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第66話 決闘! 一馬VSコボルド!!

 ある程度訓練していた禀の成果もあり、半日ほどで断層階層を通り過ぎ、時々すれ違うハルピュイアたちに手を振って、菌糸類エリアまで一行は降りてきていた。


「腕が良いね。沙耶さん。……このゴブリンの足跡は、分かるかな?」


 アーリアが示したのは、菌糸類断層ではよく見かける。骨が階段代わりに敷き詰められた段差だった。


 消えかけの小さな足跡が、転々と続いている。


「ちょっと古いわね。でもこれコボルド…………。それも5匹以上。……引っかけ?」


「おお……本当に非凡だね。どうして分かったの?」


「骨、ちょっと削れてる。3本の引っかき傷や、よく見るとある体毛の感じ、一見緑色だけど毛先がコボルドっぽい。オークにしては小さ過ぎるし、先入観を無くせば、かな」


 アーリアは満足げに笑った。一馬と禀にはゴブリンと言われると、その通りに見えてしまっていた。


「上々……かな。相当仕込まれた?」


「野戦訓練は首席よ。小さい頃からか祖父にね。ただ……なんとなくだけど。これわざと残してない?」


「わ〜お。その歳でそこまで読める子は満点以上だよ。その心は?」


「入ってくるなら、相応に対応する。かな」


「すごいね。僕も匂いを嗅ぐまで、ゴブリンだと思い込んでた」


「匂い……?」


「頭数はたぶん8頭……それも、相当な手練だよ。よく居る子たちかな……」


「知り合いですか。先生?」


「彼らだったらね。モンスターには、人間で言う傭兵みたいな子たちも居るの。中でも彼らはモンスター同士の抗争専門で。人とはちょっと特殊な……」


 段差を降りきって、大きなキノコを回り込む。

 開けた鍾乳洞の奥に、犬に似た影が佇んでいる。


「アーリア」


「大丈夫、顔見知りだよ。でも、近づかないで」


 小さい。アーリアの胸元ほどの身長しか無い。


 屈むような突き出た膝に、折り曲げられた足についた、鳥類のような3本指。

 体毛は明るい葉のような緑。手も3本指。


 犬のような顔つきだが耳は無く、側頭部に生えている硬そうな2対のツノ。


 つぶらな赤く、横長に淀んだ瞳と目が合う。


 なぜだろうか。敵意や脅威よりも、まるでベテラン探索者にでも出会ったような。奇妙な錯覚を一馬は感じている。


 匂いの消し方も上手い。風が無いとはいえ、目にするまで一馬は彼らの存在に気づけ無かった。


 彼らの内1匹は、手にしてた円盾をコロコロと転がしてきた。


「これは……?」


「ヨーイドンをするつもり。ただし、生命をかけず、1対1で。決闘のお誘いだね」


「決闘……?」


 アーリアがしばらくコボルド達と目を合わせると、彼らコボルドは武器を収めるか、刃をアーリアたちに向けないように持ち替えた。


 その間に一馬は骨伝導マイクのスイッチを入れた。


「聖さん。今良いですか?」


〝聖さんは車で買い出とるで。配信するか? 〟


「面白そうだしやろうと思う。良いかな?」


 アーリアに確認すると、彼女も頷いた。

 コボルドたちに配慮してドローンを飛ばさず、近くのキノコの上に配置して配信を開始した。


〝お。つながった。予定より早くない? 〟


〝モンスター? 〟

〝コボルドだ〟


〝襲って来ないのか? 〟

〝小さいな〟


「あのね。盾を返せば決闘成立なの。返さないで去るか、持って行くならそれまで。負ければ食料程度で良いの。相手を万一殺したら全員全力で闘争。やってみる?」


〝へ〜、そんなのあんのか〟

〝実力を見たいだけ勢ってヤツ? 〟


〝ある意味、強さに貪欲勢か〟

〝盾くれるとは気前が良いな〟


「剣みたいに刃のついた武器の場合は、命をかけて決闘したいってメッセージなの。彼ら以外のコボルドは、無言で襲ってくる事もあるけど……」


「やろうか」


「え、良いんですか?」


「終わったらアーリアもやるよ。2人は?」


「あいにくコレじゃね」


 沙耶は包帯を指さして、禀は単独で戦って出血はマズいと考慮している内に、精霊ブタが大きくなって前に出てしまった。


「あはは。じゃあちょうど3名でやろっか。先鋒はカズマくんね」


「わかった」


 アーリアが3本指で答え、カズマが盾を返し、声もなく変身した。


 コボルドたちは一瞬身構えたが、一番小さなコボルドが前に進み出ると再び静観し始めた。


「声かけは任せるよ、沙耶さん」


「了解。両者。準備は良い?」


 沙耶の声に応じるように、コボルドが細い剣の刃を自身に向けて翻して、尾を何度か地面に打ち付けた。


 一馬も身を屈めて、臨戦態勢を取る。


「始めッ!!!」


 一馬にはコボルドの踏み込みは、見えていたつもりだった。


「ッッッ!!!??」


 視界から一瞬消えたコボルドが、一馬の構えた腕の影から、ねじ込むような峰打ちを打ち当てた。


 顎の側に腕を構えていなければ、一撃で脳を揺らし完全に意識を刈り取る。熟練の一太刀。


「(コイツ……!?)」


 踏み込む。相手の身体は軽い。反射反応に近い体当たりで崩しを狙う。


「(読まれたッ!?)」


 滑り込むようにぐるりと回転され、木盾の縁で後頭部を打たれた。


 対した威力ではないが、一瞬視界がブレる。

 マズいと思った瞬間に、一馬はクマの足で距離を取った。


「くっ……!?」


 追撃は来ない。わざとだろう。──── 強い。


 油断はしていなかった。だが体格差もあり、力押しでどこか勝てると一馬は思い込んでいた。


 慢心していた自身を、恥じるしかなかった。


「上手でしょー。彼らは強いよ」


「すごいね。するっと入られた」


「ガゥ」


〝えっ……そんなに早く無くね? 〟

〝むしろ少し遠回りしてたよな? 〟


〝視界……いや、等速運動もか。アレやられると遅くてもほとんど目で見えないんだよな〟


「お。すごいね。わかる人居るんだ」


〝どゆこと? 〟

〝先生に褒められるってすごいな……〟


〝教えてエ◯い人!〟


〝人類皆◯ロだよ。生物の眼球って、円運動が主体だから、同じ速度だと距離感見切り辛いんだよ。場所も少し薄暗いし、すっげえ見えづらいはずだ〟


「ほぼ正解。花丸をあげるよ」


〝おーすげえ!! 〟

〝有識者さんすごい!! 〟


〝花丸最初だぞ、誇れ〟

〝誇るわwww〟


〝コボルドって、強いんだな……〟


 自慢するように、コボルドの尻尾が揺れる。


 剣の先端をいじるように指先で持て遊んでいるのは、きっと刺突なら仕留めていたと、彼なりの矜持なのだろう。


 上手い。「体の小ささ」「認識の僅かな隙間」「極僅かな死覚」を最大限利用して来る。


「位置関係」「地形の差」更には「足の形状差」もあるのだろう。己の出来る全てを噛み合わせ、上手く利用している。


 こんな戦い方があるのかと、一馬は知らず自らの頬を吊り上げていた。

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