遅い。もう予定日を1週間も過ぎているのに、アーリアから連絡が来ない。落ち着こう落ち着こうとしても、つい彼女の家の方に顔を向けてしまう。
「先生の事だから、大丈夫とは思うけど、心配だね……」
「今1番深い場所に潜っとるの、どこのクランや?」
「ブルーフェザーだよ。アーリアが僕に報告した、例の石ドラゴンがいた新発見エリアの確認してるみたいだけど……」
アーリア個人の許可が無い限り、あそこの本格的な探索は、後1週間は様子をみなければならない。ダンジョン庁は未知の細菌などがあるかも知れないために、そう公表していた。
最後に書き込まれたSNSの書き込みでは、無事アスピドケロンが現れたようなんだけど、それからの消息は不明になっている。彼女の事だ。無冥霧の中だって帰ってくるだろうが、それでも心配は募る。
僕たちの期末テストの結果は悪くなかった。
1つ山カンが大外れして散々だったけど、中間テストの失敗を繰り返さないため、終わったらダンジョンに行けると思ってみんな頑張った。平均92点。稟は100点もいくつか。真司も平均80後半台と悪くは無かったのだけど。
「期末テストも終わりました。……行きましょう」
「稟。アーリアを迎えにかい?」
「せやな。何らかのトラブルで機材壊れたんかもしれんし、ブルーフェザーの第2陣が出発準備しとる。クマ吉もコネあるんなら、乗っかるのがいいんとちゃうか?」
スマホでブルーフェザーのホームページをチェックしてみる。僕の派遣先であるブルーフェザーが、
「今回はそうしようか。明後日から夏休みだし、先生に許可もらって、急いで準備しよう」
「了解した。聖さんとストボスの面々にも連絡入れとくわ。そうやないと連中、勝手に新発見エリアに探しに行きかねん」
アーリア個人のSNSも更新が無くなって長い。事情はみんな知ってるけど、そろそろ行方不明なんて騒ぎ出す視聴者さんもいるかも知れない。少し、急がないといけなかった。
◇◇◇
0216 名無し@エルフ先生ファン
【エルフ先生の助手。グリズリーマンこと一馬氏、ブルーフェザー陣と、エルフ先生探索へ】
0217 名無し@エルフ先生ファン
え? グリズリーくん移籍したん?
0218 名無し@エルフ先生ファン
元々こっち所属定期。まあ、先生の助手としてしか、ほとんど活動してないんやけどw
0219 名無し@エルフ先生ファン
今やエルフ先生のチャンネルは、トレンド1桁常連。同接10万常連。わりと控えめな配信頻度で、国内インフルエンサー上位勢の1人だもんな
0220 名無し@エルフ先生ファン
どうした急に?
0221 名無し@エルフ先生ファン
最近新参多いもん。だからみんな飢えてるんだよ先生に。
0222 名無し@エルフ先生ファン
こいつら……もう脳が!
0223 名無し@エルフ先生ファン
最初からエルフ先生に強火ですが、何か?
0224 名無し@エルフ先生ファン
最古参勢としては、先生は守護精霊そのものやもんな。例の事件含めて
0225 名無し@エルフ先生ファン
もうとっくに脳焼かれてんだよこっちは!!
0226 名無し@エルフ先生ファン
いつか先生をハスハスしたい
0227 名無し@エルフ先生ファン
その権利はグリズリーくんか、稟さんくらいしか無さそうなんだよなー
0228 名無し@エルフ先生ファン
たまにエルフ先生にしてるもんな。稟氏
0229 名無し@エルフ先生ファン
(事件……どの件やろ)
0230 名無し@エルフ先生ファン
(あなたの心に侵食しています。ゴールデン事件の考察にたどり着くのです。さすればおわかりになられるでしょう)
0231 名無し@エルフ先生ファン
まあ、みんなあんまり極端に心配してないが、無事帰って来てくれる事を祈ろう。
0232 名無し@エルフ先生ファン
と言うか先生ですら簡単に帰って来れないって、どんな魔境だよ……
0233 名無し@エルフ先生ファン
ダンジョンだぞ? しかも湖の向こう側だから、どうしてもな……
0234 名無し@エルフ先生ファン
わりと、ダンジョン自身にも、脳焼かれてる輩や、強火勢居るよな……
0235 名無し@エルフ先生ファン
未知は誰でも大好きやんね。人間やもの
0236 名無し@エルフ先生ファン
それが産まれて生きるってもんよ
◇◇◇
僕たち4人と沙耶さんは、ブルーフェザーの本部を訪ねていた。ブルーフェザーの前身は、ドローンなどの配信活動機材を開発した会社であり、技術職の人たちが多い。
歴代の情報配信系最高髄の機械が展示されていて、真司や稟はウロウロと目線を彷徨わせてしまっている。気持ちは分かる。僕も慣れるまではそうだったのだから。
「お久しぶり……と言っても、手続きやSNSでは会ってるものね。一馬くん」
「お久しぶり……というのも妙な形ですが、お元気そうで何よりです。副長」
鈴木冬子さん。二児の母にして、配信クランの副長を務めるベテラン探索者だ。アーリアと面識があり、僕をアーリアの助手として手伝う事を許可してくれた人でもある。
「結論から言えば、第2陣に3人が動向するのは許可が下りたわ。ただ……」
「湖の向こう側は、そちらは行かない。と言うことでしたね?」
「ええ。まだ未知の部分が多すぎるし、何より主力の小型探索ロボットや、ドローン、スマホのサポートをする電波が届かないのが、我々として厳しいわ」
沙耶さんが資料を読みながら、確認してくれた。ブルーフェザーの探索機械はダンジョン用に軽量化され、インターネットによるリアルタイムサポートで、高い精度で自律。あるいは半自律稼働で探索を行える。
しかし、電波はあくまでインターネットが届く範囲で、当然水中で使えるわけもなく。シーサーペントを代表する水中モンスターには敵うわけが無い。
彼女たちも生活があるので、こちら側の浜や洞窟を調べたら、ブルーフェザーのメンバーは地上に帰還する事になっている。
「アスピドケロンの状況や、アーリアの痕跡次第ですが、行けるなら稟と沙耶さんとで、向こう岸を目指してみようかと思います」
「そうです。状況次第でガン・ハンターズと、学校から許可が降りれば、私も同行する予定です。副長さん」
「あまりおすすめはできないけどね。アスピドケロンが必ず浜に着いてくれるとは、限らないから」
「わかっています。ですが……」
「食料等のできる限りのサポートはするわ。必ず、彼女を見つけましょう」
「はい、必ず。よろしくお願いします」
僕たちは細かい打ち合わせをブルーフェザーのメンバーと行い、初めてアーリアの居ないダンジョン探索へ向けて、準備を進めはじめていた。