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 ザフト公爵家に泊まりつつ、2人は秘密の書庫の本を黙々と読み進めた。

 2週間経って奥の部屋の本と手前の部屋の本の一部を読み終えた2人は互いの認識を擦り合わせる為に秘密の書庫で話し始めた。


「勇者関連の本には、勇者が魔王を極北の地に封印したことが書かれていたな」

「うん、どの本も大体一緒だったよね」

「焚書についてだが、どうも初代国王様の側近が主導して行っていたようだな」

「だね、まあ、勇者信仰が根深くて新政府に反発する人を減らしたかったんだろうけど」

「しかし、十神教会が新興宗教だったとはな。それを国教にするというのは思い切った判断だ」

「そうだね、まあ、十神教会の総本山がある大陸の南側は十神教会の国があるし、今では主流な宗教になってるから……まあ、崇めてる対象はたぶん神じゃなくて精霊だと思うけど」


 アーロンが最後に小さく呟いた言葉はロベルトに届かなかった。


「そうだな。……今では勇者信仰もなく、旧王国の名も忘れ去られているから、初代国王様の側近は政治家としては正しい判断をしたのだろう」

「うん、釈然としないけど」

「そうだなぁ」


 2人は溜息を吐いた。


「しかし、魔法の語源が、魔王の作った法という意味だったのは驚いたな」

「うん。まあ、魔王が作っただけだし、魔法を使ったら魔王に影響がある訳じゃないから勇者が率先して使ったという記述には吃驚びっくりした」


 啓太の手記には魔法に関する詳しい記述がなかった為、アーロンは本当に驚いたのだ。


「確かにな。まあ、魔王に何の影響もないなら、魔法は手段の一つとして扱うのが良いだろうな」

「うん、そうだね」


 その後も様々な歴史の記録書について2人の話は弾んだ。


「そろそろ、トビアスさんに挨拶して帰らないとな」


 ロベルトとアーロンはトビアスに私的な場では呼び捨てで構わないと言われている。呼び捨ては難しいので、さん付けになっているが。


「うん。あ、陛下にも挨拶した方が良いんじゃないかな?」

「……ああ、そうだな」


 ロベルトは陛下のことを忘れていたのだろう、ばつの悪そうな顔をした。


「とりあえず、トビアスさんに挨拶しに行こう」


 ロベルトとアーロンはトビアスの執務室に向かった。


「あ、アーロン君と、ロベルトさん」

「サーシャ嬢、こんにちは。アーロン、先に行っているよ」


 ロベルトはアーロンを置いて行った。


「今日も本を読みに行くの?」

「ううん。もう必要な本は大体読めたから帰るんだ。2週間もお世話になってるからさ」

「えー、もっといてもボクは構わないんだけどな」

「有難い申し出だけど、それは難しいな」


 サーシャはアーロンに近寄って小声でささやいた。


「で、ボクの勇者様は秘密の書庫の本で満足できたかな?」


 アーロンは目を丸くした。


「サーシャも秘密の書庫に入ったの?」

「そりゃあ、ボクはザフト公爵令嬢ですもの。まあ、最初は混乱してお父様と喧嘩しちゃったけど。あの時、アーロン君と偶々会えて良かったよ」


 アーロンはあの時のことを思い出した。


「ああ、あの時に……そっか」

「それで?感想は?」


 アーロンは苦笑した。


「ちょっと釈然としないところもあったけど、大体は良かったね」

「んー、焚書のところかな?」

「うん」

「確かにボクも釈然としなかったけど、お父様の話を聞いて納得はした」

「話?」

「初代国王様はとても悩んでおられたってこと。まあ、今、エレツ王国が安定しているのは、焚書とか十神教会のお陰ではあるよ。じゃないと、勇者の血筋を支持する派閥ができて、アーロン君が担ぎ上げられちゃうから」

「う、それは嫌だな」

「ふふ、まあ、悩むと良いよ、ボクも悩んだし」

「うん、分かった」

「ボクの勇者様なら、大丈夫だよ」


 じゃあね、と言ってサーシャは去っていった。


「僕も行こっと」


 アーロンはトビアスの執務室に向かった。




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