ナインさんのツノ兜を装備している馬に乗せてもらって、橋を渡って南下。半日もたたず、切り立った台地の上にある建物が目についた。
「あそこ!? ナインさん!?」
「そうだ。丘の通路を行けば、一方通行のはず。各々油断するなッ!!」
傾斜の高く、蛇行した道を駆け上がり、石碑造りの通路にそのまま飛び込んだ。燃えている蜀台を持つ女性像が等間隔に飾られている。
「なにか居るよッ!?」
前に座る僕が指差した先には、鋼鎧で武装したイノシシが通路の奥から突進してきていた。
「任すッ、蹴散らせぇえッッ!!」
「承知ッ!!!」
先行した2対の騎馬兵が、イノシシと正面から衝突する。戦鎚と槍、イノシシの牙と馬のヒヅメが交差した。
「足を止めるな!! 敵はすでに気付いている!! このまま儀式場まで参るッ!!」
「りょ……了解ッ!!」
激しい戦闘音を背に駆け抜けると、階段と書庫への入り口が見えた。さっきの武装したイノシシと、亡者2対が襲いかかってきた。
僕は枝を杖のように構えて、仲間を召喚して戦いを挑んだ。
〝ここで初編成だね。分からないことがあったら、右脇のズルカルナインさんをタップすれば、教えてくれるよ〟
〝は、はい。編成はどうしましょうか?〟
〝6枠中前3列。ナインとダゴは前確定だな〟
〝ドジソン氏は、一番攻撃来ない安定の真ん中後ろだな〟
〝あとコン様を前にするか、サポートを前にするかだ。ダイアン達は後ろでも攻撃できるしな〟
〝ぶっちゃけあんまり変わりないよな。コン様前もできるシューターって形だし〟
〝今回イノシシ硬いから、後ろの方が良くね? コン様〟
〝まあ、見るからに硬いものね……〟
〝じゃあ、そうしてみますね〟
〝右上のサポートってところをタップして。アーリアのキャラクター貸し出せるから〟
〝これ画期的だよな。サポ枠に置いときゃ、誰か編成して勝手に経験値入るんだから〟
〝あ。サポアーレアックなんだ。良いなー……〟
最速で動いたのは、僕が召喚したオランディアさんだった。彼女は目を瞑って亡者たちに向けて呟いた。
「掌握。破壊」
突然空間ごと亀裂が走って、亡者たちはまるで玩具の人形のように、たったの一撃でバラバラになってしまった。
〝相変わらず、★2の演出じゃねーwww〟
〝流石レアリティ詐欺筆頭。低レベルでも演出がヤバいwww〟
〝コンピューター様サイコー!! 〟
〝またガチ勢がwww〟
反りの入った短剣で、キャリキャリと不快な刃鳴りを響かせていたダゴニットさんへと、鎧イノシシが構わず突っ込んでくる。
「ムホホホホ。猪武者のお相手はぁ、大得意でしてねぇッ!!!」
一見吹き飛ばされたように見えたけど、違った。腰帯に忍ばせた刃。ブレードスカートによる攻撃と、ナイフ2本。鎧イノシシの両目に深々と突き刺さっていた。
〝回避盾+自身にタゲ集中+ランダムデバフ+固定ダメージだぜ〟
〝このあと自分も攻撃できるからな。えげつな〟
〝この道化に手と口を出す事、そのものが間違いとはよく言ったモンだよなwww〟
〝今だよ!! イノシシにたたみかけて!! 〟
〝は、はい!! 〟
体制を崩された鎧イノシシは、僕とバクティ。ナインさんの連続攻撃で倒れた。反撃に暴れたけど、両目を潰されたイノシシの攻撃は当たる事が無かった。
「さ。お、お茶にしよう。水分補給は、だ、大事だからね?」
〝お茶の時間だwww〟
〝戦闘終了後に、ノーコスト回復はありがたいよなぁ〟
〝ドジソンさん居ると、自動で回復してもらえるからね〟
書庫についた。綺麗に石積みされた床。壁一面の本棚に机。左右に分かれる階段が見える。左の階段は本棚が崩れて進めそうにない。姿を隠すには、うってつけの場所だ。
「ブケハロスはここで待て。危険が迫れば逃げろ」
ナインさんは手綱を畳むと、馬を降りて僕にも下馬を促した。かすかに焦げ臭い匂いがする。犬さんを抱えて飛んできた、バクティも追いついてきた。
「ナインさん」
「急ごう。火事かも知れん。火に撒かれては堪らん。だが慎重にな。迷宮を覗く時。迷宮もまた、我らを見定めている物だ」
〝ここからはマップを見ながらになるよ。みんな、ネタバレ禁止ね〟
〝はーい、先生!! 〟
右の階段を上がると、下の階層を一望できた。螺旋状に階段が壁沿いに下がっていて、いくつか分かれ道があって、底が見えない。
「この下だな。バクティ嬢。空から偵察を頼む」
「は、はい!!」
階段を下っていくと、中央に向かって十字に交差する細い橋があった。見た限り左右前方3つに操作レバーがある。前方奥にだけ、本が散乱していた。
十字橋の中央柱には歯車がびっしりの仕掛け構造があって、奥の本棚は床に本が散乱している。
「右か……左か、もしくは奥か」
「こ、構造的に、右の後に、ど、どちらか残ったほうだと思うよ」
〝たまにこういうヒントくれるから、マッパー外せないんだよな。このゲーム〟
〝イベントだとマップ固定じゃないし、隠し通路とかもヒント出してくれるもんな〟
〝ではまず右に。…………次は、左。かな〟
〝へ〜どうして、禀さん?〟
〝奥だとマップ的に仕掛け階段でも、少し嵩張り過ぎてる気がするんです。それに、奥だけ本が散乱してるのも、理由があるかと。
僕はナインさんと一緒に右と左のレバーを操作した。ガコンと歯車が噛み合って、奥の橋を残して右と左の橋が下にズレて、階段がせり上がってきた。
どうやら正解のようだ。奥のレバーの下だけ本が散乱していたのは、奥のレバーを操作すると足場が外されて、落下する構造になっている。下から覗くとよくわかるけど罠だったんだね。