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 アーロンは胃がキリキリと痛む思いで30日間を過ごした。

 マグノリアがことあるごとにアーロンと結婚したい発言をするようになったのをのらりくらりと躱したり。

 マリアがことあるごとにマグノリアを勧めてくるので、当たり障りのない言葉を選ぶのに苦労したり。

 マグノリアが同じ部屋で泊まろうとするのを睡眠薬などで何とか防いだり。

 そして、今日。

 やっと王都の王城に辿り着いたアーロンは感動で泣きそうになりながら、何故か、国王シェード・ヘーリオス・エレツと面談することになった。


(何故なんだ)


 シェードは若々しい二十代くらいに見える金髪赤目の美丈夫だ。

 アーロンは事前に侍従から35歳だと聞いていたので、凄いな、と内心思っていた。


「さて、アーロン君。私の娘マグノリアのことをどう思っているのかな?」


 答え辛い質問きたー、と思いつつアーロンは口を開いた。


「とてもお美しく愛らしくて笑顔が素敵な方だと思います」

「うん、よく分かっているね。マグノリアは可愛い。目に入れても痛くないくらいね」

「あはは」


 親バカかな、とアーロンは思いつつ、乾いた笑いを溢した。


「それでね、アーロン君。君をマグノリアの婚約者候補にするつもりなんだ」


 アーロンは目を瞠った。


(紅茶を飲むところだったら噴き出してたな)


 噴き出して国王に直撃したら大変なことになるだろう。


「今は身分が釣り合わないが、君なら大きな功績をあげるだろう。功績に見合った爵位を与えるつもりだけど、君はどんな功績をあげることができるかな?」


 脳裏に昔見た焚火の映像が浮かび、その時考えていたことを思い出したアーロンは、チャンスだと思った。


「魔導列車を造ります」

「ふむ、魔導で動く……馬車、ということか?」

「そうです。イメージとしては、馬車を沢山繋げて魔導で走ります」

「……多くの人々、多くの荷物を運べるようにする、ということかな。それは壮大な夢じゃないか?実現できるのかい?」

「では、今からミニチュアの魔導列車を造ります」


 線路は石の王と木の精霊王アルベロに手伝って貰って円を描くように作った。そして、ガイドにサポートして貰いつつ、ミニチュアの魔導列車を造る。外装はアダマンタイト。内装は木属性魔法で作る。動力は魔石だ。

 黒い蒸気機関車のようなミニ魔導列車がミニ線路を一定の速度で走る。

 その様子を国王シェードは若干驚いた様子で見ていた。


「あまり驚かないんですね」

「嗚呼、驚いてはいる。実はお忍びでヴァルト領には行ったことがあるんだ。君が色々と凄い機能のモノを作りまくっているのは知っていた」

「はあ」

「だからこそ、君には功績を上げて、爵位を上げて貰い、馬鹿な貴族どもを排除してもらいたい」

「え、マグノリア殿下はどこいったんです?」

「ああ、つい本音が。マグノリアはまだまだ私の娘でいて欲しいくらいなんだ。嫁に出すのは寂しくてね」

「そうですよね」


 アーロンは頷いた。


(父親って娘が可愛いっていう人が多いからなあ)


 アーロンは微笑ましそうな表情で国王を見た。


「君、本当に9歳?なんか表情が」

「9歳です」


 アーロンは即答した。


「……まあいいか、この魔導列車は止まるのかな?」

「えっと、はい、【STOP】」

「すとっぷ?何かの呪文か?」

「えっと、呪文ではなくキーワードです。【止まれ】と同じ意味合いの言葉です」

「へえ、実際の魔導列車は止めるときどういう風に停めるのかい?」

「スイッチ……押し込むと停められるような装置を付けて、ゆっくり減速して停まるようにするつもりです。勿論、緊急停止もできるようにするつもりです」

「魔物対策はできるのかい?」

「勿論。魔導列車や線路に清潔と温度調整と魔物除けと結界の魔法陣を刻むつもりなので。普通の魔物は寄って来ないですし、結界はドラゴンでも壊すのは難しいと思いますよ」

「……ドラゴンが襲ってくるなんてことがあったら国の危機だね。普通はないよ」

「そうですね、例えです」

「どれくらいの期間で作れそうなのかな?」

「魔導列車はすぐにでも。線路は距離があると思いますので、時間が掛かると思います。たぶん、王都から隣の街まで1週間くらいは掛かるかと。線路つまりは魔導列車を走らせる道ですね、この線路を引いて良い場所を指定して貰う必要があるので、その期間も必要ですね」

「実用化はすぐにできそうだね。分かった。大臣たちと話を詰めてから、現場の担当者たちとも話をして線路を引く場所を決めよう」

「商人や冒険者にも意見を貰った方が良いです。彼らの方が地理に詳しい筈です」

「ああ、そうだな。分かった。そうだ、アーロン君」

「なんですか?」

「君も大臣たちとの会議に参加しよう」

「はい?」

「よし、決まり!」

「ちょ、え、ええー!?」


 アーロンはシェードに手を引かれて国王と大臣たちの会議に無理やり参加させられた。

 しかし、大臣の大半がご年配の方が多かったので、孫に向けるような表情で見てくる大臣が多く、スムーズにアーロンの話は通った。

 そして、アーロンはこれから学園に通うまで魔導列車に注力することが決まってしまった。

 本日は雷月(時期的には9月のこと)の21日なので、1年後までだ。因みに、学園が始まるのは、来年の雷月10日だ。アーロンの前世に照らし合わせると、ヨーロッパと同じような時期だ。


(後で、ビデオ通話で父上と母上に説明しなきゃな、それから、この1年は貴族との面談の予約も断って貰おう)


 そう決意したアーロンは客間に案内されるまでヴァルトバングルの機能の一つ、マップを見て線路を引く場所をつらつらと考えていた。





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