピソードを下書きで盛り込んでエロ書き能力も見せろというコンテスト主催者側の隠された意図があるのではないでしょうか。もちろん、下書きなのだから一般ユーザーは読めませんけど、R18禁止の小説投稿サイトで募集するコンテストで主催者側は隠した形でエロを求めるって矛盾を感じて仕方ありません。それとも私の邪推でしょうか。
ルビーファンタジーBL小説大賞のエピソード単位と角川ルビー小説大賞の章単位の違いは何なのかも考えてみましたが、角川ルビー小説大賞では、性描写場面を章単位にするほど長く書けということかもしれません。
それから「カクヨム上での表現について」にはこうも書かれています:「性表現については、それ自体が作品の目的(テーマ)になるのではなく、物語上の必要な要素として
つまりR18エロ場面を下書き状態で応募原稿に入れておくのは必須だとしても、私が前回の記事に書いた2024eロマンスロイヤル大賞での失敗のように「自分の書きたいものに意識が行き過ぎて、読者への配慮が欠けた過度な描写」を応募作品に盛り込まないように配慮しなければならないのでしょう。
ちなみにネオページで現在開催中(2024/11/10~2025/1/10)の第3回NSP賞でもBLジャンルが対象となっていますが、性描写について詳しい規定はなく、注意事項で単にR18作品は選考外と書かれているのみです。
以上、カクヨム経由で応募できるBL関連のコンテストの応募要項の裏を読んで、角川ルビー文庫の編集者側はどうやらエロを求めているようだと結論付けました。でも、それはキャラ文庫小説大賞の質疑応答で分かるように角川ルビー文庫に限りません。
それから15年前は挿入なしのBLはあり得ないような状況だったようですが、今なら『Cフラットの恋』のようにそこまでの性的描写がない純愛BL小説もコンテストで入賞するチャンスや商業的にも受け入れられる余地があるのでしょうか。
次回の記事でこれらの疑問に答えられるかどうかまだ分かりませんが、BL漫画・小説の現状をBLど素人の私ができる範囲で調べて書こうと思います。