ヴァルト山脈の一角にある洞窟に辿り着いた。
洞窟は深く、奥まで続いている。
カンテラの火を頼りに私は奥へ奥へと進んでいった。
やがて、洞窟の奥に薄っすらと灯りが見えた。
私は父ではないかと期待しつつ、奥にある広い空間に出た。
そこには、巨大な岩と、その前に鎮座する淡い光を纏った白い龍がいた。
「
私の気配を感じた白い龍は、ゆっくりその
「人の子か……ああ、我に力を捧げてくれた者の子か」
龍は人の言葉を紡いだ。
空気に響く不思議な声だった。
「力を捧げた?」
「そうだ、お前には語っておこう」
お前の父が何を成したかを──。
白い龍は父の使命を語った。
父が二神に託された使命は4つではなく5つだった。
最後の使命はこの白い龍に己の全ての力を渡すことだった。
魔力も霊力も果ては生命力も。
そんなことをすれば、死んでしまうことは父も分かっていた。
しかし、父は使命を果たす為に此処に来て、白い龍に全ての力を渡したという。
よく見れば、洞窟には白骨化した父の亡骸があった。
近くには父の愛剣が遺されている。
私は、父の亡骸を抱き、暫し泣いた。
「お前の父が捧げてくれた力のお陰で、あと三百年程は封印が保てるだろう」
白い龍は魔王の封印を見守る龍で、予想よりも早くに封印が解けそうだったので、二神に祈ったのだという。
そして、力が溢れていた父に白羽の矢が立った。
いつか『魔王を屠る者』が現れるその時まで封印を保つ為に。
父が捧げた力は白い龍を通して、封印強化を成したという。
私は、話してくれた白い龍に礼を言って、父の亡骸と剣をアイテムポーチに入れて下山した。
(僕が、もっと早くに産まれれば……)
アーロンは表情を曇らせつつ、読み進めた。
エヴァンはエルドの亡骸を埋葬し、剣を家宝とした。
そして、白い龍のいた洞窟で拾ったムーンストーンを龍に象って削り、それも家宝とした。
エヴァンは、エルドの手記と自身の手記、手紙を隠し部屋に隠した。
この頃、エレツ王国は国を挙げて勇者関連の本を焚書して、十神教会という新しい宗教を国教としていた。
万が一、見つかってはいけないからと、エヴァンは隠すことにしたのだ。
そして、エヴァンは家宝の白い龍に逸話を付け加え、後世に遺すことで魔王が封印された地の白い龍を尊ぶように仕向けた。
ヴァルト山脈に近づく者が出ないようにする為に。
手記の最後にアーロンへ向けたメッセージが記載されていた。
魔王を屠る者である子孫へ
父エルドは全てを賭して君に託した。
私も君に託すことしかできない。
どうか、魔王を屠って欲しい。
君の行く道が明るく照らされていることを願う。
エヴァン
アーロンは歴史の重みを感じた。
代々、血を繋いできて、今、アーロンが此処にいる。
時に血が流れ、時に犠牲を払った。歴史に残らない様々な苦労もあっただろう。
自分に託された使命を果たさないといけない、アーロンはそう思った。
コンコン
ノックの音が響く。
「どうぞ」
「失礼するよ、アーロン」
入ってきたのはロベルトだった。
「これから時間あるか?」
「うん、なに?」
「王都に行こうと思ってな」
「どうして?」
「それは勿論、お前にヴァルトを継がせるんだよ」
「ええ、僕、成人したばっかりだけど」
「成人したら継がせるつもりだったんだ。ソフィアも了承している。さあ、行くぞ」
ロベルトはアーロンにヴァルトを継がせたらソフィアと旅行に行くつもりだったので、ご機嫌だ。
そんな父を訝しげに眺めつつ、アーロンは後を追った。