目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第32話 こっち系の仕事

 木の陰から、武装した男達が出てきた。汚い外見だが、鍛えられている。無精髭、長髪、傷、ハゲ、垢だらけの肌、太い指。野蛮な奴らだ。


「何だよ」


 アッシュは溜息を吐く。次から次に。


「奴らは?」


「怒ってるみたいだ」とヴェロニカ。


「そういう事じゃない」

「六人いる」

「数えたのか」

「勘で言ったとでも思うか?」

「そういうつもりじゃない」


 傭兵達が武器を構える。剣、斧、槌、槍、ナイフ。


「どれも痛そうだ」


 アッシュが目頭を抑えた。


「眩暈がするよ、疲労が溜まってる」

「誰の使いだ?」


 ヴェロニカが傭兵達に問う。

 傭兵達は何も答えない。答える素振りすら見せない。


「もしかして友達だったか?」とアッシュ。


「友達じゃなかった」


 それからヴェロニカは「先制攻撃だ」と言い、走り出した。


**


 ヴェロニカは目の前にいた長髪の傭兵に突っ込む。長髪は剣を振りかぶるが、ヴェロニカが懐に入る方が速い。ヴェロニカは自分の肩を長髪の腹に押しあて、身体を浮き上がらせ、そのまま引っ繰り返す。地面で仰向けになった長髪の顔を踏みつけ、素早く剣を奪った。


「ヴェロニカ、危ない」


 斧を持った無精髭とハゲの男二人が近付いていた。アッシュは走る。


「受け取れ」とヴェロニカ。


 剣を放ってきた。


「こうなるって分かってたのに」


 アッシュは速さを落とさずに剣を掴み、そのまま回転。


「ふざけんな」


 斧を持った無精髭の首を刎ねた。頭が飛び、血が噴出する。

 ヴェロニカはもう一人のハゲに拳を食らわせて、よろけたところで頭を掴むと、首を折った。


「なかなかやるじゃないか」


 首の折れたハゲを地面に放ったヴェロニカが言う。


「昔、こっち系の仕事をしてたんでね」とアッシュ。


 剣先から血が滴り落ちている。


「お前は雑魚かと思ってたよ」


 ヴェロニカが死体を跨ぐ。


「俺は死刑執行人だぞ。弱い訳ないだろ」


 アッシュが剣の血を払った。


「残りは三人だ」


 ヴェロニカが肩を回す。


「俺は一人だけだ、もう後一人しかやらないぞ」

「十分だ」


 対峙した傭兵達に突っ込む。


**


 五人を殺して、最後の一人になった。太ったハゲだった。


「誰の差し金だ」


 鼻が砕かれ、口の周りは血だらけだった。目からは戦意が消えている。

 ヴェロニカは仰向けにさせた太ったハゲに跨り、胸倉を掴んで首を絞め上げる。


「ぐっ、苦し――っ!」と太ったハゲ。


 当然だった。首を絞めている。


「直ぐは殺すなよ」


 アッシュが言った。


「加減は分かってる」


 手を緩めた。太ったハゲは咳き込む。


「誰の依頼でここに来た?」と改めてヴェロニカが太ったハゲの頬を叩く。


「ジゼルだ。奴の依頼だよ」


 太ったハゲは鼻が砕けて呼吸がし辛いのか、ずっと口を半開きで息を吸っては吐き出している。


「そんなとこだよな」とアッシュ。


「俺達は奴の周りをしつこく嗅ぎ回った」

「そろそろ話すか」


 ヴェロニカは立ち上がる。


「ジゼルの屋敷に行くぞ、アッシュ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?