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第4話 ヒドくないっスか⁉

「ふぅ……そよ風が気持ちいいわ」


 小一時間ほど遊泳し浜辺に戻った四人は、日傘パラソルの下に敷かれた茣蓙ござの上に寝そべる。


「そういえば前々から聞きたかったんだけど」

「お、少女会話ガールズトークじゃな? 好みの男子の話とかするのじゃろう?」


 楽毅がくきの言葉に齋和さいかが目を輝かせながら食いつく。


「うぅん、そんな色っぽい話じゃないんだけど」


 苦笑する楽毅がくき


田単でんたんって【せい】の王族と同じ田姓だけど、ひょっとしてスゴイお嬢様だったりするの?」


 右隣りの田単でんたんの方に首をかたむけて問う。


「私の家はそんな高貴なものではありません。事実、父は安平あんぺいまちの一役人にすぎませんし」


 苦笑交じりに田単でんたんは続けた。


「確かに、家系図をさかのぼれば公族の出自になりますが、しょせん傍流ぼうりゅうです。誇れる程のものではありません」

「ふむ。【せい】には田姓の者が有象無象うぞうむぞうにおるからのう」


 田単でんたんの言葉に齋和さいかがしきりにうなずく。

 齋和さいかこと田文姫でんぶんきも田姓であり公族の出自であるが、彼女自身それを鼻にかける事は無い。


孟嘗君もうしょうくん……いえ、齋和さいかどのは特別です。同じ田姓として誇りに思います」

「ふむ、そうであろう? 田単でんたん、オヌシとは仲良くやっていけそうじゃなぁ」


 ──でも、時々調子に乗っちゃうところがあるのよね。


 と、田単でんたんにおだてられ気をよくする齋和さいかを眺めながら楽毅がくきは思った。


趙奢ちょうしゃも、【ちょう】の王族と同じちょう姓だけどひょっとしてお嬢様……なワケないか」

「ちょ、何それ、ヒドくないっスか!?」


 今度は左隣りの趙奢ちょうしゃに問うが、一方的にその質問を完結させられた趙奢ちょうしゃは不満げに頬を膨らませた。


「たしかにジブンは粗野だしィ、発明オタクだしィ、お父さんは将軍やってるっスけど……。楽毅がくきちゃん、それはあんまりっスよ」

「ゴメンゴメン。ほんの冗談よ」


 楽毅がくきは手を合わせて謝意を示す。


「ほう。オヌシの父は将軍か。名は何と申す?」


 今度は齋和さいかが問う。


趙奢ちょうしゃっスよ、齋和さいかちゃん。ちゃんと覚えて欲しいっス」

「そうかそうか。その名、二度と忘れまいぞ……って、誰がオヌシの名前を聞いておるか! ワシはオヌシの父の名を聞いておるのじゃッ!」

「やだなァ、齋和さいかちゃん、ほんの冗談じゃないっスか」


 けらけらと笑う趙奢ちょうしゃ


 ──齋和さいかもたいがいノリが良いわよね。


 それはその場にいた誰もが抱いた感想だが、あえて口に出す者はいなかった。


「ジブンのお父さん、趙与ちょうよっていうんスよ」

趙与ちょうよ……? はて、どこかで聞いたような名じゃが……?」

「十八年ほど前、兵法を学びに臨淄りんしに留学していた学生の名でございます、姫様」


 首をひねる齋和さいかにそう告げたのは、彼女の側で直立不動のままでいる青年、かんであった。


「おお、行き倒れのあの貧乏学生か! 確かあの時、ワシが飯を馳走してやったのじゃったなぁ」


 納得してしきりにうなずく齋和さいか


「お父さんにそんな過去が……?」


 首をかしげる趙奢ちょうしゃ。彼女がまだ生まれる前の話なので、ピンとこないのも仕方の無いことだ。


「しかし、あの時の冴えない男が今や将軍で、しかもこんな眼鏡魔人をこさえるとは……【ちょう】の国はいろいろと終わっておるな」

「うっわ~、それ、本気で傷つくっスよ~」


 齋和さいか容赦ようしゃ無い悪言ディスりに、趙奢ちょうしゃは本気でへこんでしまうのだった。

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