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第98話 青と白い羽根にかけて

完全に夏日となり蒸し暑い中。ブルーフェザーの面々と僕たちは、先にダンジョンを探索をして、帰還していたシルバーさんたちストロング・ボックスのメンバーと、情報交換をしていた。


「纏めるぞ。そっちの第1陣と合わせると、菌糸類階層きんしるいエリア無冥階層むみょうエリア鉱脈階層こうみゃくエリアをこれでくまなく回ったが、あいつの痕跡は発見できなかった」


「ただアスピドケロンが回遊している可能性もありますが、後は本命の地底湖階層ちていこエリアですか」


「ああ、悪いな。……本当はついて行きたいのが山々なんだが。こっちも休まにゃならん」


「いえ、ほぼ直通で待てば良くなっただけマシです。いざとなれば僕の鼻もあります。これなら見落としも無いでしょう」


 シルバーさんは罰が悪そうにペットボトルの中身をカラにした。今年の猛暑もかなりキツい。比較的影響の少ないダンジョンの中とは言え、暑い物は暑苦しかった。


「家からは私と牧。黒田が同行するわ。探索ロボットとドローン付きよ」


「実は、私は君のファンなんです。恐縮ですが、後でサイン下さい。グリズリーマンくん」


「あ、はい、ありがとうございます」


 冬子さんに紹介されて、黒田さんが握手を差し出してきた。黒田さんは20歳くらいの若い男性で、いかにも技術職と言ったストイックな印象だが、思ったより面白い人のようだ。


「俺もアーリア氏のTDDフォローしてるんだ。一緒にレイドしたこともある。必ず見つけようぜ」


「ええ。まだ遭難と決まったわけではありませんが、よろしくお願いします」


 牧さんとも握手を交わし、真司たちもブルーフェザーの配信スタッフと打ち合わせが終わったようだ。僕たちは装備のチェックを終えて、6人によるダンジョン配信を開始した。


〝お、告知通り、古巣と合流して出発か。グリズリーくん〟

〝こっちじゃ俺たちは、お客様だからな〟


〝青羽根にかけて〟

〝お、こっちの挨拶か。カッケー!!〟


〝青羽根にかけて〟

〝青羽根にかけて〟


〝青羽根にかけて。渋い……! 〟


「青羽根にかけて。おはようございます皆さん。今回は第2陣と言う事で、アーリアさんの助手を務めていた一馬くんたちと、ダンジョンに探索へと向かおうと思います」


「おはようございます。今朝はそうめんが美味しかったです。視聴者の皆さんにはアーリアに会えず、お待たせして申し訳ありませんが、探索を開始したいと思います」


 冬子さんがお決まりの合言葉で挨拶をして、僕がそれを引き継いで探索の開始を視聴者さんたちに告げた。やはり。彼女が居ないと思ったよりすごく物足りなく、寂しく感じてしまう。頼ってばかりも悪いのに。


「先生の事なので無事だとは思いますが、あれで結構寂しがり屋なので……」


〝ああうん。なんかそんな感じ分かるわw〟

〝先生居ないと、やっぱちょっと寂しいな……〟


〝うわ。流石実質限定3コラボ。同接もう3万行ってやがる。エッグwww〟

〝グリズリーくん古巣なだけなんだけどなwww〟


〝エルフ先生マダー? 〟

〝アーリア先生ー!! (フライング)〟


〝キーンコーンカーンコーン〟

〝暑いから水分補給忘れるなよー!! 〟


「わかってるわよ。今回も準備は万全。あっと言う間に湖まで行ってみせるわ!」


〝…………沙耶たんが言うと、なぜか、一松の不安なーい? 〟

〝同感〟


〝同意〟

〝分かる〟


〝わかりみ〟

〝わかりみが深い〟

〝(お前らこっちは耐えてんのにw)〟


「あんですってー!! なんでよー!!!」


「はいはい。視聴者様に噛みつかないで下さい。まあ、気をつけて行こうよ」


 オープニングの配信を終えて、僕らはダンジョンへと降りて行く。久々のダンジョンは外よりも涼しいけど、どこか蒸れた空気が漂っていた。


 ブルーフェザーの皆さんと連携しつつ、断層階層だんそうエリアを進む。アーリアの月蟲は居ないので、今回はライトで周囲を照らすだけだ。


「っ……!!」


 沙耶さんが手で僕らを制した。ゆっくりとライトで照らされた先には、岩の上に小さな足跡が2つ続いている。


 以前なら分からなかった。けど、ずっと彼女の背中を追っていた僕なら、できる。全員にハンドサインで武器を抜く事を促す。匂いで見える。腰に常備している手斧を、岩陰に予測して放り投げた。


「ぎゃっ!?」


「ゴブリン!! 照明弾ッ!!!」


 一斉に伏せて、同時に矢の嵐が来る。冬子さんが伏せたまま腕だけ掲げて、天井に照明弾を撃った。精霊様が巨大化して、遅れた人を守ってくれる。照らされれば見える。一瞬で変身して、矢の飛んできた方向に踏み込んだ。


「そこっ!!」


「ゲオばッ!?」


「応戦ッ!! 逃げたのは追わなくて良いッ!!」


「アイサー!!」


 3匹固まっているのを、岩ごと砕いた。矢の飛んできた方向に、銃弾が飛び交う。丸見えならこっちに部がある。稟が杖を振りかざした。


「それぇええええええええッ!!!」


 濁流のような岩の流れに乗って、さらに5匹倒す。匂いは10匹まだいるけど、逃げ始めたな。もう撃ち込む気も無いのか、辛そうな匂いも遠ざかっていく。


「負傷者は!?」


 全員身体を感覚とライトで軽く調べた。特に痛み等は無い。負傷した人は居ないようだ。


「念の為この先でもう一度調べるわ。体調に異常がある人は、遠慮なく言ってね」


 実感がある。僕は以前よりずっと強くなっている。遠ざかるゴブリンたちの気配だって、つぶさに感じられる。身震いしながら、早くアーリアに褒めてもらいたいと心から思ってしまった。





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