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第97話 アーリア行方不明

 遅い。もう予定日を1週間も過ぎているのに、アーリアから連絡が来ない。落ち着こう落ち着こうとしても、つい彼女の家の方に顔を向けてしまう。


「先生の事だから、大丈夫とは思うけど、心配だね……」


「今1番深い場所に潜っとるの、どこのクランや?」


「ブルーフェザーだよ。アーリアが僕に報告した、例の石ドラゴンがいた新発見エリアの確認してるみたいだけど……」


 アーリア個人の許可が無い限り、あそこの本格的な探索は、後1週間は様子をみなければならない。ダンジョン庁は未知の細菌などがあるかも知れないために、そう公表していた。


 最後に書き込まれたSNSの書き込みでは、無事アスピドケロンが現れたようなんだけど、それからの消息は不明になっている。彼女の事だ。無冥霧の中だって帰ってくるだろうが、それでも心配は募る。


 僕たちの期末テストの結果は悪くなかった。


 1つ山カンが大外れして散々だったけど、中間テストの失敗を繰り返さないため、終わったらダンジョンに行けると思ってみんな頑張った。平均92点。稟は100点もいくつか。真司も平均80後半台と悪くは無かったのだけど。


「期末テストも終わりました。……行きましょう」


「稟。アーリアを迎えにかい?」


「せやな。何らかのトラブルで機材壊れたんかもしれんし、ブルーフェザーの第2陣が出発準備しとる。クマ吉もコネあるんなら、乗っかるのがいいんとちゃうか?」


 スマホでブルーフェザーのホームページをチェックしてみる。僕の派遣先であるブルーフェザーが、地底湖階層ちていこエリアの探索に初めて乗り出すと書かれていた。


「今回はそうしようか。明後日から夏休みだし、先生に許可もらって、急いで準備しよう」


「了解した。聖さんとストボスの面々にも連絡入れとくわ。そうやないと連中、勝手に新発見エリアに探しに行きかねん」


 アーリア個人のSNSも更新が無くなって長い。事情はみんな知ってるけど、そろそろ行方不明なんて騒ぎ出す視聴者さんもいるかも知れない。少し、急がないといけなかった。



◇◇◇



 0216 名無し@エルフ先生ファン

【エルフ先生の助手。グリズリーマンこと一馬氏、ブルーフェザー陣と、エルフ先生探索へ】


 0217 名無し@エルフ先生ファン

 え? グリズリーくん移籍したん? 


 0218 名無し@エルフ先生ファン

 元々こっち所属定期。まあ、先生の助手としてしか、ほとんど活動してないんやけどw


 0219 名無し@エルフ先生ファン

 今やエルフ先生のチャンネルは、トレンド1桁常連。同接10万常連。わりと控えめな配信頻度で、国内インフルエンサー上位勢の1人だもんな


 0220 名無し@エルフ先生ファン

 どうした急に?


 0221 名無し@エルフ先生ファン

 最近新参多いもん。だからみんな飢えてるんだよ先生に。


 0222 名無し@エルフ先生ファン

 こいつら……もう脳が!


 0223 名無し@エルフ先生ファン

 最初からエルフ先生に強火ですが、何か?


 0224 名無し@エルフ先生ファン

 最古参勢としては、先生は守護精霊そのものやもんな。例の事件含めて


 0225 名無し@エルフ先生ファン

 もうとっくに脳焼かれてんだよこっちは!!


 0226 名無し@エルフ先生ファン

 いつか先生をハスハスしたい


 0227 名無し@エルフ先生ファン

 その権利はグリズリーくんか、稟さんくらいしか無さそうなんだよなー


 0228 名無し@エルフ先生ファン

 たまにエルフ先生にしてるもんな。稟氏


 0229 名無し@エルフ先生ファン

 (事件……どの件やろ)


 0230 名無し@エルフ先生ファン

 (あなたの心に侵食しています。ゴールデン事件の考察にたどり着くのです。さすればおわかりになられるでしょう)


 0231 名無し@エルフ先生ファン

 まあ、みんなあんまり極端に心配してないが、無事帰って来てくれる事を祈ろう。


 0232 名無し@エルフ先生ファン

 と言うか先生ですら簡単に帰って来れないって、どんな魔境だよ……


 0233 名無し@エルフ先生ファン

 ダンジョンだぞ? しかも湖の向こう側だから、どうしてもな……


 0234 名無し@エルフ先生ファン

 わりと、ダンジョン自身にも、脳焼かれてる輩や、強火勢居るよな……


 0235 名無し@エルフ先生ファン

 未知は誰でも大好きやんね。人間やもの


 0236 名無し@エルフ先生ファン

 それが産まれて生きるってもんよ



◇◇◇



 僕たち4人と沙耶さんは、ブルーフェザーの本部を訪ねていた。ブルーフェザーの前身は、ドローンなどの配信活動機材を開発した会社であり、技術職の人たちが多い。


 歴代の情報配信系最高髄の機械が展示されていて、真司や稟はウロウロと目線を彷徨わせてしまっている。気持ちは分かる。僕も慣れるまではそうだったのだから。


「お久しぶり……と言っても、手続きやSNSでは会ってるものね。一馬くん」


「お久しぶり……というのも妙な形ですが、お元気そうで何よりです。副長」


 鈴木冬子さん。二児の母にして、配信クランの副長を務めるベテラン探索者だ。アーリアと面識があり、僕をアーリアの助手として手伝う事を許可してくれた人でもある。


「結論から言えば、第2陣に3人が動向するのは許可が下りたわ。ただ……」


「湖の向こう側は、そちらは行かない。と言うことでしたね?」


「ええ。まだ未知の部分が多すぎるし、何より主力の小型探索ロボットや、ドローン、スマホのサポートをする電波が届かないのが、我々として厳しいわ」


 沙耶さんが資料を読みながら、確認してくれた。ブルーフェザーの探索機械はダンジョン用に軽量化され、インターネットによるリアルタイムサポートで、高い精度で自律。あるいは半自律稼働で探索を行える。


 しかし、電波はあくまでインターネットが届く範囲で、当然水中で使えるわけもなく。シーサーペントを代表する水中モンスターには敵うわけが無い。

 彼女たちも生活があるので、こちら側の浜や洞窟を調べたら、ブルーフェザーのメンバーは地上に帰還する事になっている。


「アスピドケロンの状況や、アーリアの痕跡次第ですが、行けるなら稟と沙耶さんとで、向こう岸を目指してみようかと思います」


「そうです。状況次第でガン・ハンターズと、学校から許可が降りれば、私も同行する予定です。副長さん」


「あまりおすすめはできないけどね。アスピドケロンが必ず浜に着いてくれるとは、限らないから」


「わかっています。ですが……」


「食料等のできる限りのサポートはするわ。必ず、彼女を見つけましょう」


「はい、必ず。よろしくお願いします」


 僕たちは細かい打ち合わせをブルーフェザーのメンバーと行い、初めてアーリアの居ないダンジョン探索へ向けて、準備を進めはじめていた。

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