東京ダンジョンターミナルの様子は、一部の停止バーが新しくなっただけで、特に変わりは無いように思えた。
だが、よく見ると数人の自衛官が在中する、大型テントが張られている。
まだ、グレムリン事件の爪痕は残っているのだと、全員感じていた。
「じゃ、配信始めるけど。本名で良いの?」
「問題無いわよ。ガン・ハンターズでもそうしてたもの」
「傷はどう?」
「まだガンガン傷むけど、なんとかなんない……?」
「一応罰だからね。どうしても駄目なら樹の実使うから言って。それと、マイクチェックね」
〝聞こえとるか、新入り〟
「新入りじゃ無いわよ。沙耶。あたし一応1歳年上よ?」
〝ならちゃんと年上らしく振る舞ってちょうだい、新入りちゃん。今回の目的はわかってるわね? 〟
「わかってるわよ。
〝そのとおりよ。人影を見ても間違っても追ってはだめよ。中には凶悪な犯罪者が、居る可能性もあるんだから〟
「はいはい重々承知していますよーだ。……どこ行ったのかしらねぇ。犯人……?」
「アーリアでも探せなかったってなると、無冥霧の向こう側かもねぇ。よし、それじゃみんな。配信始めるよ!!」
「了解。アーリア」
骨伝導イヤホンを付け聖たちに一言告げて、配信開始を操作するスマホをタップした。
学校特有の
同時に万を超える同接と、怒涛のようなコメントが流れ込んできた。
「みんなー! おはよー! アーリアだよー!」
「おはようございます皆さん! 一馬ですよー! 今朝は餡掛け八宝菜、美味しかったです!!」
「おはようございます! 禀です! えっと、皆さんゴールデンウィークはちゃんと休めましたか?」
〝エルフ先生ー!! 〟
〝委員長ー!! 〟
〝休めたで〜〟
〝Thank you for your help GRIZZLYMAN!! 〟
〝お久ー!! 〟
〝キーンコーンカーンコーン〟
〝起立! エルフ先生! 礼! 〟
〝精霊様もおはようございます!! 〟
英文で送られたコメント。高額な金額を送還することで、コメントに色がつく。赤いスーパーチャットコメントが入っている。
文章の内容からおそらく一馬宛である。AMAZAKE
とリスナーネームが刻まれていた。
「You're Welcome AMAZAKE!!」
〝Thank you GRIZZLYMAN!!I drew Fan Art !!! 〟
一馬が英語で返事をすると、今度は以前制作していたアーリアたちの公式SNSに、URL付きのリツイートが送られてきた。
「おぉ……!!」
通知を受けて、いち早く気づいたアーリアが確認した。劇画タッチでグレムリンと戦う、金色の雷を纏う一馬が、見事なイラストで絵描かれていた。
〝あれ、AMAZAKE氏って、海外の有名イラストレーターの人じゃね? 〟
〝別人じゃね? ……でも、氏のタッチに似てるな〟
〝別人だろ。なんで海外の有名人が、こんな絵描くんだよ? 〟
〝いや、本物だぞ……SNS一緒だ、某ゲームのアートディレクターの人だわ……〟
一馬が歓喜のあまり、ガッツポーズを取りながら確認した。
添えられた英文からは、先日のグレムリン騒動の際に、近くの建物から目撃してインスピレーションを受けたと英文が添えられていた。
「よしみんな、落ち着いてダンジョンの入り口を探すよッ!! 入ってますかぁー!!??」
「きゃっ!?」
〝先生それ委員長のローブwww〟
〝先生がコワれたwww〟
〝混乱するほどめちゃくちゃ喜んどるwww〟
〝気持ちはわかるわ〜。一馬氏さっきから目頭押さえて震えてるしwww〟
〝あれ、沙耶ちんじゃん、なんで居るん? 〟
〝ガン・ハンターズ、クビになったん?〟
〝なんか包帯巻いてね? 〟
「クビになってないわよッッ!! 出向よ、出向ッッ!! 包帯は……その……」
チラッと禀を見る沙耶。ニッコリと猛烈な笑顔を向けてくる禀に、彼女は目をそらすしか無かった。
「みんな〜、ちゃんとサングラスや、色眼鏡はかけてるかな?」
〝かけてま〜す先生!! 〟
〝いっけね、忘れてたwww〟
〝死んじまうから、ちゃんとかけろよ〜〟
ミストチェンジに対して暫定的な対策として、裸眼では見ないことが推奨されている。
1カ月の研究で1度目にした者は2度効果が無いことは分かっているが、万が一の対策として推奨されていた。
〝はい先生!! グレムリン騒動で、指揮を執ってたってのは、マジなんですか!? 〟
「え、違うよ。探索予報しただけ。えっと、技能的な説明は、ダンジョン庁サイトからが良いかな。覗いてみてね」
〝どれどれ……? 〟
〝なんか、ズラっと資格と経験が山程いるって、書いてある……〟
〝これマジ? 〟
〝指揮してるよりすごくね……? 〟
〝え、英文とか混じってて読めない……〟
〝エキサイト先生に、ご登壇願えッッ!! 〟
〝もうサービス終了しとるわwww 〟
「じゃ。新入りの沙耶さん。今日はどこまで行くのかな?」
「それさっき聞いたわよね!?
〝早くもイジられてるwww〟
〝仕方ねえ。メッチャ反応が良いのが悪いwww〟
〝僕も沙耶ちんをしっぽり……いえなんでもありません。ハイ〟
「じゃ、みんな出発だよー」
〝おー!! 〟
〝犯人いるかも知れねえから。みんな気をつけてな。ガチで〟
好き勝手に騒ぐコメントを眺めて、沙耶は痛む頭を切り替えて、真剣な表情でダンジョンに踏み入っていた。