先輩の視線を全身に感じながら、校門を抜け、住宅街を走り続ける。
こうして走っていると、よくわかる。
一ヶ月前にオープンしたはずの赤い屋根のパン屋がない。半年くらい前に切られた柿の木が、まだあそこに残っている。
この家の玄関には、昨日咲いていた白い花が見当たらない。何かの衝撃で傾いたままだった電柱が、こっちでは直立している――。
空を演出するのはほうき雲。毛先が広がった
先輩の言うとおり、太陽の近くの雲が、薄い水色や黄色に染まっていた。
西へ、西へ。
もうすでに五分以上経った。校門から先は、校庭に立つ木々と周りの建物のせいで、すぐに見えなくなる。それなのに、違和感のある風景は続いている。
風で乾いたはずの目が、再び、涙でにじんでいく。すすり泣きながら、ひたすら走り続ける。
――君の場合、見えてるだけじゃなくて、色々触ったり会話したりして、存在をより確固たるものにしているから。
もう、お互いの姿は見えていない。それなのにこの世界から離れないのは、きっと、先輩も私も、相手を想い続けているから。
初めて会ったときの驚いた顔。問答雲を丁寧に教えてくれたこと。背中をなでてくれた優しい手。心配しては、苦笑して、そして最後には私の名を呼んでくれるのだ。愛しいものをその手でそっとくるむように。
どの世界の先輩も、優しくておせっかいで、そして心配性だった。
明確に分けることなんてできない。
けれど、私が思い出すのは、きっと、この世界の先輩なのだろう。
二度も巡り会って、何度も涙を拭いてくれた、優しくて意地悪な先輩なのだろう。