王家の使いがやってきたのは、ロベルトたちが新領主館でほっと一息ついた頃だった。
王家の使いによると、王妃たちが泊まっている部屋のお手洗いを王城にも付けて欲しいので、侍従長のセバスチャンと詳しい話を詰めて欲しいという内容だった。
侍従長なら、まだ緊張しないかもしれないと、ロベルトはソフィアとアーロンを連れて侍従長が待つ迎賓館のロビーにやってきた。
「こちらのロビーは自由に使っても良いということでしたので、こちらで話を詰めたいのですが、宜しいでしょうか?」
「勿論です」
王城の侍従長は例え、元が平民だとしても王城の侍従を纏める立場にある役職なので、貴族と同等の扱いになる。
なので、セバスチャンとロベルトは互いに敬語を使っている。
「妃殿下たちが泊まっている部屋のお手洗いを王城に付けたいのですが、職人を借りることは可能でしょうか?」
「……その、職人は此処にいる息子なんです」
「はい?」
「セバスチャンさん、言葉だけじゃ信じられないと思いますので、僕の手を見て下さい」
アーロンの掌から光が溢れ出すと、浄化石ができていた。
「この石は浄化石です。触ってみて下さい」
セバスチャンは浄化石に触れてみた。
淡い光がセバスチャンを包んだ。
光が収まったので、セバスチャンは手の甲を触ってみた。
潤っていて、艶々している。
頬を触ると、まるで若返ったような手触りだった。
「この浄化石は浄化だけでなく、肌を最適な状態にする効果もあるんです」
「素晴らしい!アーロン殿」
セバスチャンはアーロンを手をがしっと握った。
「是非、王城でお手洗いを作って下さい」
「あー、一つお願いがあるのですが」
セバスチャンは首を傾げた。
王妃はきょとんとした表情を浮かべた。
「てんいもんを作りたい?てんいもんっていうのは?」
「この階に来るときに使用した転移装置と似たようなものらしく、遠距離を繋ぐ門ということです」
因みに、転移門も石製なのでアーロンのスキルである石の王で作ることができる。
「嗚呼、転移門ね、そう、その転移門について詳しく教えてくれる?」
「転移門は門と同じ見た目だそうです。ただ大きいので、それなりの広さが必要です。あとは、転移門に登録された人物でないと使えないようになっているそうです。ですので、誰しもが使える訳ではありません」
「そう、王都とヴァルト領を繋ぎたい理由は?」
「その、アーロン殿は来年の雷月(時期的には9月)に、王都の学園に通い始める予定です。休みの日にヴァルト領に帰りたいらしく」
「ふふ、面白そうな子ね。良いわ。転移門くらい。むしろ、私たちもヴァルト領にいつでも行きたいから、有り難いわ」
それは迷惑なんじゃ、とセバスチャンは思ったが、口が裂けても言えない。
そして、王妃たちは1週間滞在し、帰りはアーロンを連れて王都に向かった。
「(流石王家の馬車は揺れが少ないなぁ)」
アーロンはちょっと現実逃避しつつ、笑顔の王妃を見上げた。
「アーロン君はおいくつ?」
「えっと、9歳です」
「まあ、うちのマグノリアと同い年なのね!お誕生日は?」
「神月の11日です」
「あら、リアは女神月の22日なの。アーロン君の方がお兄さんなのね」
「そうみたいですね、マグノリア殿下とは、学園で会えそうですね」
「はい、楽しみにしておりますわ、アーロン様」
何故かマグノリアがアーロンのことを恋する乙女のような表情で見てくるので、アーロンは戸惑っていた。
マグノリアはこの1週間でアーロンが素晴らしい装置をたくさん作っていることや、美味しい食材を作るために様々な工夫をしてきたということを知った為、アーロンを尊敬していたし、何より人柄が良いということと、見た目も好ましい為、未来の旦那様候補として爵位は物足りないが、全然有り。むしろ、結婚したい。という思いになり、恋する乙女になってしまったのだ。
「僕も学園に通っているから、アーロン君は後輩になるね」
「そうなんですか、よろしくお願いします、シリウス殿下」
「シリウスは今、生徒会長をしているのよ。何かあったら頼りなさい」
「あはは、程々にね」
シリウスは苦笑した。
「それより、シリウス。大学に通うつもりだと聞いたけど」
「うん、もっと学びたいんです。そして、大学院にも通いたいんです。母上」
「まあ、将来は何になりたいの?」
「兄上が国王になったとき、兄上の補佐をしたいんです。そして、外交で役立つ人になりたいんです。この国が戦わなくても良いように」
「そう、だから色んな夜会にも出て、慈善活動もしているのね」
「はい、人脈は外交に必要ですし、様々な人と接することで、経験が積めますから」
「貴方の兄は社交的ではあるけど、カリスマ性が高いから理解され難い。貴方は周りの気持ちが分かる優しい子だから、兄と貴族、そして国民の架け橋になるでしょう。その上で、国と国を繋いでいって欲しいわ」
「はい、母上」
マリアは優しい笑顔を浮かべた。
「マグノリア」
「はいっ」
自分に話が回ってくると思ってなかったマグノリアはピンと背を伸ばした。
「貴女は何か夢はあるの?」
「えっと、もっと勉強してやりたいことを見つけたいです。それから」
マグノリアはアーロンの方を見て、ぽっと頬を染めてから言った。
「世界一幸せなお嫁さんになりたいです。お母様」
「まあ、素敵ね。よろしくね、アーロン君?」
「あ、あはは」
アーロンは何も言えず、笑って誤魔化した。
(
内心叫んでいたが。
アーロンは、馬車の外にいる護衛として付いてきたリートとヒューバートに助けを求めたかった。