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第22話

 太陽がオレンジ色に輝き、虹色の雲が赤一色に染まり始め……、壮絶な美しさに呼吸がうまくできなくなる。


 空港の公園に着いた私は、そこの芝生に倒れ込んだ。


 ペースなんて一切気にしていなかった。仰向けになって、せき込みそうになりながら空気を取り込む。


 視界一面に広がる空。先輩が教えてくれた雲の名前。


 ……彩雲が黄雲になり、茜雲に変わっていた。


 そろそろ、彼女に先輩を返してあげなければならない。

 この世界の雪花。未だベッドから出られないでいるもう一人の私。


(会って、見たかったな……)


 妬ましいと、嫌味を言われるだろうか。それとも虚勢を張って、平気なふりをするのだろうか。


 でも。

 大丈夫。


 あなたは、一人じゃないから。

 先輩が、一緒に戦ってくれるから。

 ずっと、想っていてくれるから。


 観客席で応援するのではなく。

 ストップウォッチを持ってゴールで待っているのではなく。

 いつかのように、隣で一緒に走ってくれるのだ。



 ――そして私も、一緒に。


 元の世界で、頑張るから。



 だから、ごめん。一言だけ、言わせて。



 先輩。優しくて意地悪だった、先輩。

 先輩が、彼女に会いたくて私を呼んでしまったというのなら。


 私で、よかった。

 この世界の私を呼んでくれて、嬉しかった。


 苦しくて苦しくて、何度も恨みそうになったけど、それでも、あなたに会えてよかった。




 ――私も、先輩のことが、好きでした。




 そうして私は、校門を出たときから続いていた鈍い頭痛に別れを告げた。


 痛みと共に手放したものが胸に大きな穴を穿って、夕焼け空を仰いだまま、声が枯れるまで泣いた。


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