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第31話 寄生虫

「その魔導士は大男だったか?」とヴェロニカ。


「ああ、そうだ。アンタらの知り合いか?」

「お前は質問するな。質問するのはこっちだ」


 ヴェロニカが言った。


「悪かった」とバーギィ。


「赤い魔導士は何を?」

「エドゥワールだよ。俺がエドワールの依頼で仕入れたブツを欲しがってた」

「そのブツの在り処を教えたのか?」

「教えてやったさ」


 笑みを浮かべるバーギィ。


「余裕だな」

「鍵がなきゃ開けられない」

「鍵ならあるぞ」


 ヴェロニカがバーギィに見せた。


「これだろ」

「成程、アンタらも同業者だったのか」

「ブツは何だ。お前はどこから何を仕入れた」


 アッシュが言った。


「知らなかったのか」


 驚くバーギィ。


「まぁそうか、エドワールは秘密主義者だった」


「お前は何を仕入れた」とヴェロニカ。


「虫だよ」

「虫?」


 アッシュが聞き返す。ヴェロニカは興味深そうな視線をバーギィに向けていた。


「虫の卵だ。強烈で、強く凶暴な虫。俺達のいるフィンスター大陸、お隣のサウウッド大陸でもない。まだ誰も行った事のない、別の大陸から来たといわれてる虫の卵さ」

「ヨーク大陸か?」


 ヴェロニカは言う。


「名前は幾らでもある。ヨーク、ユリリカ、ウオッシュ。国や地方によってその呼び名が変わる様な、実在するのかしないのかも不明な大陸。つまりは、神話にあるタールダリアの大陸だよ。神話でラマ様に破壊された、タールダリアの土地さ」

「どうしてお前はその虫の卵を手に入れた」

「エドワールが手に入れた、そして俺が仕入れた。俺はアンタの言うヨーク大陸に伝手はない」

「凶暴な虫とは具体的に?」

「蟻より少し大きい。だが顎も強く、素早い。餌は阿片だ。その虫は阿片しか食べない」

「金のかかる虫だな」


 阿片は餌だったのか――。


「だが驚くなよ、その虫は更に魔導の才能がある。金をかける意味があるって事さ。俺の言ってる意味、分かるか?」

「喋っているのは同じ言葉だ」


「魔導の才能を持つ人間は、一万人に一人と言われている。誰もが使える訳じゃない。才能があっても、魔導士と呼ばれるレベルになるのは更に少ない。だがその虫達は違う。全てが魔導の才能、つまり魔力を持って生まれてくる」とバーギィ。


「ちょっと待て。その話が本当だとしても、その虫を手に入れてどうするんだ? 虫は制御出来ない。魔導士の様に兵器として利用出来ないだろ。そんな虫を街に放っても混乱するだけだ」


 アッシュが言った。

 魔導士は兵器だ。アッシュは魔力を持っていても、死刑執行人という立場から戦場に出る事はなかったが、多くの魔導士は都市や教会に雇われ、兵器として扱われる。


「虫は寄生虫なんだよ」


 バーギィが言った。


「意味分かるか?」

「成程。人間に寄生させれば、魔導士を量産出来るって訳か」


 ヴェロニカが言った。


「理解が早くて助かる」とバーギィ。


「本当の雇い主が誰かは知ってるのか?」


 アッシュが言った。


「さぁな。誰でもいいんだ、俺は」

「その寄生虫は赤い魔導士に渡したんだよな?」

「ああ、だがアンタらの鍵がなくちゃ、封印は解けない筈だ。エドワールが特別に作らせた壷らしい。魔導で封印されてる」


「阿片の鍵じゃなかったんだな」とアッシュ。


「あと――」


 バーギィが言った。


「何だ」とヴェロニカ。


「赤い魔導士だが、虫に寄生されて魔力を手に入れた。本人の話だと、奴が成功者第一号らしい」

「成程な。効果は実験済みな訳だ」


 アッシュが言った。


「まぁいい、結果は上々だ。情報は手に入った。行くぞ」


 ヴェロニカが鞭を捨てる。


「コイツは?」とアッシュ。


「生きてる」


 ヴェロニカが水車小屋を出ていく。


「ああ、確かに」


 アッシュも立ち去ろうとする。


「ちょっと待ってくれ、縄を解いてくれ」とバーギィ。


「食い込んで痛いんだ。なぁ、アンタ、アッシュって言うんだろ? さっき優しくしてくれたじゃないか。助けてくれ」

「まぁ頑張れ」


 アッシュも水車小屋を出た。


**


 水車小屋を出る。アッシュが突っ立っていた。


「嫌な予感か?」とアッシュ。


「囲まれてる」


 ヴェロニカが言った。


「何に? 愛と平和に、とかそういうのか?」

「いや、残念ながら敵だ」


 ヴェロニカが笑う。

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