目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第65話 AMAZAKEファンアート

東京ダンジョンターミナルの様子は、一部の停止バーが新しくなっただけで、特に変わりは無いように思えた。


 だが、よく見ると数人の自衛官が在中する、大型テントが張られている。


 まだ、グレムリン事件の爪痕は残っているのだと、全員感じていた。


「じゃ、配信始めるけど。本名で良いの?」


「問題無いわよ。ガン・ハンターズでもそうしてたもの」


「傷はどう?」


「まだガンガン傷むけど、なんとかなんない……?」


「一応罰だからね。どうしても駄目なら樹の実使うから言って。それと、マイクチェックね」


〝聞こえとるか、新入り〟


「新入りじゃ無いわよ。沙耶。あたし一応1歳年上よ?」


〝ならちゃんと年上らしく振る舞ってちょうだい、新入りちゃん。今回の目的はわかってるわね? 〟


「わかってるわよ。無冥階層むみょうエリアまで、行ってみるんでしょ?」


〝そのとおりよ。人影を見ても間違っても追ってはだめよ。中には凶悪な犯罪者が、居る可能性もあるんだから〟


「はいはい重々承知していますよーだ。……どこ行ったのかしらねぇ。犯人……?」


「アーリアでも探せなかったってなると、無冥霧の向こう側かもねぇ。よし、それじゃみんな。配信始めるよ!!」


「了解。アーリア」


 骨伝導イヤホンを付け聖たちに一言告げて、配信開始を操作するスマホをタップした。


 学校特有の予鈴ベルの音が鳴らされて、アーリアたちが挨拶を開始する。


 同時に万を超える同接と、怒涛のようなコメントが流れ込んできた。


「みんなー! おはよー! アーリアだよー!」


「おはようございます皆さん! 一馬ですよー! 今朝は餡掛け八宝菜、美味しかったです!!」 


「おはようございます! 禀です! えっと、皆さんゴールデンウィークはちゃんと休めましたか?」


〝エルフ先生ー!! 〟

〝委員長ー!! 〟


〝休めたで〜〟


〝Thank you for your help GRIZZLYMAN!! 〟

〝お久ー!! 〟


〝キーンコーンカーンコーン〟

〝起立! エルフ先生! 礼! 〟


〝精霊様もおはようございます!! 〟


 英文で送られたコメント。高額な金額を送還することで、コメントに色がつく。赤いスーパーチャットコメントが入っている。


 文章の内容からおそらく一馬宛である。AMAZAKE

とリスナーネームが刻まれていた。


「You're Welcome AMAZAKE!!」


〝Thank you GRIZZLYMAN!!I drew Fan Art !!! 〟


 一馬が英語で返事をすると、今度は以前制作していたアーリアたちの公式SNSに、URL付きのリツイートが送られてきた。


「おぉ……!!」


 通知を受けて、いち早く気づいたアーリアが確認した。劇画タッチでグレムリンと戦う、金色の雷を纏う一馬が、見事なイラストで絵描かれていた。


〝あれ、AMAZAKE氏って、海外の有名イラストレーターの人じゃね? 〟


〝別人じゃね? ……でも、氏のタッチに似てるな〟


〝別人だろ。なんで海外の有名人が、こんな絵描くんだよ? 〟


〝いや、本物だぞ……SNS一緒だ、某ゲームのアートディレクターの人だわ……〟


 一馬が歓喜のあまり、ガッツポーズを取りながら確認した。


 添えられた英文からは、先日のグレムリン騒動の際に、近くの建物から目撃してインスピレーションを受けたと英文が添えられていた。


「よしみんな、落ち着いてダンジョンの入り口を探すよッ!! 入ってますかぁー!!??」


「きゃっ!?」


〝先生それ委員長のローブwww〟

〝先生がコワれたwww〟


〝混乱するほどめちゃくちゃ喜んどるwww〟


〝気持ちはわかるわ〜。一馬氏さっきから目頭押さえて震えてるしwww〟


〝あれ、沙耶ちんじゃん、なんで居るん? 〟

〝ガン・ハンターズ、クビになったん?〟


〝なんか包帯巻いてね? 〟


「クビになってないわよッッ!! 出向よ、出向ッッ!! 包帯は……その……」


 チラッと禀を見る沙耶。ニッコリと猛烈な笑顔を向けてくる禀に、彼女は目をそらすしか無かった。


「みんな〜、ちゃんとサングラスや、色眼鏡はかけてるかな?」


〝かけてま〜す先生!! 〟


〝いっけね、忘れてたwww〟


〝死んじまうから、ちゃんとかけろよ〜〟


 ミストチェンジに対して暫定的な対策として、裸眼では見ないことが推奨されている。


 1カ月の研究で1度目にした者は2度効果が無いことは分かっているが、万が一の対策として推奨されていた。


〝はい先生!! グレムリン騒動で、指揮を執ってたってのは、マジなんですか!? 〟


「え、違うよ。探索予報しただけ。えっと、技能的な説明は、ダンジョン庁サイトからが良いかな。覗いてみてね」


〝どれどれ……? 〟


〝なんか、ズラっと資格と経験が山程いるって、書いてある……〟

〝これマジ? 〟


〝指揮してるよりすごくね……? 〟

〝え、英文とか混じってて読めない……〟


〝エキサイト先生に、ご登壇願えッッ!! 〟

〝もうサービス終了しとるわwww 〟


「じゃ。新入りの沙耶さん。今日はどこまで行くのかな?」


「それさっき聞いたわよね!? 無冥階層むみょうエリアよ、無冥階層むみょうエリア!!」


〝早くもイジられてるwww〟


〝仕方ねえ。メッチャ反応が良いのが悪いwww〟


〝僕も沙耶ちんをしっぽり……いえなんでもありません。ハイ〟


「じゃ、みんな出発だよー」


〝おー!! 〟


〝犯人いるかも知れねえから。みんな気をつけてな。ガチで〟


 好き勝手に騒ぐコメントを眺めて、沙耶は痛む頭を切り替えて、真剣な表情でダンジョンに踏み入っていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?