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第25話

「――!?」


 呼吸が、止まった。

 恐れなのか期待なのか、自分でもよくわからない感情で、全身がいっぱいになる。


 ここにいるのは私だけだと思っていた。側にある閲覧席には誰も座っていなかったから。


 ゆっくりと後ろを振り向く。


 棚に隠れて受付からは死角になる奥のベンチ。そこに、本を顔にかぶせて寝そべっている男子生徒がいた。


 本のタイトルは、『航空整備の基礎』。

 彼は顔から本を外し、半身を起こすと、眼鏡の奥の目をいたずらっぽく瞬かせてこちらを見つめた。



 ――俺、ほとんど迷ったことないからな。眼鏡にするかコンタクトにするかと、あとは――……。



 優しくて強い瞳。

 もう一度聞きたくて、でも二度と聞けないと思っていた声。


 こみあげる涙をこらえて、私はそっと、窓の外に目を向けた。




 目に痛いほど青い空に、白い入道雲。



 けれど、問答雲はもう消えていた。



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