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 ヴァルト領主館前。

 ヴァールハイトは焦げ茶色のマントと黒を貴重とした旅装束、焦げ茶の半長靴を纏っている。

 ハーフリングたちが用意した服で、魔力が込められた布に魔法陣が縫い付けられており、清潔や温度調節などの効果がある。

 ソフィアはどこか残念そうな表情だ。


「本当に綺麗なお顔と綺麗なホワイトブロンドに青い瞳だから、絶対に貴族らしい服が似合うと思うのよね、ドレスが良いと思うわ」

「ご夫人、我はれっきとした雄なのだが」

「ドレスの方が貴方の美しさが際立つと思うのよねぇ」

「聞いてないのか?」


 コントのようなやり取りにアーロンは笑いつつ、ヴァールハイトに別れの挨拶をする。


「ヴァールハイト、さようなら。また、いつか会おう。良い旅路を」

「あ、ああ。ありがとう、アーロン。では、我は行く。皆のもの、達者でな」

「ヴァールハイトちゃん、いつでも戻ってきてね。貴方に似合うドレスを作っておくわ」

「ご夫人、それは止めてくれ」

「はは、ソフィアも程々にな。……ヴァールハイト殿、お元気で」

「ああ。ではな」


 ヴァールハイトは、龍の気配にちょっと怯えた馬にまたがり、ヴァルト領を去っていった。




 一週間後。

 エレツ王城、謁見の間。

 アーロンは正装を纏って、玉座の前で跪いた。

 玉座にはシェードが座っていた。


「勇者の称号を持つアーロン・フォン・シュタインよ、ヴァルト山脈にて復活した魔王をいち早く見つけ、討伐したこと、賞賛に値する。よって、天光勲章を授与し、褒賞金である大金貨三万枚を与える」


 天光勲章とは、アーロンの為に急遽、新設された勲章だ。最上位に位置する勲章となっている。今までは陽光勲章が最上位だった。

 シェードの側に控えていた侍従たちが勲章と褒賞金をアーロンに渡した。

 勲章は侍従によって、アーロンが纏う正装の左胸の辺りに着けられた。

 褒賞金は侍従3人が持つパンパンになった革袋に詰め込まれている。

 アーロンは身体強化をして受け取った。

 まだ成長途中の少年が3つの大きな革袋を軽々と持つ姿はちょっと異様だ。


「有難き幸せ、王国に栄光あれ」

「王国と共にあれ」


 宰相が口を開いた。


「勇者殿、下がって良いぞ」

「では、失礼いたします」


 アーロンは退室すると、革袋をヴァルトバングルの収納に入れた。


「ヴァルト侯爵、こちらへご案内します」


 待っていたらしい近衛騎士にアーロンは案内されて、シェードの執務室にやってきた。

 待っていると暫くして、シェードと宰相であるリチャードともう一人、礼装を纏ったロマンスグレーの美丈夫がやってきた。


(この人……昔、陛下に無理やり連れて行かれた大臣との会議のときにいた人だから、大臣かな?)


 と、アーロンは記憶を掘り起こす。


「やあ、アーロン君」

「ご機嫌麗しゅう、陛下」


 アーロンはそう言ってお辞儀した。


「あー、怒ってる?ごめんね。あれしか褒賞金がなくてさ、魔王倒してくれたのに爵位も上げられなくて……、この前上げたばかりだから、他の貴族がざわざわしちゃいそうでさぁ」

「大丈夫です、陛下。気にしてません」


 アーロンはこれ以上何かされても忙しくなる予感があったので、気にしていなかった。


「そう?なら良いんだけど」


 シェードはほっとしたような表情を浮かべた。


「話は終わりましたかな?では、アーロン君、久々に会うだろうから、紹介するよ」


 にこやかなリチャードは横にいるロマンスグレーを紹介する。


「彼は、軍務大臣であるクリーク侯爵だ」


 ロマンスグレーはアーロンに会釈した。


「久しぶりだね、アーロン君、いや、ヴァルト侯爵の方が良いかな。私はセオドシア・フォン・ガードナーという。息子のセドリックが世話になっているね」

「あ、……セドリック殿のお父上ですか、こちらこそ、お世話になっています。私のことはアーロンとお呼び下さい」

「じゃあ、アーロン君。私のこともセオドシアと」

「セオドシア殿で、お願いします」

「良いよ」


 にこやかに話す2人は、リチャードに促されソファーに座ることになった。

 2人の対面にはシェードとリチャードが座る。


「さて、2人に来てもらったのは他でもない、スルス帝国についてだ」


 シェードは真面目な表情で語り始めた。


「スルス帝国は昨年まで反乱が続いていたから、とても他国を侵略できる状況じゃないと、うちの外交官は話しているが、天影の調べによれば、今年の春には隣のストロム王国に宣戦布告するだろう。……周辺諸国と同盟を組んでいるからだろう。かなり強気だよ。そこでだ」


 シェードはアーロンに視線を向けた。


「アーロン君にはスルス帝国を完膚無きまでに潰して欲しい。もしくは調略で力を削ぎ落として欲しいんだ」

「えっ」

「勇者ならできるよ!」


 丸投げかい、とアーロンはシェードにジト目を向けた。


「うん、私たちも出来ることをしているよ。周辺諸国は大体私たちの味方だ。彼らは長年スルス帝国と戦って来たからね。恨みも深いようだ」


 戦争が始まったら面白いものが見れるだろうね、と爽やかに言い放つシェードは腹黒いだろう。


「アーロン君、できるかな?」

「その、完膚無きまでに潰すというのは……」

「精神的にでも良いよ、戦意を徹底的に叩き潰してあげるのも良い」

「……分かりました。やってみます」

「うん、ありがとう。というわけで、クリーク卿にはアーロン君の願いをできるだけ叶えて欲しいんだ」

「願い、ですか」

「具体的にはアーロン君が必要なときに人材を派遣したり、武具を用意したりかな?お金も用意して欲しいけど、そこは財務大臣と相談で」

「畏まりました」

「アーロン君もそのつもりで」

「えっと、なるべく頼らないように頑張ります」

「アーロン君、使えるものはガンガン使わないと駄目だから、遠慮はいらないよ」


 アーロンは一瞬、目を丸くしたが、頷いた。


「分かりました」


 アーロンは神妙な顔で、3人と話を続けた。少しでも味方の被害が少ない作戦を話し合う。

 まだ寒さは厳しいが、春まで2ヶ月ほどしか時間がない。

 戦争の足音が近付いていた。


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