「陛下は、僕達の先祖が勇者だと知っておられるんですよね?」
この国の王だからこそ、知っているだろうとアーロンは思っていた。
「ああ、知っているよ。そして、君たちが住んでいる極北の地に魔王が封印されていることも」
「では、初代国王様は何故、勇者関連の本を焚書したのでしょうか?」
シェードは笑みを消し、真剣な表情を浮かべた。
「仕方がなかった、と言うのは余りにも無責任だろうね……。僕達は代々この秘密を背負ってきたから、この国を保って来られたと思う。敢えて、焚書のことを言うならば、政治的措置としか言いようがないね」
「政治的、措置」
「僕が説明しても言い訳みたいにしか聞こえないだろうから、西の公爵家──ザフト公に会いに行くと良いよ。僕から話を通しておく」
何故此処でザフト公の名前が出たのかアーロンは疑問に思ったが、突っ込みはしなかった。
「分かりました」
「じゃあ、ヴァルト侯爵。期待しているよ」
シェードは笑みを浮かべた。
「あ、そうそう、外にいるセドリックから君に話があるそうだから、聞いてあげると良い」
アーロンは頷き、ロベルトと共に部屋を出た。
「アーロン様」
「あ、セドリック卿」
セドリックは何か言いたげな様子だった。
「どうしたの?」
「その、アーロン様に騎士の誓いを捧げたいのです。駄目、でしょうか?」
セドリックの頭に垂れた犬耳がついているのを幻視したアーロンは、思わず頷いてしまった。
「あ、でも、騎士の誓いって一生に一度しかしないのが騎士道なんでしょ?僕なんかに捧げなくても……」
「なんかではありません。アーロン様は凄い力をお持ちなのに、
熱烈だなぁ、とアーロンは思いつつ苦笑した。
「そこまで言うなら、分かったよ」
「では、誓わせていただきます」
セドリックはアーロンの前に跪き、鞘に入ったままの剣を捧げるように持ち上げた。
「私、セドリック・フォン・ガードナーは、アーロン・フォン・シュタイン様に生涯従い、その身を守るとこの剣に誓います」
「受け入れます」
いつかのように光ったりすることなく、騎士の誓いは滞りなく済んだ。
「では、私は近衛騎士団を辞め、ヴァルトに向かいます。これからは一兵卒として頑張ります」
「え」
「では、アーロン様、すぐにアーロン様の護衛を勝ち取りますから!」
そう言うとセドリックは走って去っていった。
「嵐みたいだったな」
ロベルトがそう言うと、アーロンは頷いた。
「うん」
アーロンはロベルトと共に王城を後にした。
駅に着いた2人は、ザフト領に向けて魔導列車に乗る。
(ザフト公……サーシャのお父上だよね)
サーシャの顔を思い出しつつ、窓の外を眺めたアーロン。
空は清々しい快晴が広がっていた。