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第2話

 空が甲高かんだかく鳴いている。


 真っ青な空を、真っ白な入道雲がもくもくと侵食していく。校舎の純白色の壁と相まって、照り返された日光が目に痛い。セミや鳥のさえずりは、まるで全力で暑さをわめいているようで、耳まで痛い。


 対して、目の前の図書室の薄暗さと静けさといったらどうだ。あまりにも差がありすぎて、果たしてここは同じ場所なのかと思わず疑ってしまった。


雪花せつか、ごめんね。部活で読書感想画かくことになっちゃってさ。予約してた本借りてくるだけだから。すぐ終わるから!」


 図書室の中は、さらに異空間のようだった。友人の李果りかのつきあいで中に入った私は、ひんやりとした空気と静寂に迎えられた。


 終業式が終わったあとの学校は、いつもより静かなようで、なのに生徒達がみんなどこか落ち着かなくて、行き場のない熱気が充満していた。ひっそりした喧噪とでもいえばいいのか、さっきまで気づかなかったざわめきが、扉を隔てたことで認識させられた。エアコンが入っているはずの教室も、体育館も、ここに比べたらどこも暑くてうるさかった。少し、いらいらするほどに。


「そんなに急がなくていいよ。私も久しぶりに、ちょっと中見てみたいし」


 李果がカウンターに行くのを見送り、私は室内を見渡した。


 正直、何の特徴もない図書室だ。特別蔵書が多いわけでも、歴史が古いわけでもない。ただ、管理している図書委員がちょっと変わっているとは李果の談だ。

 あまりに静かなので誰もいないのかと思いきや、夏休みの課題なのか、プリントを手にした生徒が数名、棚の周りをうろうろしていた。奥にある横長のベンチに横になって、顔に本をのせて昼寝をしている生徒までいた。ちょっとあきれてしまったが、外の喧騒から切り離されたかのように静かで涼しい図書室は、とても寝心地がいいだろう。


 でも、もし図書委員にばれたら怒られるんじゃないだろうか。

 私はとばっちりを受けないよう、そこからそっと遠ざかった。


「お待たせー。よかったー、休み前に目当ての本借りられて」


 窓際の棚を何となしに眺めているとき、いくつも本を抱えた李果が戻ってきた。


「あれ? 変な図書委員さんとは何もなかった?」

「え? ああ、あの話? 大丈夫大丈夫。あれは、延滞とか何か悪いことしたら、学校の七不思議にのるような祟られ方をするってだけ」

「……え? 何それ……?」


 私の不審な視線を受け流すように、李果は無表情でダイジョーブダイジョーブと唱え続けた。


「――それよりさ、夏休み中に活動あるってめんどくさいよねえ。雪花のとこも、さっそく明日から部活あるんでしょ?」

「え、あ、うん。そろそろ大会が近いからね」


 李果の質問に気を取り直して答えると、彼女は天井を仰いで大きく息をついた。


「よくやるよねえ、こんな暑い時に外で運動なんて。考えるだけできついわー」


 私は李果にほほえみを返し、側の窓からグラウンドを見下ろした。



 確かに、うんざりするほど暑い。けれど、それでも私は外で走るのが好きだ。


 自分の手足をめいっぱい動かして、全身で自由を味わえるから。


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