身分の低いエルドの母は産後の肥立ちが悪く早々に亡くなった。
幸いにもエルドの母と親しかった侍女たちがエルドを気にかけて、本当の母のようにエルドを育てた。
すくすく育ったエルドはよく騎士の訓練場に入り浸って、騎士たちの訓練に参加するようになった。
優れた剣の才があったエルドは騎士団長の目に留まり、すぐに神石と呼ばれる希少な石を使う事となった。
この神石は潜在能力をスキルとして顕現させ、より才能を伸ばすことができると団長に説明を受け、使い、スキル【剣王】を顕現させた。
剣のスキルの中でも最も上位にあると言われるスキルだ。
エルドはエルド・ジパングではなく、ただのエルドとして髪を茶色に染めて騎士団に入団。
入団してからエルドは運命とも言える出会いをした。
将来、互いに親友と呼び合う仲になるシュヴェーアト公爵令息アーサー・フォン・バルシュミーデだ。
「公爵令息といっても公爵家を継ぐことがない三男坊だから気楽に接して欲しい」
エルドを平民と思い込んで接するアーサー。
本当は吹けば飛ぶような王子と知ったら、アーサーはどんな反応をするだろうか、とエルドは思いつつ、挨拶をしたことが今でも思い出せると記されていた。
エルドとアーサーは切磋琢磨して、共に騎士団の未来を担う人材になった。
しかし、その頃、各地で領主の圧政により平民の不満が爆発して、暴動が起こることが増えていた。
王都でもスラム街に人が増えたりするなど、治安が悪くなっていった。
そんなある日、暫く休暇を取っていたアーサーが深刻そうな顔をしてエルドの元にやってきた。
アーサーは語った。
ジパング王国で、起きていることを。
第十代国王はかなり性格が悪く、ずる賢い。
美しい女性には目がなく、とある貴族の美しい妻を自分のものにすべく、適当な罪をでっち上げ、妻以外の一族を処刑して、その妻と領土を手にしたという最悪なエピソードがある。
他にも女性関係の最悪なエピソードは山のように積み重なっており、多くの国民も善良な貴族たちも国王に反感もしくは憎悪すら抱いていた。
好色な国王は暴虐性も持ち合わせており、多くの奴隷を購入して、自分の気が済むまで殴る蹴るなど暴力を加えていた。
国王の側近や大臣たちもそのような人々が多く、国王に賛同する領主たちも似たような性格だったりする。
類は友を呼ぶとは正にこの事かもしれない。
国王一派は、自分たちを脅かす善良な領主たちを暗殺したり、税金を高くしたり、従わせたりして、その勢力を弱めさせていた。
アーサーの実家であるシュヴェーアト公爵家は善良な領主の筆頭であった為、領主も長男も暗殺された。
次男は馬車が落石に遭って片足と片腕が不自由になってしまったので、アーサーが実家を継ぐことになったという。
アーサーは密かに善良な貴族たちや国王たちに反感を持つ善良な国民と交流を重ね、レジスタンスを立ち上げた。
「エルドにも入って欲しいんだ」
エルドは迷いつつも、自身の秘密をアーサーに打ち明けた。
「俺、実は第十五王子なんだ。吹けば飛ぶような王子だけど」
アーサーは目を丸くした。
「うそ、だろう?だって、髪が」
「染めてるんだ」
「そうか……いや、それでもエルドはエルドだ。そんなことは関係ない。エルド、レジスタンスに入ってくれ」
「アーサー……ああ、分かった」
エルドはレジスタンスに入ることになった。
アーサーに認められたことで、エルドは髪を染めることを止めた。