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第67話 決闘? アーリア VS コボルド(お散歩気分)

 沙耶が決闘を止める為に、両者に見えるように腕を振り上げた。


「それまで!! で、良いかしら?」


「そうだね。これ以上は、どっちもただしんどそうだもん」


 泥仕合と言うには、一馬の負った打撲数はかなり多い。


 だが、コボルドも息を切らし、何度か反撃が浅く当たり、動きに精彩が欠け始め、逆に一馬は慣れ始めてコボルドは攻めあぐねていた。


「途中から目を瞑って、鼻だけに切り替えたね。悪く無いけど問題点は?」


「ふぅ……、におい玉とか使われたら……って持ってるんだ。用意良いなぁ」


 コボルトたちは全員、小さな袋を手でもてあそんでいた。一馬が感じる袋から漏れ出る匂いは、かなり強かった。


「判定負けってとこかな。それっ!!」


 アーリアが遭難用であるカロリーの滅法高い、チョコレートバーをコボルドに投げ渡した。


 向こうは健闘を称えてくれたのか、小さな袋を投げてくれた。


「お、窟ハーブだ。煎じて飲むと美味しいんだよ。後でみんなで飲もうね」


〝まあ、最初の一撃で、刃使われたら勝てそうに無かったもんな……〟


〝え、チョコレートOKなん? 〟

〝犬っぽいのは顔だけだぞ〟


〝何にせよナイスファイトッ!! 〟


〝次は、精霊さま単独か〟


 フンッ、と鼻息を荒げるように、精霊ブタが巨大化して前に出た。


 進み出てきたコボルドは、もっとも体格がよく、一馬と同等の身長で、毛の下でも筋肉質な肉体をしている1頭だった。


「用意は良い!? ……始め!!」


 両者小細工を使わず、最短距離を一気に接近。

 真正面から踏ん張って激突した。


〝がんばれー!!! 〟

〝精霊様がんばってー!!! 〟


〝筋肉コボルドも負けんなー!! 〟


「おぉ……相撲みたいだ」


「精霊さまー!! 負けないでー!!」


 禀の声援で一歩、また一歩と精霊ブタが押し切り始める。


「ガ……ウゥ……!!」


 コボルドも全力で押し返すが、体格差や重量が違いすぎた。


 僅かな時間。最後は拮抗したが結局、他のコボルドが待つ場所まで押し切られてしまった。


「それまで!! 今度はこっちの勝ちかしら?」


 応じるように一匹のコボルドが、また袋を放り投げてきた。アーリアがそれを受け取った。


「お、砂金だね。混じり物だけど後でお守りにでもしようか」


〝金!!? 〟

〝金鉱脈なんてあるんだ!? 〟


〝モンスターって金集めるんだ……〟

〝モンスターが何に使うんだ? 通貨じゃねえよな……? 〟


「もう少し地下の方にね。彼らは装飾とか、物々交換に使うの。金鉱脈だけじゃなくて、宝石鉱脈とか、よくわかんない鉱脈もあったよ」


〝マジかー知らなかった〟

〝ダンジョン庁そう言う所、情報出さねえもんな〟


〝お宝の山やん!!! 〟

〝ひょえーwww〟


〝まあ、素人が行ってもモンスターの餌だもんげ〟


「じゃ、アーリアだね」


 アーリアが進み出ると、片方のツノが折れているコボルドが進み出た。


「やっぱり君か。元気だった?」


「ウォンッ!!」


「ふふっ、元気が良いね。じゃ、やろうか」


 アーリアはいつも通りラフに構え、コボルドは四肢を地面に踏ん張った。


「始めッ!!!」


 速い。残像しか見えない。足音もほとんどさせずアーリアの周囲を縦横無尽に走り込んでいる。


 アーリアも応じるように駆け出して、双方高速移動で対峙した。


〝え、消えた? 〟

〝コマ送りでも、残像しか動いてない!?〟


〝リアル残◯券www〟

〝はっやっ……!〟


「追いついてくるんだ。腕を上げたね」


「わん!!」


「じゃ、こっちはどうかな?」


 高速移動していたアーリアが、ぬるりとリズムを変えた。


 急制動で対応しようとしたコボルドは、アーリアに腕を取られ。


「それッ!!」


「グッキャン!!?」


 背負い投げの要領で、コボルドは背中から地面に落とされてしまった。


「ハッハッハッ、アンッ!!」


 だが、嬉しそうにすぐ距離を開けて、同じようにアーリアの周囲を走り始めた。


「タフだね。頭から降ろされれば、アーリアの勝ちだろうけど……」


「深めに怪我するかもだから、それは無しね。きっと」


「両方とも楽しそう……」


〝完全に飼い主に突っかかってくるイヌwww〟

〝家の子そっくりだわwww〟


〝コボルドって、ほとんど人間酔いしないって聞くしな……〟

〝いや、アレはキメてるからあーなんじゃね? 〟


 アーリアの息が軽く弾む頃。走っている途中で電池が切れたように、コボルドはバッタリと倒れてしまった。


 ぜーぜー呼吸を繰り返して白目を剥いている。仲間のコボルドたちは呆れるように舌を出していた。


「アーリアの勝ちかな。腕が上がっても相変わらずだねぇ……」


「いつもこうなの?」


「せっかちな性格なんだよ。もう群れの長なのに。ふふっ……最初に会った時からずっと、全力全開のせっかちさんなの」


 アーリアは苦笑しながら、満足げな顔で引きずられていくコボルドを見送っている。


 どこか引きずっていくコボルドたちに哀愁が漂っていて、他の3人や視聴者たちもつられて笑ってしまっていた。

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