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第29話 こういう体質

「来い」


 ベッドにいるシェリーの腕を掴んだ。


「止めてよ」と抵抗される。


「じゃ自分で外へ出ろ」


 シェリーは黙って部屋を出る。アッシュも廊下を見た。階段を上がってくる足音が聞こえた。


「ヴェロニカ、衛兵達が来てるぞ」


 アッシュは扉を閉めたが、ヴェロニカが蹴破ったせいで施錠が掛けられない。抑えてなくては開いてしまう。


「クソ」


「バーギィ、さっさと服を着ろ」とヴェロニカ。


 バーギィは動揺しているのか、ズボンすらまもとに足が通せない。シャツはボタンが掛け違っている。


「ヴェロニカ、来るぞ」


 廊下の直ぐそこまで足音が聞こえる。怒鳴り声もした。自分達に向けられたものだ。


「お前ら、そこを動くな!」


 武装した衛兵が姿を現した。部屋へ入ってくる。


「アッシュ、屈め」


 アッシュは屈む。ヴェロニカは壁を蹴り、宙を舞い、その勢いのまま衛兵の横っ面に膝を見舞う。


「まず一人」


 着地。

 アッシュは部屋の奥へ。ヴェロニカが入り口で、二人目と対峙する。直ぐに衛兵の手首を掴んで捻り折った。


「クソ」と衛兵。


「これで剣は抜けないな」


 顎に拳を打ち込む。よろけた衛兵の喉輪を掴み、そのまま放り投げる。


「あと一人か」


 ヴェロニカが首を鳴らす。最後の一人は、既に剣を抜いていた。


「少しは賢いみたいだな」とヴェロニカ。


「お前ら、こんな事してタダで済むと思うな」


 衛兵が言った。


「馬鹿が、来いよ」


 挑発。

 衛兵が突っ込んできた。ヴェロニカの脇腹に剣が突き刺さり、背中を貫通した。


「おい」とアッシュが叫ぶ。


 衛兵も、全く避ける素振りのなかったヴェロニカに戸惑っている。


「残念だな」


 ヴェロニカが笑う。まるで剣など突き刺さっていないかの様な振る舞い。衛兵は理解が追いつかず、剣を手放し、ヴェロニカから離れていく。


「待てよ」とヴェロニカが腕を掴んだ。


「これからだろう」

「離せぇっ!」


 衛兵が叫んだ。


「嫌だと言ったら?」


 引き戻し、密着すると、抱き上げて背骨を締め上げた。骨の砕ける音がして、最後の一人が倒れた。


「これで終わりだ」


 ヴェロニカが手を叩く。


「それよりアンタ、どういう事だよ」


 剣が脇腹に貫通しているのに、平然としているヴェロニカに、アッシュが言った。


「こういう体質なんだ」


 ヴェロニカは何かを詰まらせた様に喉を鳴らしながら、剣を脇から抜く。


「……痛いのか?」

「多少はな」


 赤く染まった剣を床に放る。


「傷は?」


「すぐ治る」とヴェロニカ。


 言う通りだった。もう出血をしていない。


「ちゃんと説明してくれよ」


 アッシュは立ち上がる。


「いずれな」とヴェロニカはアッシュを見ずに言う。


「追加が来る前に行くぞ」

「ほんと忙しいよな、俺達って」

「クソデブ、行くぞ」


 バーギィは腰を抜かし、震えている。


「アッシュ、クソデブを立たせろ」

「おいデブ、立て」


 腕を持ち、無理やり立たせる。


「歩けるか?」

「歩けないなら死ぬぞ」


 ヴェロニカが続ける。


「急げよ」

「つまり走れって事だ」


 アッシュが付け加える。


「これから拷問だ」とヴェロニカが言った。


「いい所に連れて行ってやる」

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