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第6話 前途有望な子供なのですよ

 翌日──


 楽毅がくきたちの新居にさっそく李同りどう李何りか李勝りしょうの三人が訪ねて来た。


 楽毅がくきは彼らの素性に気づかないフリをしてよろこんで迎え入れ、いろいろな話をした。

 三人はわからないことがあれば質問を繰り返し、楽毅がくきはそれによどみなく答えていった。

 彼らの弁論はもはや大人の見識をも遥かに凌駕りょうがしており、楽毅がくき自身が驚かされることもしばしばであった。


 そこで彼女は、軍事に造詣の深い李同りどう楽乗がくじょうに、政治に造詣の深い李何りかツェイに、そして聖人君子に造詣の深い李勝りしょうを彼女自身が一対一で相手にすることにした。


 楽毅がくき李勝りしょうを相手に選んだのは得意分野の相性もあるが、李勝りしょう自身が進んで楽毅がくき孟嘗君もうしょうくんのことをたずねてくるからであった。李勝りしょう孟嘗君もうしょうくんを深く敬愛しており、彼女のような偶像アイドルになりたいと常に心がけているのだ。

 同じく孟嘗君もうしょうくんを敬愛している楽毅がくきは、李勝りしょうに自らが知り得る孟嘗君もうしょうくんという人物像をつぶさに語り、また李勝りしょうもうれしそうに彼女の話に耳を傾けるのだった。




 そんな日々が何日か続いたころ、楽乗がくじょうが楽しそうな笑みと共に言った。


「素直で聡明な子たちですね。彼らが国の中枢を担うようになれば、きっと【ちょう】は繁栄することでしょう」


 彼女は李同りどうをまるで弟のように思い、武術の指導にも相当熱が入っていた。


楽乗がくじょう姉さんは【ちょう】がキライなのでは無かったのですか?」  


 部屋の隅で膝を抱えている楽間がくかんが、つまらなそうに吐露する。その言葉には不満がありありと包含ほうがんされていた。


「たしかに【ちょう】は我が祖国を滅ぼした張本人ですからね。大キライです。ですが、それはあの子たちとは直接関係の無いこと。私にとっては楽間がくかんどのと同じ、前途有望な子供なのですよ」


 楽間がくかんのそんな心情を察した楽乗がくじょうは、母のような慈愛に満ちた瞳を向け、父のような力強い手で彼の頭を撫でながら言った。

 楽間がくかんはしばらく気恥ずかしそうに目を泳がせていたが、やがてコクリと小さくうなずいた。

 そんな光景を、楽毅がくきツェイは微笑ましげに見つめるのだった。

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