刹那、
──そういえば今朝は何も食べてなかったわ。
気分は落ちこんでいるというのに、そんな事などお構いなく空腹は訪れる。それが何とも情け無く、余計に自己嫌悪に囚われてしまう。ちょうど近くの露店から充満する肉まんの香ばしい匂いが、風に乗って彼女の鼻をくすぐり、それがまたさらなる食欲を誘うのだった。
──食も生きる為の立派な動機だわ。
そんな言い訳めいた事を思いながら、
要は肉まんの誘惑に負けたのだ。
まだ昼時まで間があるにも関わらず、店先にはすでに十人以上の列が出来ていた。
ひとり二人と列が進むにつれ、蒸し上がったばかりのホカホカの熱気が伝わり期待が膨らむ。
「いらっしゃい、お嬢さん!」
ようやく
「うむ、いらしてやったぞ」
しかし、尊大な物言いで答えたのは、
なぜならその少女はどう見ても
身長はせいぜい百四十センチ弱。
土色がかった黒髪を左右で
「じゃが
おデコの少女は構うこと無く
「……あのね、お嬢ちゃん? 肉まんを食べたくて仕方が無い気持ちは分かるわ。でもね、だからって知らない人からいきなりお金を借りるのはいけない事なのよ?」
このコは一体何なの、と言いたいのをこらえて、ムリヤリつくろった笑顔でとくと
「何じゃ、度量の狭い娘じゃのう。胸はそんなに大らかなクセに」
しかし、少女はまったく悪びれること無く、逆に
「なッ⁉ む、胸は関係無いでしょ、胸はッ!」
その顔がみるみる内に赤く染まっていく。
確かに
しかし、それ
──何て
そう心で
「わかったわ、お嬢ちゃん。今回だけはお姉さんが買ってあげる。だけどもう、こんな事しちゃダメよ?」
要望に応じつつもしっかり
「上から目線なのが何とも
少女は満足げにうなずく。
「すみません。このコとわたしにひとつずつお願いします」
と店主に告げる。
「おい、誰がひとつでよいと言ったのじゃ?」
しかし、少女は
「えェ⁉ じゃあ、いくつ食べるつもりなの?」
「そうじゃなぁ。まあ、今日はオヌシの世話になる手前、控えめに十個といったところかのう」
「十個ッ⁉ 控えめで十個ッ⁉」
再び唖然とする
厚かましいと思うより、その小さな体でそんなに食べられるのか、という疑問の方が勝る。
足りない訳ではないが、実家から仕送りをしてもらっている身なので余裕がある訳でも無かった。
──今さら後には
「すみません。このコに十個とわたしに……一個ください」
店主に告げる。
良いのかい、という店主の問いに力無くうなずくのだった。
こうして
──どうしてこうなったのかしら?
思いも寄らぬ事態に自問するが、答えが出るはずも無かった。