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第95話 怪物との再会

 マルドの話では、先ほどの集団はヴァルーシアと言う蛇のような種族で、奴らは人攫いの異種族たちだったらしい。人間に酔い果てた中毒症状で、凶暴化しているのだと説明してくれた。


「あそこの人たち。大丈夫かな……」


「大勢は決している。歴戦かつ上空から攻められるハルピュイアたちなら、問題なかろう」


「サオ。大丈夫か?」


「うん……?」


 サオは探るように腹を撫でて、レッジも飛び降りて、お腹に耳を当ててくれた。


「問題無いみたいだけど。念の為アレ以上強力な攻撃は、しない方が良いかも……」


「ぎゃう」


「そうそう必要になるとも、思えんがな……」


 血振りと建物の中から拝借した布で、大太刀を清めたマルドがそう呟いた。建物から出ると、こじんまりとした露天市場に出た。


 イノシシとオオカミの中間のような生き物や、手錠を嵌めて鎖を引かれる人たち。道端にうずくまる人や、モンスターが倒れている。


 どう見ても、お近付きになりたい場所じゃねえな。さっき教えて貰ったみたいに目線を逸らした。


「あっちだ。もう近いぞ」


 マルドに続いて早足で歩く。フードを目深にかぶった得体の知れない連中が多いが、気にしている暇もなく急いだ。


「そこだ。そこ、なんだが……」


「これが……?」


 大きな井戸と言うより、ちょっとした貯水槽跡地だろうか。2本組の四角い木枠で囲まれていて、下を覗いても水気は全くない。


 ゴミが少し投げ入れられているのか、あるいは使われていた頃に詰まったのか。その両方か、ガラクタが少し散乱している。本当にここなのか。ただのゴミ捨て場モドキにしか見えない。


 整備用だろうか。錆びついたハシゴも側面に付いている。大きく鼻で息をするマルドが頷いた。


「間違いなく匂いはここだ。降りるか?」


「他に手がかりは無いし、降りるしかないで、しょ!!」


「ちょっ、サオ!?」


 無茶しやがる。飛び降りたサオを追いかけて、俺も飛び降りた。うわっ、すげえ高い。足が挫けそうになったが、レッジが上に引っ張ってくれたおかげで、何とか無事に着地できた。見上げると5m近かった。


「何かあるか?」


「…………これかな」


 マルドはふわりと着地していた。地面を探っていたサオが、床に切れ込みがある部分を指さした。


「これ、ちょうど外せそうだな」


「どいていろ」


 マルドが切れ込みに手をかけて、一気に引き剥がした。何度か開閉されているのか、すり上げたような跡がある。木板の下には、怪しい地下への階段が隠されていた。


「匂いはここからだ。……武器を、抜いておけ」


「ああ……」


 マルドは大太刀を、俺はグレネードランチャーと拳銃両方抜いて、それぞれ両手に持った。不気味な暗い地下水路跡地の奥だ。レッジにマルドから手渡されたランプを持って貰って、忍び足で水路を進む。かすかにモゾモゾと何か話し声が通路の奥から聞こえる。


「話し声と、メクの声だよ……!」


「見つけたか」


「なんて言ってる?」


「なんか、スフィアがどうとかって、無事みたいだけど……」


 ほっとした声がわずかに漏れた。小声で話しながら頷き、レッジにランプの灯りを絞ってもらう。半端に隙間だらけで、ボロボロの木製扉から光が漏れている。


『だ〜か〜ら〜、こっちに住むのは無理だけど、利権が欲しいなら、協力してくれれば渡すって言ってるじゃん!!』


『信用できないね。何度も言ってるがこっちで作れば良い。お前、自分の立場分かってるのかい?』


『図面向こうだし、儀式場や大型魔導具の都合が悪すぎて、無理だってんでしょうが!! スフィアの部品1つ作んのに、どんだけ手間かかると思ってんだ!! 技術者ナメんなババア!!!』


 言葉は断片的にしか分からないが、見たこともない剣幕で、メクがめちゃくちゃ怒っている声がする。サオが耳打ちしてくれたが、どうやら連中の目的はメクの制作する魔導具だったらしい。


