「来い」
ベッドにいるシェリーの腕を掴んだ。
「止めてよ」と抵抗される。
「じゃ自分で外へ出ろ」
シェリーは黙って部屋を出る。アッシュも廊下を見た。階段を上がってくる足音が聞こえた。
「ヴェロニカ、衛兵達が来てるぞ」
アッシュは扉を閉めたが、ヴェロニカが蹴破ったせいで施錠が掛けられない。抑えてなくては開いてしまう。
「クソ」
「バーギィ、さっさと服を着ろ」とヴェロニカ。
バーギィは動揺しているのか、ズボンすらまもとに足が通せない。シャツはボタンが掛け違っている。
「ヴェロニカ、来るぞ」
廊下の直ぐそこまで足音が聞こえる。怒鳴り声もした。自分達に向けられたものだ。
「お前ら、そこを動くな!」
武装した衛兵が姿を現した。部屋へ入ってくる。
「アッシュ、屈め」
アッシュは屈む。ヴェロニカは壁を蹴り、宙を舞い、その勢いのまま衛兵の横っ面に膝を見舞う。
「まず一人」
着地。
アッシュは部屋の奥へ。ヴェロニカが入り口で、二人目と対峙する。直ぐに衛兵の手首を掴んで捻り折った。
「クソ」と衛兵。
「これで剣は抜けないな」
顎に拳を打ち込む。よろけた衛兵の喉輪を掴み、そのまま放り投げる。
「あと一人か」
ヴェロニカが首を鳴らす。最後の一人は、既に剣を抜いていた。
「少しは賢いみたいだな」とヴェロニカ。
「お前ら、こんな事してタダで済むと思うな」
衛兵が言った。
「馬鹿が、来いよ」
挑発。
衛兵が突っ込んできた。ヴェロニカの脇腹に剣が突き刺さり、背中を貫通した。
「おい」とアッシュが叫ぶ。
衛兵も、全く避ける素振りのなかったヴェロニカに戸惑っている。
「残念だな」
ヴェロニカが笑う。まるで剣など突き刺さっていないかの様な振る舞い。衛兵は理解が追いつかず、剣を手放し、ヴェロニカから離れていく。
「待てよ」とヴェロニカが腕を掴んだ。
「これからだろう」
「離せぇっ!」
衛兵が叫んだ。
「嫌だと言ったら?」
引き戻し、密着すると、抱き上げて背骨を締め上げた。骨の砕ける音がして、最後の一人が倒れた。
「これで終わりだ」
ヴェロニカが手を叩く。
「それよりアンタ、どういう事だよ」
剣が脇腹に貫通しているのに、平然としているヴェロニカに、アッシュが言った。
「こういう体質なんだ」
ヴェロニカは何かを詰まらせた様に喉を鳴らしながら、剣を脇から抜く。
「……痛いのか?」
「多少はな」
赤く染まった剣を床に放る。
「傷は?」
「すぐ治る」とヴェロニカ。
言う通りだった。もう出血をしていない。
「ちゃんと説明してくれよ」
アッシュは立ち上がる。
「いずれな」とヴェロニカはアッシュを見ずに言う。
「追加が来る前に行くぞ」
「ほんと忙しいよな、俺達って」
「クソデブ、行くぞ」
バーギィは腰を抜かし、震えている。
「アッシュ、クソデブを立たせろ」
「おいデブ、立て」
腕を持ち、無理やり立たせる。
「歩けるか?」
「歩けないなら死ぬぞ」
ヴェロニカが続ける。
「急げよ」
「つまり走れって事だ」
アッシュが付け加える。
「これから拷問だ」とヴェロニカが言った。
「いい所に連れて行ってやる」