都内自衛隊総合衛生学園。若き自衛隊員を日夜育成するため、奮闘している学園である。
阿賀羽沙耶は、ガン・ハンターズの本庄から呼び出しを受けて、学園内の待合室で今後の相談を受けていた。
「子供はもう、連れてけないってわけ?」
「そういう意味ではない。他の空気を吸うのもどうかと言う提案だ。先方も快く良いと返答してくれている」
本庄からの提案は、沙耶にアーリアたちのダンジョン配信活動に一時的に出向と言う形で、参加してみてはどうかと言う提案だった。
彼らガン・ハンターズにおける活動は、退役者の受け皿と言う以上に、探索者を目指す者たちへのアピールと言う側面もある。
先日の借りもある。総合的に考えれば理解できない話では無かったが、未成年ばかりの配信への不安があった。
「それに、これはもともと高橋から提案されていた案だったんだ」
「爛子さんから? なんで……?」
「アイツはそういう年代をまともに過ごせなかったらしい。詳しくは聞けなかったが……」
事実。彼女の葬儀を行った際、本庄が喪主を務めたが、親族や家族が現れる事は1人も無かった。
葬儀中に漏れ聞く話では、時代錯誤な身売りをさせられていたり、どう聞いてもマトモじゃないヤの字との金銭トラブルもあったらしい。
にわかにわ信じられないが、彼女は一般からの候補生組だ。後日ガラの悪い妙な連中が訪ねて来た事実もあるし、何らかのトラブルの末に逃げてきた可能性はあった。
「そういう言い方は、ズルいじゃない……」
「まあな。だが遺言ではあるんだ。判断はお前に任せるが、佐藤氏から伝言も預かっている」
本庄はアーリアの伝言を伝えた。沙耶は何度か彼らに同行することを決めた。
◇◇◇
6月に入り、中間考査明けから数日後。一馬たち学生組はダンジョン部の教室で、返って来た答案用紙を眺めながら談笑していた。
「平均67かぁ……」
「先生の所で鍛錬ばっかりしてるからですよ。半分くらい一夜漬けだったじゃ無いですか」
「清水はどれぐらいや?」
「79です。……イマイチ範囲が全体的に外れましたね」
「ワイ70。山勘丸ハズレとか、センセ方キビシイでホンマ……」
全員、赤点は回避したが、どこか納得行く点数とは言いづらかった。
部屋のドアがノックされた。アーリアが来たのだろう。
「空いてるよ〜アーリア」
「みんな、こんにちは!」
「お、センセそれ……!」
真司が声を上げる。アーリアが着ていたのは禀が着ている物と同じ、春物のブレザーとセーラー服だった。
彼女はくるっとその場で愛らしく回って見せた。
「へへ〜ん。ど〜お〜? 似合う?」
「おっほぉおぉお!! 留学生みたいやん!!」
「かわいいね」
「…………それだけ?」
「え。かわいいじゃん?」
「カズくんに巫女服並のリアクションを期待しても無駄ですよ、先生。それより、その服どうしたんですか?」
「前にダンジョンまで案内した子たちが、一回着てみてって、ほら」
廊下の向こうで隠れている女子生徒たちが、控えめにアーリアに向けて手を振っていた。
アーリアは一馬たちがテスト期間に奮闘している頃。ダンジョン庁からの要請で、グレムリン事件の容疑者を単身追跡していた。
残念ながら容疑者の痕跡こそあった物の、本人の確保には至らず。
さらに追跡したが、3階層目の領域である。
その後、希望者を募ってダンジョンの入り口付近まで、彼らの案内などを請け負っていたのだ。
「本当に入り口近くまでだったんだっけ?」
「そうだよ。入り口が見える範囲だけだね。あとは動画を見せて、他のクランの動画とか、参考に出来そうなのピックアップして、紹介しただけだよ」
アーリアは他のクランと合同で、初心者講習の補佐を請け負っていた。
ゴールデン・ウィークを迎え、新クランの立ち上げや、未成年の挑戦者も増えている。
今日アーリアはダンジョン部で特別顧問として、一般参加者を交えての講義を少し行う予定だった。
制服でしていいのかと一馬は思ったが、似合っているし、学業を行うのに適していないわけでも無い。何よりかわいい。目の保養であった。
「む〜……」
少し面白く無さそうな禀と目を合わせず、しれっと一馬は講義に使う資料をまとめていた。
「センセそういえば、シ……おうっ!?」
TDDのガチャ。シルバーモチーフのキャラクターを手に入れたか、アーリアに気さくに聞こうとした真司を、一馬が肩を組んで止めた。
アーリアは廊下の女子生徒たちが、部室に入って来たのでかしましく談笑している。
「(なんや!? いきなし!?)」
「(忘れたのか、アーリアは今、TDD夏の水着イベントに向けてガチャ禁中だ。話題に出して見ろ。禁断症状が出るぞ!!)」
「(せやった! うっかりしとった!!)」
アーリアはこのところガチャに手を出していなかった。ソーシャルゲームは普通にプレイしていれば、ある程度のゲーム内資産を獲得する事ができる。
いわゆるガチャ禁を行い、彼女は夏のイベントに向けて資産の貯金を開始しているのだ。迂闊に刺激すればまた泣きを見る。彼らなりの配慮であった。
「そういえば、ガン・ハンターズから出向者が来るんだっけ?」
「あのね。まだ決定じゃ無いけど、来るなら次の探索には同行するって連絡があったよ」
予定では聖の退院も近い。ダンジョン探索に向けて、彼らは動き出していた。