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 正装して転移門を通り、王都にやってきた2人は何故か待っていた近衛騎士団団長セドリックに案内され、謁見の間にやってきた。


(父上、今日って前から決めて手配してたのかな、用意が良い)


 などと思いつつ、ロベルトの隣を歩いて、アーロンは国王シェードの前までやってきて、跪いた。

 いつの間にかロベルトはアーロンの斜め後ろにおり、跪いている。

 シェードが口を開いた。


「アーロン・フォン・シュタイン」

「はっ」

「ヴァルト領の継承を認め、男爵に任じる。また、今までの功績を称え、侯爵とする」

「……はっ、有難き幸せ、王国に栄光あれ」


 侯爵という爵位に一瞬固まったアーロンだったが、頭を垂れてたまわった。


「王国と共にあれ」


 爵位と領地について書かれた羊皮紙の巻物2つを受け取ったアーロンはロベルトと共に謁見の間から出た。

 謁見の間の外では、セドリックが2人を待ち構えていた。


「お二人共、こちらへ」


 セドリックに案内されてやってきたのは、シェードの執務室だった。

 侍女が出した紅茶を飲みつつ、ロベルトとアーロンはシェードを待った。

 足音が近づくと、2人は立ち上がり、この部屋の主人を迎えた。


「やあ、二人共。堅苦しいのは無しだ。座ってくれ」

「はっ、お言葉に甘えて」

「分かりました」

「ロベルト殿、堅いぞ」


 シェードは笑いながら、2人の対面のソファーに座った。


「いきなり侯爵と言われて驚いただろう?」

「はい、事前に教えて欲しかったです」

「それだと面白味がないじゃないか、んんっ、すまない、本音が」

「ろくでもない本音ですね」


 アーロンはシェードをジト目で見た。


「まあ、私はロベルト殿の願いを叶えて今日アーロン君に侯爵位を授けたんだ。少しくらいお茶目があっても許されると思うがね」

「陛下」


 ロベルトがふるふると首を横に振っている。


「ロベルト殿、これは伝えておくべきだよ。そうだな、話は5年前。アーロン君が8歳の頃に遡る」


 シェードは語り始めた。


「私はお忍びでアルディージャにやってきていた。ついでにロベルト殿に陞爵の打診をするために領主館を訪ねた。あの時のロベルト殿は真っ青でな、こちらが申し訳ないくらい恐縮していた」


 シェードは楽しげに当時を思い出す。


「ロベルト殿に陞爵の話をすると、ロベルト殿は毅然とした態度で断ってきた。あの青褪めた様子からは考えられない態度だったな」

「すみません」

「いや、良い。ロベルト殿に理由を聞くと、この街の繁栄は息子の成果だと言った。つまり、アーロン君、君のお陰だとね」

「え?」


 アーロンは父の横顔を見上げた。どこか気恥ずかしい。そんな様子だった。


「それから、伯爵並みの責務は果たすと言ってね。伯爵並みの責務といったら戦争の時の従軍で動員できる兵士の数が最低千人は必要だと伝えたら、口元をピクピクさせて『やってみます』と言ったのは、ちょっと面白かったな」

「面白がらないで下さい、陛下。大変だったんですから」


 今、ヴァルト領には自警団も含めてヴァルト私兵が千四百人程いる。


「当時は伯爵が順当だと思っていたけど、魔導列車の普及や、トイレの普及にアーロン君が主に関わっているから侯爵にしたんだ。今度は五千人は最低必要だから、頑張ってね」


 シェードはアーロンにウインクした。


(ご、五千人……!?)


 アーロンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「まあ、気長に待ってるよ。それで、アーロン君も話があるんじゃないかな?」


 アーロンは目を丸くした。


「どうして分かったんですか?」

「最初からソワソワしていたからね、何かあるんだろうな、ってね」

「……お察しの通りです」

「伊達に国王はやってないからね。空気を読むのは得意なんだ」

「……では、聞いてくれますか?」

「勿論」


 アーロンは自分の中で考えを纏めつつ、言葉を選び、話し始めた。




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