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 自室に戻ったアーロンは、まず台座から出てきた本を読むことにした。

 その本は啓太の手記だった。




異世界転移25日目。

要望したら無地の本を貰えた。

とりあえず、これは言いたい。

米が食べたい。


それはさておき、僕がいるのは、東大陸の端にあるルールッタ王国という、ちょっと巫山戯ている名前に聞こえる王国だ。

東大陸の横にある世界で最も栄えていたとかいう中央大陸は魔王によって全て支配されているらしい。

あと、僕は神託の勇者だってさ。

僕が異世界転移する一ヶ月前くらいから大神官やら国王やら宰相やらに神託が降りて、黒髪黒目の勇者が来るって告げられたらしい。

この世界では、黒髪黒目は珍しいらしいからすぐに分かったって。

まあ、神様たちから説明は受けてたから、あんまり驚かなかったけど。


とりあえず、頑張ってみようと思う。




 啓太の手記には日々の生活について、戦闘訓練について、仲間たちについて、ホームシックについて、などなど記載されている。特に魔王に侵略された地域を遠見の水晶という魔導具で見た日は衝撃が強かったのだろう、結構な長文になっていた。

 神の石という神石の説明も記載されており、神石はその人の潜在能力をスキルとして引き出す石で、虹色の光が人体に入ることで引き出せると説明があった。


(聖石のことかな?)


 アーロンは疑問に思いつつ、読み進める。

 啓太は、魔王を封印する為に旅に出るときに、世界の平和の為にできることをしようという決意を固めていた。

 旅先で魔王の配下の龍を苦戦しつつも何とか倒しつつ啓太一行は魔王の居城に辿り着き、魔王を封印した。

 魔王がいた中央大陸は酷く荒れていたので、啓太は勇者として何とかしたいからと、中央大陸の西側は元あった国が完全に滅びていたのと二神から神託を受けたので、王国を作ることにした。

 ジパング王国という国を。

 仲間である剣聖と聖女は勇者を支える為に残った。

 弓聖であるハイエルフは魔王との戦いで四肢を失い、呪いを掛けられた為、王城の一角で療養することとなった。

 聖女なら治せるかと思うだろうが、魔王の呪いは根深く、呪いの影響で四肢も治すことができなかったらしい。


(んん?)


 もしかして、と思いつつアーロンは読み進める。

 唯一、賢者は故郷に戻っていったらしい。

 賢者の故郷はあの巫山戯た名前の王国ではないようだ。詳しくは記載されていない。

 啓太は王国を運営するのに苦労している様子が手記には事細かに書かれていた。

 ブラックだなぁ、と思いつつアーロンは最後のページに辿り着く。

 最後は聖女と結婚して、子供にも恵まれて大団円っぽく纏められていた。

 どうやってあの水晶とこの手記を台座に置いたかまでは書かれていなかった。


(叔父さんがあそこに置いた訳じゃ無いのかな?)


 そう思いつつアーロンは啓太の手記をヴァルトバングルに戻した。

 アーロンはなんとなく気になっていた手紙を取り出した。

 手紙の宛先は『まだ見ぬ資格ある者へ』となっており、差出人は『エルド・フォン・シュタイン』となっている。




資格ある君へ


魔王はヴァルト山脈にいる。

君に全てを託すこと、申し訳なく思う。

魔王の封印は君の代で自然に解けるだろう。

君なら何とかできると信じている。


エルド




(……丸投げ?)


 と思いつつ、アーロンは手紙と共に入っていた二冊の古い本の内、一冊を読む。

 それはエルドの手記だった。

 エルドの手記は晩年に書かれたものだろう、回想するように彼の生涯について記載されている。

 アーロンは最初のページから読むことにした。


 エルドはジパング王国の第十代国王が侍女に手を出して産まれた庶子だ。

 国王が侍女の嘆願を気まぐれで聞いて、第十五王子となった。

 継承権はあってないような、後ろ盾もない吹けば飛ぶ王子となった。


(なんか、ラノベにありそうな設定みたいな出自だな)


 アーロンはわくわくしつつ、次のページめくった。



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