完全に夏日となり蒸し暑い中。ブルーフェザーの面々と僕たちは、先にダンジョンを探索をして、帰還していたシルバーさんたちストロング・ボックスのメンバーと、情報交換をしていた。
「纏めるぞ。そっちの第1陣と合わせると、
「ただアスピドケロンが回遊している可能性もありますが、後は本命の
「ああ、悪いな。……本当はついて行きたいのが山々なんだが。こっちも休まにゃならん」
「いえ、ほぼ直通で待てば良くなっただけマシです。いざとなれば僕の鼻もあります。これなら見落としも無いでしょう」
シルバーさんは罰が悪そうにペットボトルの中身をカラにした。今年の猛暑もかなりキツい。比較的影響の少ないダンジョンの中とは言え、暑い物は暑苦しかった。
「家からは私と牧。黒田が同行するわ。探索ロボットとドローン付きよ」
「実は、私は君のファンなんです。恐縮ですが、後でサイン下さい。グリズリーマンくん」
「あ、はい、ありがとうございます」
冬子さんに紹介されて、黒田さんが握手を差し出してきた。黒田さんは20歳くらいの若い男性で、いかにも技術職と言ったストイックな印象だが、思ったより面白い人のようだ。
「俺もアーリア氏のTDDフォローしてるんだ。一緒にレイドしたこともある。必ず見つけようぜ」
「ええ。まだ遭難と決まったわけではありませんが、よろしくお願いします」
牧さんとも握手を交わし、真司たちもブルーフェザーの配信スタッフと打ち合わせが終わったようだ。僕たちは装備のチェックを終えて、6人によるダンジョン配信を開始した。
〝お、告知通り、古巣と合流して出発か。グリズリーくん〟
〝こっちじゃ俺たちは、お客様だからな〟
〝青羽根にかけて〟
〝お、こっちの挨拶か。カッケー!!〟
〝青羽根にかけて〟
〝青羽根にかけて〟
〝青羽根にかけて。渋い……! 〟
「青羽根にかけて。おはようございます皆さん。今回は第2陣と言う事で、アーリアさんの助手を務めていた一馬くんたちと、ダンジョンに探索へと向かおうと思います」
「おはようございます。今朝はそうめんが美味しかったです。視聴者の皆さんにはアーリアに会えず、お待たせして申し訳ありませんが、探索を開始したいと思います」
冬子さんがお決まりの合言葉で挨拶をして、僕がそれを引き継いで探索の開始を視聴者さんたちに告げた。やはり。彼女が居ないと思ったよりすごく物足りなく、寂しく感じてしまう。頼ってばかりも悪いのに。
「先生の事なので無事だとは思いますが、あれで結構寂しがり屋なので……」
〝ああうん。なんかそんな感じ分かるわw〟
〝先生居ないと、やっぱちょっと寂しいな……〟
〝うわ。流石実質限定3コラボ。同接もう3万行ってやがる。エッグwww〟
〝グリズリーくん古巣なだけなんだけどなwww〟
〝エルフ先生マダー? 〟
〝アーリア先生ー!! (フライング)〟
〝キーンコーンカーンコーン〟
〝暑いから水分補給忘れるなよー!! 〟
「わかってるわよ。今回も準備は万全。あっと言う間に湖まで行ってみせるわ!」
〝…………沙耶たんが言うと、なぜか、一松の不安なーい? 〟
〝同感〟
〝同意〟
〝分かる〟
〝わかりみ〟
〝わかりみが深い〟
〝(お前らこっちは耐えてんのにw)〟
「あんですってー!! なんでよー!!!」
「はいはい。視聴者様に噛みつかないで下さい。まあ、気をつけて行こうよ」
オープニングの配信を終えて、僕らはダンジョンへと降りて行く。久々のダンジョンは外よりも涼しいけど、どこか蒸れた空気が漂っていた。
ブルーフェザーの皆さんと連携しつつ、
「っ……!!」
沙耶さんが手で僕らを制した。ゆっくりとライトで照らされた先には、岩の上に小さな足跡が2つ続いている。
以前なら分からなかった。けど、ずっと彼女の背中を追っていた僕なら、できる。全員にハンドサインで武器を抜く事を促す。匂いで見える。腰に常備している手斧を、岩陰に予測して放り投げた。
「ぎゃっ!?」
「ゴブリン!! 照明弾ッ!!!」
一斉に伏せて、同時に矢の嵐が来る。冬子さんが伏せたまま腕だけ掲げて、天井に照明弾を撃った。精霊様が巨大化して、遅れた人を守ってくれる。照らされれば見える。一瞬で変身して、矢の飛んできた方向に踏み込んだ。
「そこっ!!」
「ゲオばッ!?」
「応戦ッ!! 逃げたのは追わなくて良いッ!!」
「アイサー!!」
3匹固まっているのを、岩ごと砕いた。矢の飛んできた方向に、銃弾が飛び交う。丸見えならこっちに部がある。稟が杖を振りかざした。
「それぇええええええええッ!!!」
濁流のような岩の流れに乗って、さらに5匹倒す。匂いは10匹まだいるけど、逃げ始めたな。もう撃ち込む気も無いのか、辛そうな匂いも遠ざかっていく。
「負傷者は!?」
全員身体を感覚とライトで軽く調べた。特に痛み等は無い。負傷した人は居ないようだ。
「念の為この先でもう一度調べるわ。体調に異常がある人は、遠慮なく言ってね」
実感がある。僕は以前よりずっと強くなっている。遠ざかるゴブリンたちの気配だって、つぶさに感じられる。身震いしながら、早くアーリアに褒めてもらいたいと心から思ってしまった。