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 王城強襲の前に、レジスタンスの拠点が騎士団に襲われる事件があった。

 その事件でエルドは勇猛果敢に戦ったとして、レジスタンスの英雄と呼ばれるようになったという。

 本人は恥ずかしいのだろう、このことに対する記述は僅かだ。


(もっと書いてもいいのに)


 アーロンはそう思いつつ、読み進める。


 エルドはレジスタンス活動の合間に、大神殿で神官長にいざなわれ、地下にあった勇者の手記と水晶を回収してアイテムポーチに一時的に保管した。

 いよいよ、王城を強襲するとなった日。

 アーサーとエルド率いるレジスタンスの武装した部隊は早朝の王城を包囲した。

 最早、騎士団に国王へ忠誠を誓う者はおらず、騎士たち自らレジスタンスを王城内に引き入れた。

 途中、まだ国王に忠誠を誓っていた忠臣と呼べる騎士たちがいて、苦戦を強いられた。

 それを乗り越えたアーサーとエルドは謁見の間にいた国王を見付け、二人で始末する。

 エルドはアーサーに国王にならないかと聞かれたが辞退し、極北の地と男爵位を貰った。

 そして、極北の地に作った領主館の地下を作り、そこに勇者の手記と水晶を安置したという。

 ここでエルドの手記は途切れていた。


(初代様があの地下室を作ったのか)


 アーロンはなるほどと思いつつ、何となく最後のページまで捲る。

 そこにはエルドが息子に向けたメッセージが記載されていた。




親愛なるエヴァン


愛する息子よ。

お前を一人にすること、申し訳なく思う。

だが、私は使命を果たさねばならない。

息子よ、どうか、その血を絶やさないでくれ。


エルドより




(もう、4つの神託は果たしていた筈なのに、使命?)


 アーロンは不思議に思いつつ、ヴァルトバングルの収納を見た。

 エルドの手記と共に入っていた本を取り出した。

 それは、エルドの息子、エヴァンの手記だ。

 最初のページには、こうあった。




亡き父、エルドの最期の偉業を記す。




 アーロンはページめくった。


 エヴァンは、エルドと、エルドを慕って極北の地にやってきた、とある高貴な血筋の娘アリシャの間に産まれた。

 産後の肥立ちが悪く、アリシャはエヴァンを産んでから暫くして亡くなった。

 乳母の適任者がおらず、エヴァンは牛の乳で育てられた。

 エルドはエヴァンが幼い頃からずっと領民の為に働き続けていた。


 エヴァンが成長して成人してから2年、エヴァンが15歳の頃、エルドは「使命を果たさねばならない」と領民とエヴァンに伝えてヴァルト山脈に向かった。

 エルドはそれきり戻って来ることはなかった。

 エヴァンはそれから3年、自身のスキル剣豪を修練させて、ヴァルト森を何とか抜けて山脈に辿り着けるほどに強くなった。

 そして、エヴァンは父エルドを探しにヴァルト山脈を登った。


(3年も経っているのに、戻ってこないということは……)


 アーロンは嫌な予感を感じつつ、ページを捲った。





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