路地裏にプププッと電子音に似た、針による射撃音が響く。飛び立とうとしたグレムリンが、ふらついて壁に激突した。
「止めたわ!!」
「よし、よくやったッ!!!」
ガァンッ!! ガァンッッ!! と、即座に一条が頭部、心臓目掛けて拳銃を2連射。
電撃の針で痺れ叫び声も上げれずに、グレムリンは討伐された。
「クリア。……今のでケツか?」
〝妖精の
「了解。所轄に場所を引き継ぎ警戒しつつ、周囲を探索して帰還する」
〝了解だ。それにしてもまるで、未来予測してるみてーな精度だったな……? 〟
「都内には守り神の妖精が居る。なんて酒の席で昔噂聞いた事もあったが、マジだったのかね?」
「ふー……」
沙耶は大きく息を吐き出して、テーザーガンの安全装置をかけた。
警戒しながら警察を待っていると、本庄と警察たちが、反対の道から歩いて来た。
「うわっ、……返り血?」
「ああ。たくっ、墜落したのに巻き込まれてな……」
本庄が持っているアクリルシールドは歪んで、グレムリンの赤い血でべっとりと汚れていた。
「怪我人、……死傷者は、居るの?」
「警官が数人負傷。こちらは無し。とんだゴールデン・ウィークになったな……」
「違いない。おちおち子供や嫁さんの迎えにも、呑気に行けやしないぜ」
ゴーストタウンとまで行かないが、街の住人はほとんどが自宅に立てこもるか、避難所に身を寄せている。
物々しい警官たち、探索者たちと、道の分からない観光客が護衛されているくらいで、とても連休の半ばとは思えない景観だった。
その時だった。空が落雷のように明滅し、続いて轟音と振動が街中を駆け抜けた。
「な、なに!?」
「地震!? いや、カミナリか!?」
「お、おい、アレ……!?」
一条がビルの隙間を指差して、本庄と沙耶が振り返った。
快晴の空に浮かんでいた散り散りの雲が、扇上に真っ二つに割れている。
さっきまでそんな物は無く、普通の空だった。アーリアが「渾身で」白いグレムリンを蹴り飛ばした結果である。
「だ、誰か何か、分かるか?」
〝少し待て……なんだこりゃ、SNSに、雷が昇ったあと、バカでけえ隕石みてえな光が空に、昇ってる……? 〟
〝ミサイル……なわけ無いですよね。町中にあるわけが……? 〟
いち早く冷静さを取り戻した本庄の問いに、正確に返答できる物は居なかった。
まるで隕石、ミサイル以上の
◇◇◇
一馬は自らが落下していく事も忘れて、その輝きに魅入られていた。
視界いっぱいの輝く奔流。一馬が出した雷が細い枝分かれした糸なら、輝く大河そのものを空に顕現させたような、究極の御業である。
「ハハッ、こりゃすげえや!!」
「キレイだ……」
気を取られて2人は着地も忘れて見入り、思いっきり背中から勢いよく墜落してしまった。
「ごはッッ!!?」
「がッッ!!」
受け身もろくに取らなかったので、2人揃って背面をすべてを打ち付けて、悶絶するしか無かった。
〝ちょ、何かすごい音したけど、平気!? 〟
「おう。今の佐藤か? すげえな。いてて……」
〝全力で攻撃したけど、あれだけの再生力だよ。確実に倒したか分からないから、油断はしないで〟
「……分かった。消し炭も残ってなさそうだが、おい一馬! 動けるか!?」
「なんとか……でも、バイクが」
ひっくり返って墜落したバイクは、見事に部品が爆散しており、座席はおろかエンジンまでくの字に変形してしまっていた。
「ちっ、気に入ってたんだがな。また直すか」
「え、ここからですか?」
「形見なんだよ、先代の。……あん?」
警察車両が回転灯を回して近づいてくる。乗っていたのは警察と勇樹。ストロング・ボックスのメンバーだった。
「アニキ〜!!」
「おうお前ら! 無事だったか!!」
「アニキにお客様ッス!! 声かける前に、飛び出して行っちまうって指! 指!!」
「あん? ああ。後で治すさ、…………榛、名?」
警察車両から降りてきたのは、二羽と呼ばれた少女と、シルバーこと銀二の名前を呼んでいた女性だった。
「あ、やっぱり気づいて無かった。8年ぶりじゃ、しょうが無いけどさ」
「あ、あぁ……来てたのか。元気だったか?」
「うん。……その、うちの子がさ、会いたいって」
「嬢ちゃん……?」
二羽は春奈の背に隠れているが、何か茶色い袋を握りしめていた。
榛名に背を押されて、彼女は無言で茶色い袋。ミクドナルドの袋から、ハンバーガーを差し出してきた。
「げっ、あ、アニキ。俺がもらいま」「いや、いい……」
受け取ろうとした勇樹を制して、銀二はハンバーガーを無事な手で受け取った。不思議だった。今ならなぜか、食える気がした。
むしゃぶりつくように、一息にかぶりつく。ためらいもしなかった。安っぽい、だが確かに牛肉の味が口に広がる。十数年ぶりに食べたハンバーガーは。
「うめぇ。勝利の味だ……」
沁み込むように、ただただ美味かった。
「
「うん……ふふっ、変わらないね。銀二くん」
二羽は何も言えず。ただ銀二のどこか晴れやかな顔を見つめて、笑顔こそ浮かべたが、やはり何も言わなかった。