「――!?」
呼吸が、止まった。
恐れなのか期待なのか、自分でもよくわからない感情で、全身がいっぱいになる。
ここにいるのは私だけだと思っていた。側にある閲覧席には誰も座っていなかったから。
ゆっくりと後ろを振り向く。
棚に隠れて受付からは死角になる奥のベンチ。そこに、本を顔にかぶせて寝そべっている男子生徒がいた。
本のタイトルは、『航空整備の基礎』。
彼は顔から本を外し、半身を起こすと、眼鏡の奥の目をいたずらっぽく瞬かせてこちらを見つめた。
――俺、ほとんど迷ったことないからな。眼鏡にするかコンタクトにするかと、あとは――……。
優しくて強い瞳。
もう一度聞きたくて、でも二度と聞けないと思っていた声。
こみあげる涙をこらえて、私はそっと、窓の外に目を向けた。
目に痛いほど青い空に、白い入道雲。
けれど、問答雲はもう消えていた。