禀は視聴者コメントからの案内を受けて、タブレットを指先で操作し、TDDをダウンロードしようとしていた。
中央の長細いイントールと書かれた画面をタップする。アイコンの中央でくるくるとダウンロードを示し、読み込みが完了した。
今日、アーリアと禀は、TDD公式運営委員会から正式な依頼。いわゆる「案件」として、TDDのプレイ配信を行う準備を進めていた。
「えっと、これで良いのでしょうか?」
〝そうだよー。後は普通のアプリと同じ〟
〝起動するとオープニング始まるから。マジ良い歌だからオヌヌメ〟
〝マリ子さんの歌。良いよね……〟
〝中の人共々、バクティちゃんの歌ヤベーもんな〟
〝自前でハープやってんのは芸達者すぎる〟
〝イベントでも毎回ご披露してんだからなー〟
〝沙耶ちゃんと、エルフ先生マダー? 〟
〝急な雨は仕方ない。梅雨だもんげ〟
〝エルフ先生。しばらくダンジョン深く潜るんだっけ? 〟
「そうですね。この配信の後に少し先生は長めにお休みを頂いて、先日の犯人の手がかりを探るそうです。ダンジョン庁からの依頼でして……」
〝不気味なくらいこっちじゃ、証拠出なかったもんな……〟
〝今じゃ唯一の手がかりだもんなぁ〟
〝ここまで徹底してると、もうなんかのブラフってーか、カモフラージュ。スケプだったんじゃねえかと思うよな〟
〝水面下で何かしてるってか? くわばらくわばら……〟
「何事も無ければ往復2週間のご予定ですが、先生も行った事もない場所に踏み込むようです。しっかり準備と休息をとって挑むそうですよ。私たちも期末考査ありますので」
〝ぐああ、持病のテストしたくない病がw〟
〝テストかー……懐かしいな〟
〝点数どうだったの委員長?〟
「少しイマイチでしたね。もっと勉強もしないとです」
自宅配信の延長上なので、アーリアと沙耶、ついでにゴブリンは急な雨で洗濯物を取り込んでいた。今日一馬たちは予定が空かず、メインはアーリアと禀の2人だけで行う事になっている。
当初。アーリアだけの配信で、公式運営から依頼されたのだが。アーリアの提案で、プレイ経験の無いメンバーである禀をメインプレイヤーに据え置き、ゲストに沙耶を迎えて配信を行う事に、相談の上で変更していた。
「終わったわよー。お、そっちも終わった見たいね。この可愛いのが噂のバクティちゃん?」
「そうだよ。可愛いでしょ」
「本物のハルピュイアとは、似ても似つかないわねー……」
〝そりゃそうだwww〟
〝まあ、性格はゲフンゲフン。ネタバレNGだったな〟
アーリアが指先でタップするアイコンには、肩上で切り揃えた黒髪、太い眉、アーリアのように長い耳の少女がこちらに微笑んでいた。
「じゃ、揃ったし始めて良いかな、禀さん?」
「OKです。……それじゃ、スタートです!」
〝いえーい待ってました!! 〟
〝久々に見るかー〟
〝わりと飛ばせないOPだよね〟
画面が暗転し、運営会社のロゴマークが表示される。オープニングが始まり、噴水に腰掛けたハーピィの少女。バクティが、ハープを奏でている。
閉ざされた
廻廊の向こう側で
銀色の光翳せば
果てない時に誘われて
君の影がまだそこに佇んでいる
遠い未来も
はるか、いにしえも
とけて1つになる
次々にアニメーションが移り代わる。多くの英傑、怪物、そして、人物が登場し活躍する。最後に真っ白い羽の羽筆を踊らせ、誰かがが本を綴り終えて、オープニングは終わった。
「おぉ……!!」
「良い歌だったでしょって、沙耶さん!!?」
「ふぐっ……ひぐっ……!」
〝早っ!! 泣くの早!! 〟
〝まあ、最初に見たなら仕方ねえ〟
〝当時衝撃すごかったもんな……〟
〝作画がどうってより、なぁ……〟
〝歌は文化の極みですな〟
「おお〜よしよし。ほら、チーンしなさいチーン」
「ま、まぁ……とりあえず、始めますね」
禀がタブレットをタップする。ターミナル画面が表示され、アーリアの案内で、まずはチュートリアルへ、TDDのゲームプレイ配信が始まった。