トビアスに挨拶をしたロベルトとアーロンは、魔導列車で王都に向かった。
貸し馬車で王城にやってきた2人。
王城バッジを身に着け、シェードの執務室に向かった。
執務室の扉の横に立っている見慣れた騎士に挨拶し、少し話をするアーロン。
暫くして、話を終えたアーロンは「待たせて、ごめんなさい」とロベルトに謝った。
ロベルトは問題ないと言いつつ、扉をノックした。
「どうぞ」
扉を開けて中に入ると、シェードの机の上は書類の山が積み重なっており、床にも書類が溢れていた。
横に置いてある補佐官の机には、燃え尽きた補佐官が突っ伏し、眠っている。
「陛下、どうしたんですか?」
ロベルトは思わず挨拶もせずに聞いてしまった。
「ああ、これね、教会が原因というか、私の力不足だったというか……」
シェードは疲れているのだろう、歯切れが悪い。
「とりあえず、アーロン君、謁見の間に行こうか」
「えっ」
アーロンが目を丸くして驚いている内に、シェードは素早くアーロンの腕を掴んだ。
「さあさあ」
「うええ?」
シェードはアーロンを連れて、謁見の間に向かった。
途中で宰相も捕まえたシェード。
謁見の間に辿り着くと、ずかずか入って玉座に座った。
宰相はシェードの座る玉座の近くに侍る。
急いでやってきた侍従が、シェードから受け取った何かを金のトレイの上に置くのを横目で見つつ、アーロンは赤い絨毯の真ん中に跪いた。
「アーロン・フォン・シュタイン」
「はっ」
「貴殿を神託により勇者とする」
「……はっ、有難き幸せ、王国に栄光あれ」
「王国と共にあれ」
勇者任命書と書かれた羊皮紙と、黄金の麦畑が描かれたバッジを受け取ったアーロンは退出した。
執務室に戻ったアーロンは、ロベルトに愚痴を言いつつ、シェードを待った。
暫くして帰ってきたシェードを見るなり質問した。
「いきなり勇者に任命するとか、なんですか?」
「まあ、そうだねぇ。1週間くらい前にロドリゲス大司教とか色んな方に神託があってさ。アーロン君が勇者だって神託ね。それで、君なら魔王とかすぐに倒しちゃうだろうし、早く任命しとかないとって思ってね。1週間で勇者バッジを身に着けたアーロン君に便宜を図るように全貴族に通達して、勇者割引とか作ったんだよ。褒めて欲しいなぁ」
シェードは巫山戯ているが、目の下の隈が酷く、目が虚ろだ。
「でも、焚書とかして勇者の存在を消したのに、なんでですか?」
「うん、この国も安定しているからね、王族への忠誠心が昔よりは強くなった。例え、君が勇者になっても揺らがないと思ったんだよ。それに、神託は重要だからね」
アーロンは頷いた。
「……分かりました。とりあえず、寝た方が良いと思います」
「だよね、俺ってば頑張ったと思うんだよ。……ちょっと寝るね」
シェードは執務椅子に座ると、机に突っ伏し、寝始めた。
控えていた騎士が毛布を取り出し、シェードに掛けた。
「本日は対応が難しいと思われますので、また後日お願いします」
「あ、はい」
ロベルトとアーロンは執務室を出て、帰途についた。
転移門を使ってヴァルトに戻った2人は用意されたお昼ご飯をソフィアと3人で食べつつ、ソフィアに今まで知り得た情報を共有した。
「まあ、知らなかったわ。ヴァルト家って、勇者の家系だったのねぇ」
おっとりとしたソフィアらしい言葉にロベルトは和み、アーロンはやはり母上は母上だな、と思った。
「アーロンが魔王を倒すまで、旅行はお預けね」
ロベルトはソフィアのその言葉にショックを受けていた。
食後、アーロンは気になっていたことを聞くべく、私兵団で私兵を訓練させているヒューバートの元にやってきた。
「こんにちは、ヒューバート」
「いらっしゃいませ、アーロン様。私兵団にご用命でしょうか?」
「ううん、聞きたいことがあってさ、リートがどこにいるか知ってる?」
「リート殿ですか、彼ならば、精霊の森に向かいましたよ」
「そう、分かった。ありがとう」
アーロンは精霊の森に向かった。