 サオが見たこともない冷徹な目で、扉の前居るタコのような下半身を持つ異種族を、音もさせず倒した。


「殺したか?」


「半々かな。しばらく目は覚まさないよ」


 メクの大声のおかげで小声でやり取りしつつ。忍び足で扉に近づき、突入の準備をする。レッジが扉を開け、遠距離攻撃ができる俺が最初に突入。大柄なマルドが最後と決めた。


『姉さん。もう人間薬でラリらせましょうよ。もしくは◯せば、言う事聞くでしょ?』


『女ナメんじゃ無いよ。時間がかかりすぎるし、万一この娘が口聞け無くなったら、この街全部ハルピュイア共に壊滅させられるぞアホが……しゃーない。こっちは見つけようも無いんだ。向こうに連絡取って、身代金に切り替え……』


「グルァア!!」


「なぁっ……!!!!?」


 一気に中に入り1番近いタコ足に全弾叩き込む。数発モリで防がれたが、ガァン!! ガァン!! と連射された弾丸が、2発頭部に突き刺さった。


『人間』!? どっから入った!?』


 モリが迫る。サオがスルリと踏み込んで、腹部を貫く一撃で、タコ足を蹴りで吹き飛ばす。大柄なマルドは入るのに少し手間取ったようだ。急いでカラの弾倉を捨て、新しい弾倉を叩き込む。


「地上語は分かるな、マダム。いい加減観念し時だぞ」


「チッ……二角刀マルドか、この娘に何か用かい?」


「うぁ……!?」


 マダムと呼ばれたタコ足は、3本の触腕の先端が、犬か何かの猛獣のように異様な形をしている。すぐ近くにいたメクの身体を、触腕で絡めやがった。


「メクを、返しなさい……!」


「来るんじゃ無いよ。……奇遇だねぇ、私も穏便に行きたいんだ。見逃してくれたら、この娘は解放するよぉ?」


「いだだだっ!!?」


「メクッ!!」


 くそったれ。吸盤でちょっとやそっとじゃ離れないだろうし、メクは猛獣に牙立てられてるってのに、撃とうにも触腕で弾かれそうだ。見逃すしか無いか……?


「油断したね!!!」


「なっ!?」


 猛獣の口から火と氷が一気に放たれて、部屋に煙が充満してしまった。何も見えん。やられた!?


「逃げさせて貰うよ!! じゃあね!!」


「ま、まって、うあぁあああッ!!?」


「真人!?」


 咄嗟にサオをかばうと、雷撃なのかすげえビリビリ痺れた。あの猛獣。3つすべて吐ける物が違うらしい。くそ、立てん。レッジが急いで煙を翼でどけてくれている。


「くっ……! 俺が背負う、参るぞ!!」


「う、うん!!!」


 マルドに背負われながらしがみつく。さらに奥の通路に逃げたようだ。水面が近い。まだ浅いが泳がれる前に何とか追いつかねえと、そのまんま飛び込まれたらマジでまずい。


「いそへぇ、まるとぉお!!」


 舌も回んねえ。いっそ俺を投げ出させるか。ん?


「ぎゃうぅう!!!」


 ローブを羽織った誰かが、月光のような光をまとって、一気に頭上を飛び抜けていく。一瞬見えた顔は、木の仮面だったような気がする。


「見つけた!!」


 居た、いやがった。メクはぐったりしてるが、飛び込む直前だったのか、奴は体勢を低くしていた。


「くっ……こうなれば、もう一回!!」


「無駄だよ」


「え?」


 ローブ姿の方から、サオの声? おかしい。彼女はしゃべって無いのに。なぜ向こうから声が? ローブ姿は杖をタコ足マダムに向けると、俺が食らったより細い雷撃を放った。


「ぎ、ぎゃあぁあ!!?」


「終わり」


「がっ……!!?」


 鋭い手刀がタコ足マダムの後頭部を殴打して、ばったりと床に釣り上げたばかりのタコのように倒れてしまった。強い。まるで動きまで、サオのようだ。


「あ、あんたは……?」


「やっと見つけたよ。真人くん」


 サオだ。間違いなく隣に居るサオの声が、仮面の向こう側からする。奇妙な出来事に俺もサオも、顔を見合わせて唖然とするしかなかった。

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