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 精霊の森にやってきたアーロンは早々にリートを見付けた。


「こんにちは、リート」

「アーロン様!」


 リートはアーロンを見つけるや否や、嬉々としてアーロンの元にやってきた。


「なにか私にご用命でしょうか?」

「えーっと、聞きたいことがあるんだよね」


 アーロンはリートの圧に若干引きつつ、言った。


「何なりと、お聞き下さい」

「うん、……リートは勇者の仲間、弓聖のハイエルフだよね?」

「ええ、勇者の末裔であるアーロン様に救っていただいたことは、何か不思議な縁を感じますね」


 あっさり肯定されたのでアーロンはちょっと呆けた。


「あの、なにか理由があって隠してた訳じゃ」

「ありませんね。聞かれれば答えましたよ。態々話すことでもありませんし」

「あー、なるほど。ところで、もう1つ聞きたいことがあるんだ。魔王は龍王だったのは知ってるんだけど、どんな風だった?」

「そうですね、この世の全てを呪っているような龍で、瘴気という、この世界をけがしてしまう力を生み出して、自分が呑まれたような奴でしたね」

「呑まれた?」

「そうですねぇ、正気は保ってましたが、身体が全て瘴気になっていましたね、恐らく魂も瘴気に塗れているでしょう」

「へぇ。何か有効な攻撃手段とかあるかな?」

「そうですね、浄化が良いのではないでしょうか?穢れは浄化と相場が決まってます」


 浄化と言われ、アーロンは魔導トイレを思い出した。

 魔導トイレの便器や便座は浄化石が含まれているからだろう。

 因みに、汚物を魔力に変換するという作用は、還元の魔法陣が刻まれた魔石によるものなので、浄化石は関係ない。

 浄化石はあくまで魔導トイレ自体を清浄に保つという目的を持つ。

 それなら汚物を浄化石で浄化してしまえば良いではないかということになるだろう。しかし、魔導トイレの動力源である魔石の魔力の補充に汚物の魔力を使っているので、浄化する訳にはいかないのだ。

 何はともあれ、浄化石の存在に思い至ったアーロンは笑顔を浮かべた。


「なるほど、ありがとう!今から魔王を倒してくるよ」

「はい、いってらっしゃいませ……ん?今からですか!?」


 リートが追いかけようと思った頃には、アーロンは転移魔法でヴァルト山脈の麓にいた。


「よし、行こう」


 アーロンは飛翔を使ってヴァルト山脈の洞窟を探した。

 洞窟はすぐに見つかり、アーロンは中に入って光玉を作って周りを照らした。

 奥へと進むと、巨大な空間に出た。

 巨大な空間には衰弱した白い龍と黒いオーラを放つ巨大な石があった。

 アーロンは巨大な石の近くに巨大な浄化石を作って、白い龍の上に少し大きい神慈石を乗せるように作った。

 神慈石は白い龍に吸い込まれるように消えた。

 白い龍は元気を取り戻した。


「ようやく来たか、魔王を屠る者よ」

「ごめんね、遅くなって」

「構わぬ。……魔王は倒せそうか?」

「うん、大丈夫だと思う」


 アーロンはそう言いつつ、魔王が封印された巨大な石の側にどんどん巨大な浄化石を置いていった。


「ふむ、浄化石か……だが、奴の瘴気はこれだけでは、ちと難しいぞ」

「大丈夫、ずっと出し続けることもできるから」


 ガイドに任せれば機械的に出すことも可能だ。


「分かった。もう、封印を保つ必要はないな?」

「うん」

「魔王を屠る者よ、力を尽くせ」


 魔王が封印された巨大な石は砕けた。

 中から巨大な龍の形をした瘴気の塊が現れた。


「ふん、浄化石を置いたのか、小癪な人族め」


 魔王は瘴気を放って浄化石を次々と消した。


「他愛もない」


 余裕そうな魔王を見てアーロンはムカついた。


「ガイド、やっちゃって」


 ガイドがアーロンの石の王を使って浄化石をどんどん生成していった。


「小癪な」


 魔王は瘴気を使ってどんどん浄化石を消すが、浄化石の生成の勢いは止まらない。

 魔王の瘴気が徐々に少なくなっていく。




 3時間後。


「ちょ、待って、ほんと、無理だ」


 魔王は犬くらいの大きさになっていた。


「頑固な汚れは綺麗にしないとね」


 アーロンはガイドにガンガン行こうと言って、止める素振りもない。

 魔王は自分が消えてしまう恐怖に襲われつつ、逃げようとした。

 が、浄化石によって退路は断たれてしまう。

 トドメに浄化石が魔王の上に降ってきた。


「うぎゃああああああ!!」


 浄化石が直に触れたことで、魔王の浄化は一気に進み、魔王は跡形もなく消えてしまった。


「あれ、終わっちゃった」


 もっと浄化したかったなぁ、というアーロンの独り言を聞いた白い龍は引いていた。


「お主は鬼畜かのぅ?」

「え?僕は鬼畜じゃないよ。よく、優しいって言われるからさ」


 ポーン、という音と共にホログラムウインドウが現れた。


[ワールドアナウンス︰勇者アーロンが魔王をたおしました]


 アーロンは目を瞬かせた。


「ワールドアナウンスって?」

「ふむ、勇者が魔王を封印したときもあったな。確か、世界中の全ての者に表示されるものだったと思うぞ」


 アーロンはちょっと青褪めた。


「どうしよう、僕、家族に何も言わずに魔王倒しにきちゃったから怒られるかも」

「……子供らしいところがあって安心した」

「僕、もう成人してるよ?」

「む?お主はまだ13歳じゃろう」

「この国の成人は13歳なんだ」

「ふむ、儂から見ればまだまだ小童じゃ」

「むぅ」


 アーロンは頬を膨らまし、拗ねたが、すぐに真顔に戻った。


「その、貴方はこれからどうするの?」

「我か?我は折角自由になったのだから、世界中を旅しようと思う」

「その姿で?」

「いいや、人の形になれるから、竜人族に扮して旅をするつもりだ」

「……服はいる?」

「いるな。借りても構わないか?」

「いいよ。とりあえず布を貸すよ」


 アーロンは巻けるくらい大きな白い布を取り出して白い龍の近くに置いた。

 白い龍は光を放って縮んでいく。

 光が収まるとそこには白い布を纏った美形の男がいた。


「どうだ?」

「うん、良いと思う……僕、竜人見たことないから分からないけど」

「ふむ、では、竜人と主張すれば大体問題無さそうだな」

「たぶん……」

「まあ、竜人とちょっと違っても多少は問題ない。我は龍なのだからな」

「うん」

「そうだ、お主、名前はなんという?ずっと、お主と呼ぶ訳にもいかぬからな」

「えっと、僕はアーロン」

「アーロンか、ワールドアナウンスにもあったが、良い名前じゃな。勇者よ」

「そういう貴方はなんて名前なの?」

「我はヴァールハイトという」

「へぇ、なんて意味なの?」

「真実という意味らしい。母が付けてくれたのだ」

「そうなんだ、良い名前だね」


 そのとき、ヴァールハイトは何かが繋がったような感覚がした。


「む、我、アーロンの従魔になったようだ」

「ええ!?」

「まあ、良い。我は自由に旅をするが、良いかの?アーロン」

「うん、勿論。良いよ」

「まずは、服を確保しに行かねばな。さあ、行くぞ、アーロン」

「う、うん」


 アーロンはヴァールハイトの後を追いつつ、思った。


(あれ?僕が主人になったんだよね?)


 ヴァールハイトに主導権を握られている気がするアーロンだった。

 気がするというより、実際に主導権を握られているのだが。





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